コラム

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都市の緑を評価し、支援する

2018.6.20

インタビュー

菊池 佐智子 氏 | 都市の緑を評価し、支援する

緑の普及啓発や緑のまちづくり支援などで発展を続けている「公益財団法人都市緑化機構」。
企画調査部研究員の菊池様に組織概要や緑化ビジネスなどについてお話しいただきました。

都市緑化機構の組織概要と緑化ビジネスについてお聞かせください。

都市緑化機構という団体は公益財団法人です。一般の皆様に公益の立場から緑について情報発信しております。

具体的には

  1. 緑の普及啓発活動
  2. 緑のまちづくり支援
  3. 緑の評価
  4. 情報発信
  5. 調査研究・技術開発

という5つの分野について業務を行なっています。

1.「緑の普及啓発」は、今年は山口県、来年は長野県で開催されますが、毎年、全国のいずれかの都市で、「全国都市緑化フェア」を主催しています。地域の緑を盛り上げるのに併せて、人の生活に関わっている公園などの都市の緑を皆様に広く知っていただこうということが主な活動です。昨年は、神奈川県横浜と東京都八王子市で開催しました。

2.「緑のまちづくり支援」というのは、みどり豊かなまちづくりを応援する3つの表彰制度「都市の緑三表彰」があります。緑化活動は、計画・実績・技術から成り立っていますので、それぞれの優れた取り組みを表彰します。 具体的には①緑の事業の実績(緑の都市賞)、②緑を創る計画(緑の環境プラン大賞)、③優れた緑化技術(屋上・壁面緑化技術コンクール)の3つの分野について表彰します。

①「緑の事業の実績」は、緑を増やし守る取組みの実績を表彰する制度で、この分野の表彰の中では唯一内閣総理大臣賞で、昨年は「緑のまちづくり部門」の鎌倉市が表彰されました。
②「緑を創る計画」については、緑化プランを対象とし、図面やスケッチ図を審査し、その実現のための助成を行います。
③「優れた緑化技術」は、屋上や壁面という特殊な空間で植物を長らえるための優れた技術や設計計画が対象です。緑は作っておしまいではなく、その後、きめ細やかな維持管理、厳しい環境下でも緑を維持し続けているかも含めて表彰します。

その次に3.「緑の評価」は、建築の分野でCASBEE(キャスビー)とかLEED(リード)とかありますが、それの緑版として、緑が社会や環境にどれくらい貢献しているかを評価するシステムで、Social and Environmental Green Evaluation Systemの頭文字をとってSEGES(シージェス:社会・環境貢献緑地評価システム)と呼んでいます。こちらは、民間企業の緑地を積極的に保全、維持、活用している優れた取り組みにについて、評価、認証をしています。また、認証したら終わりではなく、マネジメントの部分も当機構でフォローしております。
SEGES(シージェス)の中でも、「そだてる緑」は工場緑化、コンビナートの緑化、緑地、敷地を対象としています。 認定企業には、さまざまな業種、業態の民間企業があり、所有していた土地や工場敷地などで積極的に緑地を創出して、CSRやCSVの観点から第三者認証を受けられております。

都市緑化技術パンフレット

「SEGES」は国際的な評価システムなのでしょうか?

まだ日本の中だけです。こちらの「そだてる緑」に認定されている企業は22社あります。2005年にスタートして、3年に一度更新審査を受けていただき、それによってステージが昇格していきます。実際に管理に携わっている方たちが、次のステージを目標とできますし、また、どうやって管理したらよいかわからないという方たちのフォローにもなっていると考えております。
よい取り組みをしている企業は、他の企業の模範になるということで、「緑の殿堂」として表彰しています。そして、その企業の見学会や、実際の意見を聞くなど企業同士の横のつながりも支援しています。

アーバンデザインですと、企業よりは自治体が多いですが、これは民間企業の施設が対象になっているんですね。

はい。これからの緑は民間企業の施設が重要になってくると思います。当初の計画では経営者の意向で緑を作るのですが、その後、経営者の方が変わると経営方針も変わり、緑がどんどん縮小される傾向にあります。また、実際に緑の管理に携わっている方は緑を知らない方が多く、会社から管理費のコスト削減など、どこに相談してよいのかわからず、困っているという声をたくさん聞きますので、私たちは緑のプロとして応援しています。

こういうものがあるとCSRの一つとして地域の住民の方などと接点がうまれますし、そういう面で活用できそうですね。

そうですね。SEGES「そだてる緑」のパンプレットは年間8,000部を発行しています。認定企業22社にお渡ししており、工場見学と緑地見学の際にご利用いただくことで、連携した広報にも繋げております。 また、計画段階から評価する「つくる緑」という認定制度もございます。
環境に配慮した質の高い緑地計画を評価して、認証を差し上げています。

別のパンプレット「都市のオアシス」は、今年の5月中旬にNo.8が発行され、こちらのパンプレットは年間8万部も発行し、参加企業47社から直接お客様に届くような形で配布しております。

中身を拝見させていただきましたが商業施設が多いんですね。

屋上を緑化することで、社員や広く一般の方にも利用してもらうための広報活動も当機構がとりまとめ、参加企業の協力でパンプレットを作成し配布を行っています。
「都市のオアシス」の評価項目には「安心・安全」や「環境への配慮」という項目があります。普通の街区公園などでは近年、事件や犯罪が多く「ちょっと怖いな」と思っている方もおり、「都市のオアシス」で認証された施設は防犯カメラや警備員の設置、植物についてもできる限り農薬を使わないなどの配慮がされていることで、安心して子供を遊ばせる場所としてお母さまたちから人気をいただいています。

このパンフレットは、デザインが繋がるようになっています。このデザイン性の面からも女性の方をターゲットにしているのですが、何冊か持っているとあれ?と絵が繋がることに気づけます。

緑のオアシスさんぽ

表紙には季節感もあるんですね。

緑色のものは春・夏版ということで、5月に発行しました。オレンジ色と茶色のものは、秋・冬版ということで10月に発行しており、1年間に2冊出していますが合わせると四季がイメージできるような感じのデザインになっています。

この1.2.3は、私が主に携わっている業務で、あとは4.「情報発信」です。研究機関ですので、「都市緑化技術」という機関誌を年間3回発行しています。また、屋上・壁面緑化技術コンクールを取りまとめた緑に関するご案内の冊子を記念号という形で作って情報発信しています。

その他、基礎になる5.「調査研究・技術開発」もあります。こちらは、現在、私が担当しております、学校の校庭芝生化をどうやったら推進できるか、もちろん行政からもお金の補助がありますとか芝生の管理ができるプロの指導者を応援に出しますという話もありますが、実際に校庭を持っている学校側がやる気にならないといけないので、そういう方たちに対して「校庭を芝生にするとこういういいことがあるよ」ということを説明する研究会があり、そこの調査内容を取りまとめるということもしております。

東京都も行っていますね。

そうですね。東京都も行っています。関東では様々なところで行っており、関西でも大阪や神戸というところで、ダスト舗装より芝生の方が転んでも痛くないし、周辺の方たちからすると風の強い日に砂埃が立たないので芝生の校庭はいいという意見も多いです。

菊池様のこれまでのご経歴と現在関わっている業務内容についてお聞かせください。

私は大学を卒業したあと同じ大学の大学院に進学して、博士を取った後に派遣会社に登録をして、大学のポスドクをやりながら国の研究所の方で研究業務に携わっていました。そのあとはいくつかの大学の講師や助教をやって2016年から今の機構で勤務しています。

その間、大学では都市の緑についての研究をしておりましたが、緑だけだと他の分野、土木や建築分野、近いところでは河川の分野とはうまくいかないので、博士をとったあと、河川環境、水辺の環境に関する業務を行い、経済・社会分野の「環境経済」も学びました。例えば、緑地を整備するといくらかかるのかはわかりますが、それが効果としていくらくらいになるか、また、バイオマス発電を考えたときに、発電量は通常の化石燃料とバイオマスを使用するのではどう違うのか?などを学び今に至っています。

今、機構でやっている業務は、先ほどお話しした中では、緑の評価、SEGESをメインにやっております。それ以外に都市の緑3表彰の屋上・壁面緑化技術コンクール、他に調査研究・研究業務もいくつか携わっています。

菊池様はなぜこういう道を目指したのでしょうか?

私は、花屋とか植物に関わる仕事をしたいと思っていました。最初は植物の遺伝子組み換えで青いバラをつくるとかをやりたかったんですが、それだとつくって終わりじゃないですか。それよりももう少し生活に近い部分で緑に携わる仕事がしたいと考えるようになりました。大学にいた時は緑をつくる側のことをもう少し知ってもらいたいし、そういう基礎知識がないと外に出た時に上辺だけというか間違った情報になるのはすごく怖いので、そこを専門的な立場から学生たちに伝えたいと思いやっていました。

現在は、緑に対して民間の企業がどういう風に思っているのかを知りたいですし、それによって今後、民有地の緑というものが大事になってくると思います。どうやったら開発から護れるか、開発をしてもやはり緑は大事だよねってつくってもらえるか、経営者の方が代わってもここは大事ですと上手くつなげていけるような感じの仕事として携わっていけたらと思っています。

緑の分野で働きたい方へのメッセージをいただけますでしょうか。

色々な分野を知っていただいた方がいいのかなと思います。緑の分野だけだとなかなか広がらないんですよね。専門性を高めることはすごく重要だと思いますが、それだけに固執してしまうと、緑だけでは仕事がない状況なので、例えば建築の分野のことをちょっと勉強して建築の分野との融合を図るとか、土木を勉強して土木との融合を図る。土木や建築の手が届かない部分とか、もうちょっとできたらなというところを緑で応援する形で今の仕事ができているのかなと思います。

もちろん、理工学系の内容だけではなくて社会や経済の分野についても、特に経済の分野なんかは、今後、緑をどうするか、人口が減ってきていて空き地が増えている中でどうやって緑を管理するかという経済の問題もありますし、医療の分野に関しても、何もない病室よりは植物があった方がいいと、園芸療法などもあります。そういう分野でも緑は出番があると思います。植物とか緑だけに集中するのではなくて、もう少し近い分野を広く見る目を持っていただいて、研究なり仕事を探してもらう方が、緑が、逆に他のところにない強みになって展開できるのではないかと思っています。

緑だけではなくて、近い分野を広く見る目を持っていただくと、緑が、他にない強みになって展開できるのではないかと思っています。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

菊池 佐智子(きくち さちこ)

菊池 佐智子(きくち さちこ)

公益財団法人都市緑化機構
企画調査部研究員

2007年大学院修了 農学(博士)
国土交通省国土技術政策総合研究所、東北大学大学院、茨城大学、山梨県富士山科学研究所に勤務。
2016年より、現職。

専門は、環境緑化、緑化工学、緑地計画、水循環。

公益財団法人都市緑化機構

SEGES(シージェス)

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