コラム

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日本の土壌を化学・バイオの先進技術で変えていく

2017.7.20

インタビュー

西村 実 氏 | 日本の土壌を化学・バイオの先進技術で変えていく

環境分野、主に土壌浄化分野で発展を続けている「株式会社エンバイオ・ホールディングス」。
土壌浄化分野でどのような視点で新規事業に取り組んできたのか、今後の求められる人物像などをお話しいただきました。

西村様のご経歴をお話しください。

大学を出て最初に化学会社(ライオン)に就職しまして、洗剤用の酵素の研究を中心に丸9年お世話になりました。10年目に日本総合研究所に移籍し、主に環境ビジネスの立ち上げやインキュベーションなどをテーマにし、最終的に土壌汚染の問題にフォーカスを当てて約10年間従事しました。 エンバイオ・ホールディングスの前身であるエンバイオテック・ラボラトリーズから依頼が来て、2年ほど社外取締役を兼業でお手伝いしておりました。その後、子会社としてアイ・エス・ソリューションという会社を立ち上げ、今当社グループの主力になっている土壌の調査・浄化をメインとした業務を行うようになりました。 それから土壌汚染の状況をリサーチしながら、調査・浄化の部分を拡大させ、専用の設備などを販売するランドコンシェルジュという会社を立ち上げて、エンバイオテックの子会社にしました。土壌汚染対策の仕事は汚染した土地の再活用が根本的なニーズとなるので、エンバイオ・リアルエステートという会社を立ち上げ、「土壌汚染地で困っている土地所有者から汚染した土地を購入し自社で浄化をして売り出す」という業務を始めました。また、土壌汚染調査・浄化を中国で行う会社も立ち上げました。
元々エンバイオテック・ラボラトリーズでやっていた研究開発は、ある時期に藤倉化成に営業譲渡し、同時に前社長も会社を辞められて、別の道を歩みはじめました。 残された我々は、土壌を中心とした環境ビジネスをやろうということで、社名をエンバイオ・ホールディングスに改め、同時に私がグループの社長になって今日に至っています。

土壌の仕事に最初に取り組んだのは1991年で、その頃は土壌の法律もありませんし、ようやく土壌の環境基準が出来た頃でした。ですから、何をやるにしてもルールもないし専門的な人もかなり少ないので、逆にやればやった分だけ自分のところへ情報も集まるし、やった分だけ自分の名前が知れて、海外からも情報が入って来たり、環境省(当時は環境庁)とか経産省(当時は通産省)、厚生労働省(当時は厚生省)などに土壌環境問題の色々なプロジェクトやルールづくりのための委員会などがあって、その委員に任命されたりして、有識者と知り合う機会も多くなりました。
土壌の分野は、海外では日本の20年も前に法律ができています。日本でこれから法律ができるとすると、その次にどういうことが起きるのか、先行しているアメリカ、ドイツ、オランダなどを見ていると、おそらく日本もそういう流れになるのかなとか、ドイツとオランダとアメリカの違いはどこだろうかとか、どういう技術が主流になるのだろうかとか、そういうことを考える機会が多くなりました。
次第に土壌汚染や地下水汚染のルールづくりが進んできて、日本で土壌汚染対策の法律ができたのが2002年、施行されたのが2003年でした。
そういう意味では、日本総研で色々と取り組んできたことが形になってきた頃に、土壌・地下水の分野を新規事業として立ち上げた訳です。

アイ・エス・ソリューションの立ち上げ時の社員数は3人でしたが、その年に5人になって次の年に6人、7人、8人と毎年一人ずつ増やしていって、今では32人です。
最初の頃は新入社員もいなくて、この分野ならこの人が力になってくれるなという人に「給与面ではなかなか満足なものは差し上げれないけど、ビジョンを掲げて新しい分野を一緒に切り拓こう」と声をかけ、何人かお金よりやり甲斐を求める人が集まって来た、そんな流れですね。

そもそも土壌に入る何かきっかけはあったのでしょうか?

きっかけはたまたまです。
当時の日本総研の上司がアメリカ出張中のスケジュールが空いた時に「観光するよりも何かこの辺に面白い会社ない?」と現地のパートナーに話をしたら、シアトルのベルビューにバイオテクノロジーを使って環境を浄化するという面白いベンチャー企業があるよ、と紹介され、その会社のスタッフ何人かと話しているうちに、「これ面白いね、日本でもこれから使えそうだ」と感じたそうです。すぐ日本総研に電話で「こういう会社があって、日本にはないこういう技術だから、日本での展開を検討したい」と説明して、社長の了解をもらって日本国内の総代理店になったのです。そして私には、「面白い会社の資料を送ったから、自分が帰国するまでにプロジェクトの企画を作っておくように」と国際電話で指示されました。

調べてみると、ちょうど環境庁が全国で地下水のモニタリング調査を始めたり、土壌環境基準を作り始めたりした頃でした。環境庁の情報などを見ると日本でも地下水汚染が結構見つかっており、それが手付かずの状態で、土壌・地下水汚染に関するルールづくりが始まろうとしているという状況がだんだんわかってきました。私は当時、地球温暖化は新しい環境問題だから別にしても、廃棄物にしても大気にしても水質にしても、日本の環境規制とか環境技術は、世界一進んでいると思っていました。ところが土壌や地下水については日本には法律もなかったのですね。シンクタンクの仕事は、5年先10年先を見据えた提言とか事業戦略を提案することなので、土壌・地下水汚染はテーマとしていいかもしれないと思いました。また私の専門のバイオテクノロジーの知識も使えるので、面白そうだと思ってやり始めました。
だから、上司からの国際電話が無かったら、土壌の仕事はやっていたかどうか、わからないですね。

当時は、法整備もされていなかったということですが、お仕事としても専門家からの支援がなかったためのご苦労もあったのではないでしょうか。

苦労よりも楽しいことばかりでした。忙しくて大変でしたけど、辛いと思ったことは全然なかったです。

最初は土壌汚染という分野そのものが日本では新しかったので、専門家が少なく、偉い先生方からも頼られるし、国の代表として海外の国際会議に出席させてもらったりもしました。でもこの分野がメジャーになるにつれて、色々な会社がこれはビジネスになると考えて入ってきたのです。この分野が賑やかになって良いことなのですが、実際に動き始めると事業会社の方がシンクタンクや政府よりも動きが早いのですよ。
シンクタンクの仕事は政策提言や技術の調査・評価など机上の検討が中心ですが、事業会社の場合は、いいと思うと特定の技術に投資をして、開発して実際にやってみるので、実務的な知見がどんどんたまるのです。
そうなると自分たちが新しい知見を獲得するよりも、後から参加してきた企業の人たちの方が、実際の現場に技術を投入するので、現場での新たな経験値がたまるわけですし、問題解決に直接役立つわけです。

最初はこの分野では一番だと思っていたのですが、一番を維持するのは難しいし、むしろ埋もれてしまってつまらないと思うようになりました。そのうち自分も事業会社で実務を通して、この分野の問題解決を追求したいと考えるようになった時に、ベンチャー企業を立ち上げた後輩から手伝って欲しいと声がかかって、ここで新規事業としてアイ・エス・ソリューションを立ち上げて土壌汚染の調査・浄化を始めたのです。

具体的なお仕事の事例をご紹介いただけますか

アイ・エス・ソリューションを設立した当初、一年間は仕事がなかったです。土壌汚染対策の法律ができると、多くの建設会社などが参入し、汚染土壌を掘削して処分する仕事が生まれました。だけど我々は「高いお金をかけて汚染土壌を掘削除去することは事業としては儲かるかもしれないけど、それは本来の合理的な方法じゃない、土壌を掘削しなくても微生物を使ったり、薬剤を使ったりして汚染物質を分解することができるのであれば、それが経済的にも環境的にも一番いい」と考えていました。

先行していたアメリカとかヨーロッパを見ても、お金のかかる掘削除去から掘削せずに浄化できる原位置浄化という方法にシフトしていたのです。
我々は日本で先回りして、最初から掘削除去ではなく、原位置浄化をやるというコンセプトでアイ・エス・ソリューションを立ち上げたのです。提案書を作って色々な会社に説明に行くのですが、実績がなかったのでなかなか取りあってもらえませんでした。「提案内容は面白いのだけど、実績ができてから来てください」って言われるのが落ちで一年間受注がなかったのです。一年間走り回っている時に、石油の販売商社で全国にガソリンスタンドを何百と所有している企業に提案することができ、漸く活路が開けました。時代の趨勢としてガソリンスタンドはだんだん数が減っており、立地がロードサイドのいい場所にあるので、跡地をコンビニなどに売却しようという動きが盛んでした。ところが、ちょうど法律ができた後で汚染があると浄化をしないと売れない。四国にあったあるガソリンスタンドを閉鎖して大手コンビニチェーンに売却する方針だったのですが、汚染が見つかって浄化をすると5,000万円以上かかる。一方、我々が提案した原位置浄化の見積もりは1,500万円でした。実績は無かったもののそこの部長さんは駄目元で採用してくれました。あとで聞くと、駄目でもゼロということはないだろう。半分くらい綺麗になればあと半分は仮に掘削除去したとして2,500万円、5,000万円かかるところが最初1,500万円払って残りが半額かかっても合計4,000万円で、まだ1,000万円安いじゃないかと勘定したそうです。そこで初めてやらせてもらったわけですが、アメリカでしっかりと技術研修を受け、日本でも事前に施工実験を行って施工手順等の確認とトレーニングは行っていましたが、実際の汚染現場に適用するのは我々も初めてだったので、自信満々で説明はしていましたが、本当に上手くいくかどうかはやってみなければわかりませんでした。実際にボーリングして土壌を採取して浄化具合を確認すると一目見ただけで大変綺麗になっていました。また浄化前の真っ黒な油まみれの土壌に薬剤をかけると油が分解してみるみる間に綺麗になりました。視察に来られた商社の部長さんがその様子をみて大変感心されましたが、一番感動したのは自分たちでしたね。土壌を分析して浄化されていることを確認し、めでたくコンビニが建ちました。一部分バイオを適用した箇所は分解に時間がかかるので、モニタリングを半年ほど継続して濃度が下がるまで責任を持って管理しました。これが最初の成功例となったのですが、そうしたら、部長さんが「実は他にもまだいっぱい浄化が必要な土地があります」と、次から次へとリピートで仕事がくるようになりました。

最初の土壌浄化の仕事で、汚染土壌がみるみる分解されていくのを見て一番感動したのは自分たちでしたね。

石油業界というのはお互いに競争もしていますけど、環境問題などの共通の課題については情報交換をしているのですね。土壌汚染は頭の痛い問題だったので、業界の集まりでたまたまガソリンスタンド跡地が話題になった時に「うちはこういう会社を使って原位置浄化という方法で安く浄化しているよ、既に浄化が終わったところは売却できて何も問題は起きてないので、なんなら紹介しようか」ってことで別の会社を紹介されました。またそこから別の会社を紹介されたりして、どんどん仕事が増えていきました。

商社からの紹介や、大企業での実績は威力を発揮しました。
「どんなところでの実績があるのか」と聞かれた時に、「こういうところがお客さんです」というと、「あそこが採用するなら間違い無いね」と信用されました。

当初はアメリカの会社からライセンスを取得した化学的に汚染物質を瞬時に分解する工法を中心に行っていましたが、その後、バイオを使った工法も採用していきました。
また中小企業の中には、土地を売りたくても調査費用や浄化費用が捻出できない場合もあり、土壌汚染があっても現況のまま購入し、土地の調査から浄化までを自らの責任で行ったのちに再販する不動産会社、エンバイオ・リアルエステートを設立しました。
この会社も設立から暫くはなかなか条件が合わず、適当な物件を買えなかったのですが、2年ほど活動する中で、都内の一等地であるにもかかわらず倒産したクリーニング工場の跡地が土壌汚染で売れなくて困っているという話をいただき、購入して調査から浄化までを一貫して行ったのちに各種届出を行政におこなって、戸建分譲用地として売却しました。
その後、他でも困っているクリーニング工場をクリーニングの業界団体などから紹介されたりして、土壌汚染地の購入実績を積み上げてきました。

始めの調査段階から実際の施工まで一貫したサービスを今も続けていらっしゃるんですね。

浄化工事の設計は自社で行い、実際の施工については当社の技術者が現場を管理するけれども、機械の運転や土工事などは協力会社に外注しています。現場の大きさによって異なりますが、当社の社員が一人か二人ついて、あとは協力会社の人たちに来てもらってやっている。監督は責任を持ってやるけれども、個々の作業は全部外注先にやってもらう。現場から採取した試料は、分析会社に送って分析してもらう。だからそういう意味ではゼネコンさんと同じやり方ですね。

今後、御社の中でどういった人物と一緒に仕事をしていきたいか、どういった人物を求めているかお聞かせください。

求める人材として、基本は技術屋さんですね。当社は技術のわかる人が営業もやります。技術的なバックグラウンドと自分の経験をベースにお客さんのところに行って、お客さんの問題を聞いて提案をするというスタイルなので、技術がわからない営業マンはすぐには使えない。

これまでのうちの社員はまず地質や地下水がわかる人、土木がわかる人、化学がわかる人、それから微生物がわかる人。そういう人を中心に採用してきました。今後は、新しい工法を取り入れていろいろなプラント・設備を導入する予定です。地下水浄化のプラントを我々が設計して、それを現場に入れ、そのプラントを動かしながら原位置浄化を行うというようになってきます。今、アメリカから新しい技術を導入していまして、その技術は熱処理、つまり熱で浄化するのですけど、かなり大掛かりな設備が必要となります。これからは設備のわかる人がいないと技術を高めることができないので、設備設計ができる人など化学工学や機械が専門の人たちも採用します。

実際のプロジェクトは、自分の強い分野が一つあって、それ以外のところはそれを得意とする人とチームを組んで実施します。例えば、土木に強い人は、地質のことは地質に強い人から教えてもらってやっていくうちに、仕事に必要な知識はだんだん身についてきます。ただし、自分が得意な分野については他人には負けない深い見識がないと、プロの技術者としてなかなか差別化できないという難しさはあります。

最後に環境ビジネスへの転職や就職を考えている方へのアドバイスをお願いします。

短期的な給料や報酬だけを求めるのなら、仕事が面白いとか面白くないとかは別として大手に転職すれば良いと思います。しかし大手の建設会社に入ってその分野で一番のプロフェッショナルになれますかって、考えるとなかなか難しいと思うのです。だけど、この土壌環境とか地下水環境という分野は今でも圧倒的にスペシャリストの数は少ないのです。だから本当に自分の持っている専門性とかを伸ばして、例えば「地下水の流れについてはあの人に聞け」とか、言われるくらいまでになって、ある種の尊敬を得ようとすると、新しいビジネスが多く専門家が少ない環境分野は挑戦しがいのある分野だと思います。この分野で名を上げて、社会の役に立って尊敬されるビジネスパーソンになることに魅力を感じる人は是非チャレンジして欲しいと思いますね。環境に貢献する仕事というのはみなさんに喜ばれる。社会のためになる仕事をして、さらにその分野で「これだったらあの人に聞こう」と言われる第一人者になれる可能性の高い分野に絞った方がいいと思います。お金のために転職するのではなく、自己実現とかを考え、どの分野に行けば自分の能力を活かしてトップまで行けるのかな、という風に考えて移るべきじゃないかな。そういう仕事に巡り会うと楽しいですよ。経験上、価値のある仕事をしていれば、お金は後から必ずついてくると思います。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

西村 実(にしむら みのる)

西村 実(にしむら みのる)

博士(工学)

1981年、大阪大学工学部卒業後、ライオン株式会社入社。
1984年、理化学研究所派遣研究員。
1990年、日本総合研究所に移籍。
2001年7月、環境バイオテクノロジーの事業化を目指すエンバイオテック・ラボラトリーズ(現エンバイオ・ホールディングス)に参画。現在、同社代表取締役。
2003年1月、アイ・エス・ソリューションを設立。現在、同社代表取締役。
2010年3月、株式会社ビーエフマネジメント(現:株式会社エンバイオ・リアルエステート)取締役(現任)。
2012年6月、中国南京市に合弁会社江蘇聖泰実田環境修復有限公司設立。現在、総経理。
2016年2月、一般社団法人土地再生推進協会理事(現任)。

株式会社エンバイオ・ホールディングス

図解企業のための環境問題(共著・東洋経済新報社)

テクノ図解バイオテクノロジー(東洋経済新報社)

バイオレメディエーションエンジニアリングー設計と応用ー(共著・エヌ・ティー・エス)

水のリスクマネジメント実務指針(共著・サイエンスフォーラム)

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