脱炭素社会への新機軸! 三菱電機と台湾ITRIが切り拓くCO2回収技術の未来〜「捕集効率90%超」小型装置で産業界の排出削減を加速、次世代CCUS技術の幕開け〜 | グリーンジョブのエコリク

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脱炭素社会への新機軸! 三菱電機と台湾ITRIが切り拓くCO2回収技術の未来〜「捕集効率90%超」小型装置で産業界の排出削減を加速、次世代CCUS技術の幕開け〜|グリーンジョブのエコリク

2025.7.1

トピック

脱炭素社会への新機軸! 三菱電機と台湾ITRIが切り拓くCO2回収技術の未来〜「捕集効率90%超」小型装置で産業界の排出削減を加速、次世代CCUS技術の幕開け〜

地球温暖化対策が喫緊の課題となる中、産業界からのCO2排出量削減は世界の共通目標です。その実現に向けて、画期的な技術の登場が注目されています。三菱電機株式会社(以下、三菱電機)は2025年6月9日、台湾の工業技術研究院(ITRI)が開発したCO2回収装置を用いたCO2回収技術の実証実験を開始したと発表しました。この協業は、今後の産業界におけるCO2排出量削減に大きく貢献する可能性を秘めており、脱炭素社会実現に向けた新たな一歩として期待されています。

リリースの内容と背景について

今回の実証実験は、台湾の産業界が抱えるCO2排出量削減という喫緊の課題に対し、三菱電機とITRIが持つそれぞれの強みを結集して取り組むものです。

【リリースの内容】

  • 実証実験の開始: 三菱電機は、台湾の政府系研究機関であるITRI(Industrial Technology Research Institute:工業技術研究院)が開発したCO2回収装置を用い、台湾においてCO2回収技術の実証実験を開始しました。
  • 高効率なCO2回収: この装置は、高効率なCO2回収(捕集効率90%以上)を実現する革新的な技術を特徴としています。これは、排出源から排出されるCO2の大部分を効果的に分離・回収できることを意味し、実用化されれば排出量削減に大きく貢献します。
  • 小型化と省スペース性: 実証対象のCO2回収装置は、一般的な同規模のCO2回収装置と比較して体積が半分以下という小型化が図られています。これにより、設置場所の制約を受けやすい工場やプラントなどでも導入しやすくなります。
  • 低ランニングコスト: 高効率な回収と小型化に加え、ランニングコストの低減も期待されています。CO2回収技術の実用化において、回収効率と並んでエネルギー消費量、すなわち運用コストは重要な課題であり、この点の改善は普及を大きく後押しします。
  • 協力体制: ITRIが保有するCO2回収技術に関する深い知見と、三菱電機がFA(ファクトリーオートメーション)機器や再生可能エネルギー、省エネ技術で培ってきた知見・ノウハウを融合させることで、最適なCO2回収システムを構築し、今後の普及を目指します。

【背景】

  • 世界的な脱炭素化の潮流: 地球温暖化対策として、パリ協定をはじめとする国際的な枠組みのもと、世界中で温室効果ガス排出量の大幅な削減が求められています。その中でも、製造業などの産業分野からのCO2排出量削減は喫緊の課題です。
  • 台湾の排出削減目標: 台湾も2050年までのネットゼロ排出目標を掲げており、特に産業部門からの排出削減は不可欠です。台湾の主要な産業地域では、半導体や電子部品製造など多くの工場が集中しており、これらの工場からのCO2排出量削減技術の導入が強く求められています。
  • CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の重要性:
    • CO2回収・利用・貯留(CCUS)技術は、排出されるCO2を大気中に放出する前に回収し、有効利用するか、または地中に貯留することで、排出量を実質ゼロにするための重要な手段として期待されています。
    • 特に、全てのCO2排出をゼロにすることが難しい産業分野(例:セメント、鉄鋼など)においては、CCUS技術が脱炭素化の鍵を握るとされています。
  • 小型・高効率技術のニーズ: 既存のCO2回収装置は大規模で設置コストやランニングコストが高いことが課題でした。そのため、中規模・小規模な工場でも導入可能な小型で高効率、かつ低コストなCO2回収技術の開発が強く望まれていました。今回のITRIの技術は、このニーズに応えるものとして注目されています。

CO2分離、回収技術5種類について

CO2分離・回収技術には様々な手法があり、それぞれ特徴と適用範囲が異なります。主な5種類の技術は以下の通りです。

  1. 化学吸収法(Chemical Absorption Method):
    • 原理: 排ガス中のCO2を、アミン溶液などの化学吸収液と反応させて吸収させ、その後、加熱することでCO2を分離・回収する方法。
    • 特徴: CO2濃度が低い排ガス(発電所や工場排ガスなど)からも高効率でCO2を回収できるため、最も広く実用化されている技術です。
    • 課題: 吸収液の再生に多大な熱エネルギーを必要とし、ランニングコストが高い点が課題です。また、吸収液の劣化や装置の腐食も考慮する必要があります。
  2. 物理吸収法(Physical Absorption Method):
    • 原理: 高圧下でCO2を吸収液に物理的に溶解させ、その後、減圧することでCO2を分離・回収する方法。
    • 特徴: CO2濃度が高い排ガスに適しており、化学吸収法に比べて再生エネルギーが少なくて済む場合があります。
    • 課題: 低圧環境ではCO2の吸収効率が低いため、特定の用途に限定されます。
  3. 膜分離法(Membrane Separation Method):
    • 原理: CO2を選択的に透過させる分離膜を利用して、排ガス中のCO2を分離する方法。
    • 特徴: 他の方式に比べて装置がコンパクトで、省エネルギー化が期待されます。連続運転が可能で、比較的シンプルなシステムです。
    • 課題: 分離膜の選択性、耐久性、透過速度の向上が課題であり、高濃度のCO2回収には複数段の膜が必要となる場合があります。
  4. 固体吸着法(Solid Adsorption Method):
    • 原理: ゼオライトや活性炭、MOF(金属有機構造体)などの固体吸着材を用いて、CO2を吸着・脱着させることで分離・回収する方法。温度や圧力の変化を利用して吸着・脱着を行います(PSA/TSAなど)。
    • 特徴: 吸着材の選択性によっては、低濃度のCO2からも回収可能であり、化学吸収法に比べてエネルギー消費を抑えられる可能性があります。吸着材の寿命や安定性が重要です。
    • 課題: 分離膜の選択性、耐久性、透過速度の向上が課題であり、高濃度のCO2回収には複数段の膜が必要となる場合があります。
  5. 深冷分離法(Cryogenic Separation Method):
    • 原理: 排ガスを冷却してCO2を液化または固体化させることで分離・回収する方法。
    • 特徴: CO2の純度を非常に高く回収できるため、CO2を工業原料として利用する場合などに適しています。
    • 課題: 大規模な冷却設備が必要となり、多大なエネルギーを消費するため、ランニングコストが高いです。排ガス中のCO2濃度が高い場合に主に適用されます。

今回の三菱電機とITRIの実証実験では、ITRIが開発した小型で高効率な装置が用いられますが、その具体的な回収方式については、プレスリリースでは明記されていません。しかし、小型化と高効率化、低コスト化を目指していることから、化学吸収法の改良型、あるいは固体吸着法や膜分離法の新たなアプローチである可能性が考えられます。

液吸収方法と個体吸収方法の違い、メリット・デメリットについて

CO2回収技術の中でも、最も広く研究・実用化されているのが液吸収法と固体吸着法です。それぞれの特徴とメリット・デメリットを比較します。

【液吸収方法(化学吸収法が主流)】

  • 原理: CO2を特定の液体(主にアミン溶液)に溶解・化学反応させて吸収し、その後、加熱してCO2を分離・回収する。
  • メリット:
    • 高い回収効率: CO2濃度が低い排ガス(例:石炭火力発電所の排ガス約10〜15%)からも90%以上のCO2を安定して回収できる実績がある。
    • 技術成熟度: 長年の研究と実用化の歴史があり、大規模プラントでの実績が豊富。
    • 大量処理能力: 大量の排ガスを一度に処理する能力が高い。
  • デメリット:
    • 高いランニングコスト: 吸収液を再生するために大量の熱エネルギー(蒸気など)を必要とするため、運用コストが高い。これが普及の最大の障壁となっている。
    • 装置の大型化: 大規模な吸収塔や再生塔が必要となり、設置スペースを大きく取る。
    • 吸収液の劣化と環境負荷: 吸収液(アミンなど)が排ガス中の不純物と反応して劣化したり、環境中に漏洩した場合の懸念がある。

【固体吸着方法】

  • 原理: CO2を吸着する性質を持つ多孔質の固体材料(ゼオライト、活性炭、MOF、アミン固着材など)にCO2を物理的または化学的に吸着させ、温度や圧力の変化(加熱、減圧など)によってCO2を脱着・分離する。
  • メリット:
    • 省エネルギーの可能性: 吸着材の種類によっては、液吸収法よりも低い温度や少ないエネルギーでCO2を脱着できる可能性がある。
    • 装置のコンパクト化: 液体の循環が不要なため、装置を比較的コンパクトに設計しやすい。
    • 環境負荷低減: 液体吸収材のような劣化や揮発性有機化合物(VOC)排出の懸念が少ない。
    • 多様な吸着材の開発: 新しい吸着材が日々開発されており、より高性能・高耐久な材料の登場が期待される。
  • デメリット:
    • 吸着容量の限界: 一般的に、吸着材のCO2吸着容量には限界があり、大規模なCO2排出源に対応するには、大量の吸着材が必要となる場合がある。
    • 吸着材の寿命と安定性: 吸着材の繰り返し使用による劣化や、特定のガス成分による性能低下が課題となることがある。
    • 技術の成熟度: 液吸収法に比べると、大規模実用化の事例はまだ少なく、さらなる技術開発と実証が求められる。
    • 粉塵や摩耗への対応: 固体の吸着材を使用する場合、粉塵や摩耗による性能低下への対策が必要になることもある。

ITRIが開発した装置の「小型化」という特徴は、固体吸着法のメリットと一致する部分があります。省エネルギー性も追求されていることから、新しい吸着材を用いた固体吸着技術、あるいは液吸収法の抜本的な改良が行われている可能性も考えられます。

三菱電機と台湾ITRIによるCO2回収技術の実証実験開始は、脱炭素社会の実現に向けた重要なマイルストーンとなるでしょう。特に、ITRIが開発した「高効率(90%超)」かつ「小型(体積半分以下)」、そして「低ランニングコスト」を目指す装置は、これまで大規模な工場や発電所に限定されがちだったCO2回収技術の適用範囲を、中堅・中小規模の工場や多様な産業プロセスへと広げる可能性を秘めています。

CO2分離・回収技術には様々なアプローチがありますが、今回の実証実験を通じて、環境負荷低減と経済性を両立させる次世代技術の実用化が加速することが期待されます。この技術が確立されれば、回収されたCO2は、燃料や化学品の原料として再利用される(カーボンリサイクル)など、CCUS全体のバリューチェーン構築に大きく貢献します。

変化の激しい気候変動問題に対し、企業間の国際的な協力と技術革新が、持続可能な社会を築くための鍵となります。三菱電機とITRIの挑戦は、まさにその最前線であり、今後の実証結果と社会実装への動きに注目が集まります。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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