コラム

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企業の無形資産をアピールして投資家と繋ぐ

2017.8.21

インタビュー

江森 郁実 氏・周藤 潤香 氏 | 企業の無形資産をアピールして投資家と繋ぐ

アニュアルレポートや統合レポートの制作支援で発展を続けている「株式会社 エッジ・インターナショナル」。
ESG専門に携わっておられる江森様、周藤様に仕事のやりがい、求める人物像などをお話しいただきました。

これまでのご経歴をお聞かせください。

◇江森

私は今のような仕事に携わって9年ほどになります。この会社に来てからは約3年ですが、前職でも6年ほど同じような仕事をしておりました。前職では有価証券報告書とか招集通知とか、いわゆる法定開示書類を制作支援している会社におりまして、そこでCSRやESG(環境、社会、ガバナンス)に特化して、事業会社の開示のお手伝いをしてきました。

当社はアニュアルレポートや統合レポートの制作支援をしている会社で、この会社に移ってからは、任意開示書類という、企業が自主的に開示する情報や、制作物の制作支援の中で、CSRやESG情報の開示サポートをしています。

◇周藤

私は新卒で入社したので主に学歴を話します。大学では主に、国際協力や国際政治を学んでいました。その中でサステナビリティという概念に興味を持ち、イギリスの大学院にてその内容をより深く学びました。しかし、学習したことは大きな枠組みの話であることが多く、仕事を通じてもっと具体的にアプローチしていきたいと思っていました。企業のサステナビリティに貢献しながら投資を促して良い世界にしていくという考えに惹かれてこの会社に入りました。

事業内容をお聞かせください。

◇江森

当社は創業して27年になる会社で、アニュアルレポートの制作を中心に上場会社、特に大規模な上場会社のIR(Investor Relations)の支援をしてきました。創業の頃は、英文の年次決算報告という位置づけでアニュアルレポートを作ってきた上場会社が多かったと思います。ただ、2008年のリーマンショックをきっかけにもっと長期志向で企業を評価しようという、揺り戻しが投資家に来ました。以前は、企業が中長期的に成長するかを見て、投資家は投資していたと思いますが、インターネットが普及して株式の高速取引ができるようになって、環境とか社会を含めた企業価値を見ずに、株価だけを追いかけているような時代が2008年くらいまでありました。そういう投資家も未だにいますが、当社が作るようなアニュアルレポートとか統合レポートは、企業が10年後、30年後も持続的に成長しているだろうかということを念頭に、投資をする長期投資家のためのレポートを作ろうとお手伝いをしています。

長期的に成長しますということをレポートで訴求するのは非常に難しいです。外部環境の説明もしなくてはならないし、設備投資などの有形資産だけではなくて、自分たちは環境の技術を持っているとか、従業員がこれだけパワーを持っているとか、そういった目に見えないもの…無形資産も説明していかないといけない。そのためには企業から色々ヒアリングをしながら一緒にレポートを作ります。単に原稿をもらって綺麗にデザインしてというのではなくて、より質を高める努力をしているのが、この数年の状況です。作っている媒体自体は、冊子だったりWebサイトだったり、そんなに大きく変わるものではありませんが、より中身の質の方にフォーカスを当てて来ているという状況だと思います。

具体的な仕事内容、事例をお聞かせください。

◇周藤

私たちの部署が行っていることは、主に企業に向けた非財務や無形資産の部分、つまりESGに関するアドバイスです。具体的に私たちは企業の社会貢献や環境への取り組みなどについて、コンサルティングのようなこともしますし、どういう風にレポートしたら投資家が魅力と思ってくれるかということを、事例を用いながら、「こういう風に書くともっとアピールできますよ」などとアドバイスを行っています。

国内、海外両方の企業のレポートを紹介しながら、クライアントに合うようなレポートの仕方はこういう感じですよと提案したり、相談を受けたりします。また、主に海外の企業によって企業のESG情報開示をランク付けする指標があるのですが、その点数を上げたい時にどういう風な取り組みを情報として開示すると良いのかなどのアドバイスをしています。

◇江森

ESGの指標は専門的で、調査する機関が主に海外にあります。そこが1社ずつ企業を見て、格付けをしています。今、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もその評価を用いて投資するようになっていて、企業も結構気にされているので、色々と相談が増えました。

私と周藤のいる部署は、いわゆる営業・編集部隊と切り離された別の部署です。この部署単独ですごくお金を稼いでいるわけではなく、制作物であるレポートやWebサイトがより良くなるためのサポートをしている部署です。
具体的には海外の事例を提供したり、海外の指標の分析をしたりしています。周藤は特にサステナビリティをイギリスで勉強していますので、語学力を活かしてもらっていると思います。

もう一つの大事な仕事は対外活動です。クライアントだけではなくて大規模に、広く統合報告やESGを啓発するセミナーを開催しています。また、最近は日経に「ESG投資」とか「GPIFがESG 投資を始めた」という記事が載るようになって、関心をもつ人が増えたと思います。ただそういうのを読むだけでは解らないので、実際に投資家と面会をして、投資家はどういう風にESG情報を使っているのか、どのようにレポートに書いたら読み取ってもらえるのか、企業の実情や悩みなどを議論しています。営業・編集部隊は投資家と会う時間はなかなかとれないので、対外的な活動というのは、私たちが別の部門でやっているという状況です。
レポート制作会社で、こういう専門のリサーチ部門を持っている会社は少ないと思います。対外的なPRをしてマーケット自体を活性化して、制作物全体の質を上げていくという部分に投資をしてもらっているという専門の部署です。そこが当社の特色でもありますし、強みの一つというところですね。

仕事、業務でのやりがいや大変なところを教えてください。

◇江森

やりがいは、「企業の姿勢が変わること」ですね。投資家はこういうことを言っていますと訴えはするけど、最初はなかなかわかってもらえない。CSR部門の担当者はわかっているけれど、上手く上司や他部門に説明できないこともあります。長くお付き合いしているお客様で、CSR部門は頑張りたいけどなかなか会社から理解が得られないというのが1~2年あった後に、その企業はB to Bだったのですが、お客様であるB to CメーカーからCSRをやりなさいという強い要望がきたことで、今までCSRは「コンプライアンス」だと思っていたものが急に「お客様との取引条件」にコロッと変わったことがありました。最終メーカーというのはNPO,NGOのプレッシャーが強いので、急に変わることがある。特に日本は技術の高いB to Bメーカーが多いので、そういう企業は急にやらなくてはいけなくなる…そういう時に、CSR部門の人が少ないながらもちゃんと予算を確保して、勉強していたおかげで、急に上から指示が来た時に準備ができている。もし何も準備してこなかったら、そのお客様を失ってしまったかもしれない。でも準備をしていたから対応ができて、その会社の経済的な意味での存続に貢献することができた。

CSRのサポートってすぐ成果が出ないんですよね。こういう世の中なので急に必要になるタイミングが出てくると思うんですけど、それが来たときにCSR部門の人から「外部と一緒に準備していたおかげで上手く乗り切れた」と言ってもらえる、そういった企業がサステナブルに経済活動を続けていけるお手伝いをできたと結果的に思える。そういうのが一番やりがいとしてはあるかなと思います。

◇周藤

私はありきたりですが、お客様が喜んでくれるとやりがいがあるなと感じます。例えば、こちらがクライアントにこういう風なレポートの開示の仕方、表現の仕方がありますよと事例を持っていった時に、事例を知って喜んでくれる姿を見ると、ちゃんと調べた甲斐があったなと思います。

大変なところというのは、クライアントそれぞれで求めるものも違いますし、特色とか業種も全然違うので、それぞれのお客様に合った事例とか問題解決方法を提案しなくてはいけないのに、それがなかなか見つからない時があることです。モヤモヤします。
また、私はまだ新人なので、各会社がどんな歴史的背景を持って今の立場にいるのかや、どんな会社と合併し、この事業を行うに至ったのはなぜかなど、詳しいところまでを把握しきれていません。企業の現在の取り組みは会社が出されているレポートを読めばわかりますが、企業の現在に影響を及ぼしている外部、内部環境は追えずにつまずくこともあるので、そこが結構大変ですし学んでいかないといけないなと思いますね。

今後どういった人物と一緒に仕事がしたいか、またどういった人材を求めているかをお聞かせください。

◇周藤

私は個性的な人が良いと思います。 この会社は本当に個性的な人が多いです。ある意味自分を持っていて流されにくいと言えるかもしれません。ちゃんとイエスならイエスだしノーならノーと言え、やりたいことは積極的にアピールしていく人が求められるのではないかなと思います。上下関係が厳しくなく、どの立場でも意見が言える環境であるため積極的な方は重宝されると思います。
自分の軸があるというか、強い意見を持っている…そういう人ですね。

◇江森

一緒に仕事をしたいのは、新しいことが好きな人が良いですね。 ESGのトレンドは急速に動いているので、既存のサービスをちょっとアレンジくらいではすまないんですよね。当社は新しいやり方や情報をきちんと事業会社側に伝えなくてはいけないのに、それに関しては前例が無いんです。海外のプラクティスから学ぶことはできますが、日本企業の中にはノウハウは極々一部の会社にしか無いという状態なので、新しいことをどんどん受け入れて提案して、お手伝いしていかなくてはいけない。言われたことだけをやっているのだと、うまく仕事が進まないと思うので、新しいことが考えられる人が向いているんじゃないかなと思います。

日本企業の中にはノウハウはほとんど無いという状態なので、新しいことをどんどん受け入れて提案して、お手伝いしていかなくてはいけない。そういう仕事です。

◇周藤

そういう意味では好奇心も大事だと思います。
当社はクライアントである企業の成長力を投資家に伝えるためにレポートを制作していますが、そもそも企業自体を知らないと何も原稿が書けません。そのため、クライアント企業に対して好奇心を持って調べられ、こういう取り組み面白いなとか、これを取り上げようと提案できるような人が必要とされると思います。

最後に環境ビジネスへ就職・転職を考えられている方へアドバイスをお願いします。

◇江森

当社のようなCSRコンサルティングに限らず、環境ビジネスと言ったときは、経済性とのバランスをとることが大事だと思います。自分で環境や社会に貢献したいという希望があった時に、環境にだけ良ければ良いということではないと思うんですよね。

私も環境やCSRがやりたいと思ってこの会社にいて、先ほど仕事内容でお話したようにリサーチや渉外活動もしています。ただ、そっちに比重を置いてしまって、当社の短期的な売り上げを無視して、長期的には売り上げが出るからと言ってもそんなことは通じない。とりあえず今期このくらい利益に貢献しましたというのがないと、この会社の成長に全然貢献していないことになるので、それはダメだろうなと。短期、中期、長期的なものがそれぞれあると思うんですけど、営利団体にいる以上はきちんと短期的な経済性も考慮した上で、環境とかCSRとかの自分のやりたいこととのバランスをとりながら続けたいと思う仕事をする。そこをちゃんと理解した上で、環境ビジネス、CSRの分野とかに飛び込むと良いと思います。

◇周藤

私は新卒の時に、現場で直接影響を与える立場で働きたいのか、間接的だけれども広く薄く影響を与える立場で働きたいのかを、とても考えました。現場の仕事だと環境アセスメントなど、現地に行き汚染濃度を調査するなどの仕事になると思います。私は社会全体の流れを見渡し学びつつ、広く影響を与えるような仕事をしたいと思っていたので、今の仕事を選びました。どのような場所で、どのような人を相手に仕事を行いたいかを考えられていると、仕事を探しやすいのかなと思います。

環境分野は本当に広いので悩みますね。水質や森林など、それぞれの興味で全く職種が違ってきますし、そこを間違えて仕事を決めてしまうと、入社してからイメージしたことと違うと感じてしまうのではないかと思います。新卒の場合は自分のスキルをどう活かすというよりも、興味や目標、どういう世界にしたいのかという目標を持っていて、それに貢献するためにはどういう仕事に就きたいのか、ということを明確にしていくと企業が絞れるのかなと思います。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

江森 郁実(えもり いくみ)・周藤 潤香(しゅうとう ひろか)

江森 郁実(えもり いくみ)

2008年から企業の法定開示、任意開示におけるESG情報開示全般のコンサルティングに従事。
2014年より現職。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)運営委員、企業価値レポーティング・ラボ運営事務局を務める。
共著「統合報告書による情報開示の新潮流」(同文舘出版)

周藤 潤香(しゅうとう ひろか)

2015年、中央大学 総合政策学部プロフェッショナルコース卒。
2016年、英国リーズ大学院 地球環境学部サステナビリティ学科修士課程修了。
学生時代に学んだ持続可能な発展(社会)の概念を実現すべく、投資の流れで企業、社会を持続可能にしていく一部の役割を担える仕事内容に感銘をうけ、2016年入社を決意し現職に至る。
企業のESG情報開示のためのリサーチを担当。

株式会社 エッジ・インターナショナル

企業価値レポーティング・ラボ

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