コラム

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測量コンサルタントへの期待

2018.11.1

インタビュー

瀬戸島 政博 氏 | 測量コンサルタントへの期待

測量技術の教育研修や測量検定業務などで発展を続けている「公益社団法人日本測量協会」。
専務理事の瀬戸島様に協会の業務や業界の動向、SDGsへの貢献などをお話しいただきました。

公益社団法人日本測量協会についてお話しください。

本協会の設立自体は1951年からですので設立から68年近く経過しています。平成25年の法人改革があり、公益社団法人を目指して、現在に至ります。
本協会の大きな特徴は、個人が正会員であるところです。多くの協会が関連する会社等をメンバー・会員として協会を構成しています。それに比べ私共は測量士、測量士補、土地家屋調査士などの国家資格を持っているような方や、あるいは測量に興味がある方、あとは学生さんや、大学の先生といった方々が個人の会員として所属し、年々その数が増え、現在は1万450名ほどの規模となりました。

どのような業務をされているのですか?

本協会の主な業務は3つで、本部と全国10支部をネットワークして対応しています。

1つ目は「会員業務」で、1万人を超える個人の正会員、準会員(学生会員)、それから賛助会員(法人)約2,200社向けに会員対応を含め様々な業務を行っています。月刊『測量』の発行のほか、数多くの測量関係の専門書や入門書などの出版もしています。

2つ目は、教育・研修業務です。教育研修の部分は体系にして3、4つ柱があるのですが、大きく分けると、まず測量士・測量士補という国家資格の上乗せ教育で、専門的な測量技術者を目指すための教育研修および認定試験からなる地理空間情報専門技術者、この業界では最高峰の民間資格といわれている認定試験による空間情報総括監理技術者、などの認定資格を出しています。認定試験以外にも、今はUAV(ドローン)など新しい測量の技術がどんどん出ているので、そういった最新技術の教育なども行っています。

3つ目は測量検定業務です。現場等で使用する測量機器がきちんとした精度が保持されているか、測量した基準点の成果、作成した地形図(地図)に誤りがないか、これらの検定を全て行っています。これらの測量検定業務の統括的な拠点として、今年9月につくばエクスプレス「万博記念公園駅」のすぐ近くに新築事務所(日本測量協会技術センターつくば事務所)を開設しました。

瀬戸島専務のこれまでのご経歴をお話しください

1973年に大学を卒業して国際航業(株)(測量事業部門)に入社し、航空写真測量や航空写真を利用した環境調査を経て、人工衛星画像を用いた環境調査や防災に役立てるリモートセンシング技術の応用といった新規性の高い調査・コンサルティングなど研究要素を持った技術開発的な仕事を多く経験しました。その間、社会人博士課程として長崎大学に進学し、博士(工学)を取得しました。

退職する数年前には空間情報技術を里山の利活用と保全管理に使っていくための技術開発に従事し、その間に発表した論文を九州大学に提出し、同大学芸術工学部から二つ目の学位となる博士(芸術工学)を取得しました。

あとは日常的に業務を実施し経験を積む中で技術士資格を取得していきました。測量コンサルティング業務をやっていると測量士はもちろんですが、技術士が必要になってくるので環境、防災、森林、農業と接するチャンスが多かったので、その都度資格取得のための勉強をして、国際航業(株)の在職期間中に7技術部門・9技術士を取得することができました。

リモートセンシングは、狭い範囲だけで捉えると画像処理という専門分野だけに止まってしまい勝ちですが、画像処理した結果をどのように使うか、現実の世界に落としていくことがないと技術は活きていかないので、私はそこを真正面に捉えて仕事をしていきました。そうすると、森林をやっているときは森林の勉強をしなくてはいけないし、農業をやっているときは農業を・・・ということで、徐々にそれらの利用分野の技術士が取れるようになってきました。

技術士資格を取得することによって、お客様も専門家ですので共通の言葉で語ることができ、お客様からの信用も得られました。もし、リモートセンシングの画像処理だけを私がやっていたとすれば、お客様と十分な言葉が相通じなかったと思います。資格を持つことで、「この人は森林分野の技術士」ということで、相手も安心していろいろな相談ができますし、技術的な話も聞いてくれるようになります。そういうチャンスに恵まれたのも国際航業(株)での仕事のおかげだと感謝しております。

どのような経緯で日本測量協会に移られたのですか?

前職は私自身も大変面白かったのですが、ふと考えてみた時に、一つの会社で30数年いろんなことをやらせてはいただきましたけど、見えるところは「企業のために」というところで、業界全体を見ることはなかなかできませんでした。この業界に新弟子時代から育てていただいた恩返しではないですが、もう少し会社という枠を超えて、社会に役に立つようなことをしたいなと思ったのです。

ここで私がやりたいと思った仕事は技術者教育です。大学生の教育は東京農工大学の農学部で都合十数年ほど非常勤講師を経験し、東京大学生産技術研究所の客員教授も2年半経験いたしました。専業の教授ではありませんが、大学生との接点は数多く経験することができました。それ以上に業界の人たち(技術者)をどのように育成していくか、さらにより高いレベルまで向上させるにはどうすべきか、広く測量・地理空間情報技術者の教育研修に携わりたいと思った次第です。

現在の業界の動向を教えていただけますか?

いま「G空間社会」と言われ、その現実の世界や近い将来の利便性の高い私たちの生活像を伝えるイベントである『G空間EXPO』を毎年秋季に産学官連携で開催しています。今年も11月15〜17日に『G空間EXPO2018』が日本科学未来館(東京お台場)で開催されます。地理情報空間技術、衛星技術が一体化して非常に利便性の高い社会になってきている中で、新しい技術がどんどん入ってきています。

宇宙からの人工衛星データを利用した衛星測位(GNSS)はセンチメートル級の計測が可能となり、それを用いた自動運転など大きな話題になっています。
もう少し高度レベルを落とした地上に近いところでは、航空機搭載の航空レーザスキャナによる測量に加えて、最近ではよりパワーの強いグリーンレーザによるスキャナを用いた河や海の底を測深する技術が注目されています。プラットフォームをもう少し下げていくとUAVがあります。UAVにカメラやレーザスキャナを搭載し、最近では機能的に航空機と同じレベルになってきています。
さらに地上まで目を落としていくと、自動車にレーザスキャナやビデオカメラなど複数のセンサを搭載して走行しながら道路およびその周辺の地物を計測していくモバイルマッピングが稼働しています。航空からの測量で市街地の地図を作成していく場合、頻繁に地物や土地利用が変化していく街の姿を地図上に更新していくには、その度に航空からの測量を実施しなければなりませんが、今は刻々と変わる街の変化をモバイルマッピングで繋いでいくことができるようになっています。

このように測量は今大きく変わっています。それだけに基本測量や公共測量といった基盤となる測量・地理空間情報の取得や構築等を担う測量技術者は、自己の専門技術を深めるだけでなく、現在はその専門技術の深化に加えて、GNSS、航空レーザ測量、航空レーザ測深、UAV、モバイルマッピング等々の多種多様な最新技術についても熟知していなければなりません。一昔前であれば自己の専門技術だけを深化させる謂わば「I型の技術者」が求められましたが、今や「I型」に加えて水平方向に広がった関連する測量・地理空間情報技術にも精通した「T型技術者」が求められる時代になっていると思います。

このような背景から日本測量協会が教育研修していくという意味合いは凄くあるし、やっていかなくてはいけないことがたくさんあります。

一昔前であれば自己の専門技術だけを深化させる謂わば「I型の技術者」が求められましたが、今や「I型」に加えて水平方向に広がった関連する測量・地理空間情報技術にも精通した「T型技術者」が求められる時代になっていると思います。

SDGsについてどのように見ていますか?

17項目の中で関連するところは、都市の安全、強靱化とか色々ある中で、「防災」は確かにあります。災害が起きた時に被災実態を把握するために最初に動くのが測量業界関係の人たちです。なぜすぐに出ていけるのかというと、安全で迅速な測量・調査手法等を熟知しているからです。人工衛星、航空機、さらにはドローンなど多段的な方法を駆使して被災実態を把握でき、発災直後の状況確認から災害査定まで行うことができます。復旧には家屋等の半壊や全壊などをいち早く調査して、それを査定しなければなりません。これは被災者にとって重要な問題であり、測量分野の方々が日夜頑張っています。

土石流で土が被ってしまった、山腹崩壊で山の形が変わった、そのような実態を迅速に測量調査し、先ずは地図(被害実態図)をしっかり作らないと、どこにどんな対策を立てるかなど、基本的な復旧策も立案できません。さらに復旧段階が進むと、より精細な測量が実施され、復興計画等に利用される様々な測量成果を整備していきます。このように災害の発災時から復旧さらには復興に至るまで測量が基盤技術として絡むのですが、意外と測量の人たちの活躍している姿や貢献などが社会に十分に浸透していないことは辛いところです。建設業の方々は橋を架けたり、ダムを造ったりというように成果が見える形で残せるのですが、その形を残すためにやらなければならないのが測量で、測量がなかったら立派な建造物もできません。けれど、最後の完成形だけを私たちは見ているから、これは○○建設が造ったトンネル、ダムとなるのですが、その前に測量の人たちの仕事があるのです。

これらは広報活動が重要になりますね

大手の測量会社は災害が起きたときに必ず航空写真を撮る、あるいは航空レーザ測量を実施する。さらには衛星画像を解析する。それらの情報から災害の現況を把握して、公の機関に提供したり、各社HPで公開しています。また、国土交通省国土地理院のHPには災害以外にも多種多様な地理空間情報が公開されていますので併せてご覧下さい。

私たちの業界では、イベントや出前講座などを通じて一般の方々に測量・地理空間情報技術やその利活用などについて直接的に広報・普及していくことに努めています。そのような広報活動は今後とも積極的に継続していかなければなりませんが、もう一つ考えなくてはいけないのは、間接的な広報です。テレビ番組やマスメディアを通じて我々の持っている技術や情報を公開して知ってもらう、よく芸能人が番組で凄い技術に関心したりしますが、「測量技術はこんなに凄いのか」と、業界に関心を持ってもらう、そうした間接的な広報もしっかりやっていかなければなりません。近々開催の「G空間EXPO2018」では4Kや8Kの高解像テレビ画面によるみせる化技術が話題を呼びそうですが、私たちが航空から測量した極めて緻密なデータを最大限に表現できるツールが登場してきたことで、なお一層、間接的な広報に弾みがかかると思います。同時に、一般の方や若い人たちにも共感を持ってもらえるのではないかと思います。

色々な人に関心を持ってもらうことで測量業界もオープン・イノベーションが進んでいきそうですね。それに対応するためにも、技術者にはさらに多くのことが求められそうです。

測量技術者という範疇から測量コンサルタントへ。そういう脱皮が必要で、そのための糸口なるような教育研修などによる支援策を進めていかなくてはいけないと思っています。
今までもこれからも精緻な測量成果を世の中に供給していくことは測量技術者の使命でありますが、折角それだけの技術を持っているのだから、その先にある測量成果の利活用なども積極的に自己領域に含めれば自分たちの業務の幅が広がりますし、新たな技術そのものに興味を持つ人も出てきます。苦労していいデータを取得して、それを自分たちがまた使って、より高い創造性を発揮できるということが分かると、改めて測量全体に魅力が持てるし、公共に役立つことに繋がるのではないでしょうか。

いい橋を造るためには、いい測量のデータと「これをこう言う風に使えばいいですよ」というアドバイスやコンサルティングがあってこそです。その意味で測量は非常に公共性の高い仕事だと思います。この世界の人はそういったことを今まで「当たり前のこと」と思って言わなかったところがあって、結構奥ゆかしすぎたのかもしれませんね。昔でいえば「沈黙は金」でしたが、今の時代は「沈黙は泥」かなと私は思うので、日本測量協会は率先して外に向けて発信していきたいと考えています。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

瀬戸島 政博(せとじま まさひろ)

瀬戸島 政博(せとじま まさひろ)

公益社団法人日本測量協会 専務理事

国際航業株式会社にてリモートセンシングを応用した技術開発に従事。東京大学生産技術研究所客員教授などを経て現職。

博士(工学、芸術工学)技術士(7技術部門9技術士)、測量士、空間情報総括監理技術者

公益社団法人日本測量協会

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