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2023.11.6

トピック

生物多様性の「影響」と「依存」〜次代の成長企業選択のカギとなる新視点

企業への就職を考える際に、果たしてこの企業が将来も成長するのかが大きな判断基準になりますが、一体どのような情報源からそれを判断するかは、多くの求職者に共通の悩みだと思います。企業のリクルートサイトを見るとどの企業も素敵なメッセージが並んでいるし、先輩社員のコメントはどれも魅力的だし…。

皆さんは企業情報収集の過程で「ESG投資」という言葉を目にされることがあると思います。企業に投資をする機関投資家は、個人投資家のように短期で売買を繰り返すのではなく、年金資金を運用したりするため、長期の時間軸で投資先の企業群を判断します。長期スパンで企業の持続的成長の可能性を評価する手法という意味で、就職・転職における企業の選択にも参考になる情報が沢山あります。

その機関投資家が、現在、企業の将来性・成長の可能性を読み解く大きなカギとして注目しているのが「生物多様性」です。「生物多様性」と聞くと希少な種を守る活動をイメージしがちですが、世界総GDPの半分以上に当たる約44兆ドルの経済価値創出が自然と生態系サービスに依存しています。そのため、経済・金融の将来に対する影響は大きく、実は最近、これに関わる世界的な提言が行われました。今回はそれについてご紹介します。

2023年の9月に、世界の機関投資家等が参加する「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」という国際組織が、企業等の活動が自然に与える影響を把握し、開示するための初の国際的な枠組みの最終提言を公表しました。これは、生物多様性やよって立つ生態系保全を「自然資本」と捉え、生態系の破壊や生物多様性の消失が、気候変動と並ぶ重要な地球環境課題となるだけでなく、企業の存続に大きな影響をもたらすものだという実態を直視したものです。そのため、企業の生物多様性保全に対する取り組みが、企業の資金調達や企業価値の評価、ひいては経営に大きく影響を与えることになるとして、企業に、サプライチェーン全体を通じた自然へのインパクトやリスク、機会の把握と開示を求めることが決められたのです。

※Task Force on Nature-Related Financial Disclosures

このTNFDのフレームワークの中で、就職・転職の企業研究の際に参考になるのが「影響」と「依存」という視点です。例えば、生物資源を直接に原材料とする農林水産業、食品業界や建設産業は、過剰な開発や採取によって生物多様性を損なうおそれ(=影響)がありますが、反面、生物資源の恩恵無しには事業が存続し得ないこと(=依存)を直視した上で、持続可能な生産方法による産品の適正価格での購入や事業支援をすることで、結果的に生物多様性保全に貢献することも可能です。それ以外の製造業でも、原材料調達や廃棄物の処理などでやはり生物多様性と間接的に関りを有しています。

就職や転職を考える際、その企業の持続的成長の可能性について考えていくと良いと思います。まず①その企業が、生物多様性に対してどのような「影響」を与え「依存」しているかを把握し、それを踏まえて次に、②リスクや機会に対してどのような活動施策や目標を掲げているかを調べ、自分がその企業でどのような社会的課題の解決に関わるかという風に考えると、キャリア構築へのモチベーションを深める契機にもなるでしょう。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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