グリーンジョブ初心者のための、いまさら聞けないESG(2)~ESG経営の源泉としての「マーケティング」~ | グリーンジョブのエコリク

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2024.4.19

トピック

グリーンジョブ初心者のための、いまさら聞けないESG(2)~ESG経営の源泉としての「マーケティング」~

前回のコラム (1)「ESG経営」の生まれた背景と、企業活動における3つの側面 で説明したように、ESG経営を企業の業務活動で大別すると、3つの側面があります。今回はその3つめ、「マーケティング」に関わる側面をご説明します。
マーケティングは企業の価値・利益の源泉なので、マーケティング部門の方に限らず、どなたにも関係があり知っておいていただきたい内容です。

「サステナブル・マーケティング」のホンネ

一般的に、「マーケティング」とは、市場のニーズやトレンドを分析し、商品やサービスの価値を伝える活動を指します。BtoCなら生活者、BtoBならクライアント企業に対して自社製品やサービスを「売り込む」ための活動で、従来は営業企画や広告宣伝に関する部署が立てた戦略に従って、営業系の社員がそれを伝えるという昔ながらの「営業」の文脈で語られてきました。

最近では、AIを駆使した顧客や市場のデータ分析など、「方法論」の進化に対する注目が高まっています。また、ESGとの関係に関しても、「環境や社会問題に関心の高い消費者が増えているので、ESGに取り組む企業やブランドへの好感が購買行動につながる」という一般的な説明もよく目にします。

ただ、現実はそれほど単純ではありません。もし本当にその説明どおりならば、市場は環境配慮型商品、エシカル商品だらけになるはずですが、ご承知の通り普通のスーパーの棚で目にすることはあまりありません。なぜならば、サステナブル製品、エシカル商品の製造プロセスにおいては、それらに配慮しない大量生産式商品に比べて、コストがかかることが多く、そのプレミアムを販売価格に転嫁できないからです。その結果、多くの企業が一度はそういうサステナブル製品を生産してみたものの、売れ行きが悪いとしてそっと姿を消していくのが現実です。

ではどうしたら、販売価格に転嫁できるのでしょうか? 購入者がサステナブルであることを商品価値として認識し、それに魅力を感じて、支払い意思額として受け入れてくれるようなマーケットを創造することが必要になります。それを媒介する仕事が「マーケティング」なのです。

Transforming Our “Market”

皆さんよくご存じのSDGsですが、これが発表された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、「我々の世界を変革する~Transforming Our World~」が正式名称です。トランスフォーム、つまり、形を変えるくらいの本質的な変革を意図しています。

自分が企業活動に関わることで社会を変革したい、新たな生き方・働き方として「グリーンジョブ」を選択されようとする皆さんにとって、既存の価値観の中で、売り方の工夫でモノを売る営業活動をすることだけでは、社会変革への溢れる達成感や自己実現の満足感を得られないかもしれません。

現実の世界は経済活動を中心として動いており、経済活動を左右する最大のドライバーは「市場、マーケット」の変化です。だとすれば、市場・マーケットの創出に関わることができる、企業という組織において、市場の変化に関わることが出来る「マーケティング」の仕事は、実は、一番ワクワクする「グリーンジョブ」のひとつでしょう。

グリーンジョブとしてのマーケティング戦略

単なる営業職ではなく、「マーケティング」を入り口にして、社会変革を先導する、サステナブルマーケティングをベースに、企業内で自らのプレゼンスを高めるためには、以下の戦略が必要です。

  1. 戦略の1番目は、商品開発・企画部門への働きかけです。環境・社会への配慮が自社商品の「機能価値」アピールに必要であると、この部門のメンバーに働きかけることが出来るのは、販売現場の第一線に居る社員だけです。どの企業も社長の声の次に強いのが「現場の声」だからです。
    自然の喪失が事業活動のプロセスでどのようなリスクにつながるか、逆に積極的にその保全に取り組むことでどのようなチャンスを生じるかを考えて、提案しようとしているサステナブル製品が事業プロセスにおいて生み出す「サステナブル価値」とそれに対する顧客の反応を商品開発・企画部門に現場の一次情報として提供することです。この関係が築ければ、重宝されることは間違いありません。
  2. 戦略の2番目は、調達部門への情報提供です。原材料の調達に関わるこの部署はこれまで、品質・コスト・納入(QCD:Quality/Cost/Delivery)を絶対的な要請として、業務に取り組んできました。ただし、調達部門は多くの取引先との交渉の中で、サプライチェーンがESGの最先端テーマになりつつあることは気づいてはいます。つまり、ESGの要請の流れは理解しています。ただ、法規制化されていない分野でどこまでの配慮をすべきかの判断や、そのための原材料コスト上昇の甘受範囲の判断についての情報を必要としており、ここでも、現場の声が重視されます。一般的な環境保全が大事という環境専門家視点の抽象論ではなく、顧客がその環境配慮型製品をどこまで受容可能かについてのリアルな声です。
  3. そして、何よりも大切なことは、マーケティング部門の皆さん自身のアンテナ感度のアップです。それは、単なる知識の習得、というよりも自分が属する企業をツールとして「事業を通じてどのような社会を創ろうとしているのか」を自分自身の言葉で語れるように、自問自答を繰り返すことです。これが出来れば、戦略1,2の社内に対する情報提供もお客様に対する自社製品の紹介も自信をもって伝えられるようになり、その態度が皆さんへの本当の信頼になるのです。そうなれば、これほど楽しい仕事はありません。

どのような、ESG戦略の推進も、事業活動も、情報開示も、すべては、エンドユーザーが当該企業の目指す世界像を理解してくれないと始まらない、という意味で、マーケティング活動は企業の価値・利益の源泉なのです。
この推進の仕事に転職、もしくは現職で新たに挑戦するには、必ずしもサステナビリティ推進担当としての業務経験が必須というわけではなく、社会の変化を感じ、多様な人間関係を読み解いてきた知識や経験が役に立ち、論理的思考や洞察力ももちろん、それを支えてくれるでしょう。

皆さまのグリーンジョブを通じて社会を変革したい、という想いを応援しています。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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