ネイチャーポジティブへ向けた行動変容 | グリーンジョブのエコリク

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2024.1.15

トピック

ネイチャーポジティブへ向けた行動変容

ネイチャーポジティブ:Nature Positive(自然再興)とは、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることを意味します(※1)。

暑い夏

昨年の夏ほど暑くて長い夏はなかったと思います。その暑さも、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないが、暖冬は過ごしやすいと今は思ってしまっています。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長はニューヨークでの7月の会見で、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べていました(※2)。人類の歴史において、2023年の7月が観測史上最も暑い月となったのです。

肌感覚として昔よりかなり気温が上がっていると感じます。世界全体の気温上昇を1.5℃に抑えるという目標を達成するためには、加速度的に上昇する気温に対して、私たちもその取組への行動を加速させる必要があります。

2023年3月にもネイチャーポジティブをテーマとしたコラム「ネイチャー・ポジティブとグリーンジョブ」が上がっていますが、気候変動が一層深刻になっている今、生物多様性の問題も対策が急務となっているため、改めてネイチャーポジティブについて、少し別の視点からも取り上げてみました。

ネイチャーポジティブ

人間ですら地球温暖化でこうも気温が高いと生きにくくなってきているので、ましてや自然で生きる動物たちもさぞ生きにくい世界になったと感じているのではないでしょうか。昨年は各地で熊の出没や遭遇のニュースを頻繁に目にしました。餌のどんぐりが少なく人家の近くまで餌を求めて熊が来て、また冬眠しない熊もいるということです。
生物多様性を守っていくことは、我々人間の暮らしを守ることでもあります。

2022年12月にモントリオールで開催されたCOP15において、2030年までの新たな国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。その中で、「ネイチャーポジティブ」の方向性が示されました。

図1 2030年ネイチャーポジティブ
出所)The Nature Positive Initiative(NPI)「A Global Goal for Nature – Nature Positive by 2030」(※3

The Nature Positive Initiative(NPI)が示した図1では、2020年を基準として、2030年までに生物多様性の損失を逆転させて回復へと向かわせ、2050年までに将来の世代と生命の多様性をサポートできるように、自然を回復させる必要があることを示しています。

ネイチャーポジティブは、2050年までに完全に回復させるための2030年までの短期目標となっています。2024年現在を「底」と捉え、まずは反転させるための行動を緊急に取る必要があります。マイナスへと向かっている今を現状維持するだけではプラスに転じることはできず、ベクトルを急転回してポジティブへと向かわせるには相当の努力が必要です。

図2 ネイチャーポジティブの実現に向けて
出所)環境省、2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)ウェブサイト「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」(※4

ネイチャーポジティブを実現させるためには、図2のように「生態系の保全と回復」に加え、「気候変動対策」「持続可能な生産」「消費と廃棄物の削減」に対する取組等が必要となります。

2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)は、企業・地方公共団体・NGOなどに向けて「ネイチャーポジティブ宣言」の発出を呼びかけています。

生物多様性のためにできること

脱炭素(カーボンニュートラル)・循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行と自然再興(ネイチャーポジティブ)の取組は相互に関係しているので、トレードオフが起こらないよう、相乗効果が出るように進めていく必要があります。

その移行や取組は企業などの団体だけが行うものではありません。我々一人一人の行動変容も求められています。カーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギーによる電力の利用や、サーキュラーエコノミーに向けてリサイクル・リユース・リデュースを心掛け、ネイチャーポジティブに資する消費や選択を日常生活から考え直してみる岐路に立たされています。

図3 総合的な取組
出所)環境省「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて」(※5

昨秋、どうしても観に行きたい美術館の企画展があり、岩手県の岩手町にある石神の丘美術館に行って来ました。その美術館はほとんどが屋外展示で、箱根にある彫刻の森美術館のように小高い山の自然の中に彫刻が点在しています。

美術館では音楽を鳴らして、ガーデナーたちが植物の手入れをしていて、屋外に出るところにはいつも熊鈴が置かれています。熊も人間には出くわしたくないことでしょう。熊鈴でお互いの心地いい距離が保てるような環境を守り続けて、共存していきたいものです。

図4 熊鈴
出所)筆者撮影
 

著者プロフィール

亀本 裕子(かめもと ゆうこ)

亀本 裕子(かめもと ゆうこ)

岩手県立一関第一高等学校理数科卒 法政大学工学部建築学科卒

設計事務所に勤めた後、結婚を機に夫の赴任先であるアメリカに滞在、帰国後、シンクタンクで働いている。国土基盤、エネルギー、環境の分野は建築とはそう遠からず。一児の母であり、建築家の妻でもある。

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