エコリクコラム

2025.9.16
トピック
深海・海溝域の探査・採取プラットフォームから見るこれからについて
日本の未来を拓く鍵は「深海」にあるのかもしれません。文部科学省の提言によると、世界第6位の広大な排他的経済水域(EEZ)を保有する日本にとって、その半分を占める水深4,000m以深の深海探査能力を強化することは喫緊の課題です。現在、海外では深海探査技術が向上し、市販の無人探査機でも水深6,000m級の探査が可能になっています。一方、日本の探査能力は老朽化した機材の更新が急務であり、他国に後れを取り始めていると指摘されています。
深海探査の意義と課題
深海探査の意義は多岐にわたります。
科学的な探求として、海溝型地震や海底火山のメカニズムを解明することで、防災につながります。
また、海洋プラスチック汚染の実態を把握し、海洋環境保全に不可欠な知見をもたらします。さらに、深海の99%以上が未知とされる微生物などのバイオリソースや、海底鉱物資源の分布を明らかにすることで、新たな産業や学術分野の創出につながります。
一方で、深海探査には複数の課題が立ちはだかります。日本の有人潜水調査船「しんかい6500」と支援母船「よこすか」は建造後35年以上が経過し、部品の生産終了や老朽化が深刻です。
新たな探査・採取プラットフォームの構築が急務とされており、複数の探査機を同時に運用することで、調査効率を約3倍に高めることが期待されています。
経済・社会的効果について
深海探査は、単なる科学的活動ではなく、経済と社会に大きな効果をもたらす可能性を秘めています。経済面では、深海に眠る海底鉱物資源(レアメタルなど)や、創薬・新素材開発につながる深海バイオリソースの探索・利活用が期待されます。
これらの研究開発は、オープン・イノベーションを通じて、新たなビジネス機会や技術革新を生み出す場となります。
社会面では、海域における地震や津波、火山噴火の予測・リスク評価など防災研究が進みます。また、深海探査プラットフォームは、最新技術を活用した次世代の海洋人材の育成拠点としても機能します。
大学や研究機関、企業に利用機会を提供することで、海洋に関する専門知識を持つ人材の裾野を広げることが可能です。
日本が海洋国家としての地位を維持・強化するためには、深海探査能力の向上は避けて通れない課題です。この取り組みを成功させるためには、技術的なプラットフォームの構築に加え、それを担う人材リソースの確保と育成が不可欠です。
今後、深海探査の分野では、以下のような専門家が特に必要となると予想されます。
- 学際的な研究者: 地球科学、生物学、工学、AI、情報科学といった多様な分野を横断する知識を持ち、深海探査の新たな可能性を切り拓く人材。
- 高度な技術者: 自動化・省人化技術を取り入れた自律型無人探査機(AUV)や遠隔操作型探査機(ROV)などの開発・運用を担うロボティクスやAIの専門家。
- データアナリスト: 探査機が収集する膨大なデータを解析し、新たな科学的知見やビジネスチャンスを発掘する能力を持つ人材。
深海の探査は日本の持続可能な成長と安全保障を支える重要な投資でもあります。この挑戦に挑む、多様な専門知識を持つ人材の育成こそが、日本の未来を拓く鍵となるのかもしれません。