エコリクコラム

2025.6.24
トピック
クボタがアグリテックで農業の未来を拓く! 米国Agtonomyとの協業加速で「自動運転農機」の実用化へ 〜人手不足に悩む日本の農業にも光明か?スマート農業が切り拓く新たな可能性〜
農業の現場で深刻化する人手不足と高齢化に、テクノロジーが希望をもたらします。大手農業機械メーカーである株式会社クボタは、北米機械事業統括会社であるKubota North America Corporation(本社:アメリカ合衆国 テキサス州)を通じて、精密自動作業を実現するプラットフォームや自動化システムの開発を手掛ける米国のスタートアップ企業、Agtonomy(本社:アメリカ合衆国 カリフォルニア州)との協業を加速させると2025年6月3日に発表しました。
両社は2024年から、スペシャリティクロップ(特殊作物)栽培向けのスマートソリューション提供に向けた共同実証を進めてきましたが、このたび、事業化に向けた販売や顧客サポートなどの具体的な検討を開始し、協業を本格化させる運びとなりました。これは、農業の未来を大きく変える可能性を秘めた、自動運転農機の本格的な普及に向けた重要な一歩となります。
リリース内容について
今回のクボタとAgtonomyの協業加速は、農業における自動化・省力化のニーズの高まりに応えるものです。
- 共同実証の進捗: 2024年から開始された共同実証では、Agtonomyが開発する自動運転技術を、クボタの農業機械に統合し、特にぶどうや果樹などのスペシャリティクロップ(特殊作物)の栽培における自動作業の有効性を検証してきました。スペシャリティクロップは、栽培に手間がかかる一方で、高い付加価値を持つ作物であり、自動化による効率化が強く求められています。
- 協業の加速: これまでの実証で得られた成果を踏まえ、両社は、単なる技術開発に留まらず、その技術を市場に提供するための具体的なステップに進みます。具体的には、開発したソリューションの販売戦略、顧客への導入支援、そして長期的な顧客サポート体制の構築などが検討されます。
- 目指すもの: クボタの堅牢な農業機械と、Agtonomyの高度な自動運転技術を組み合わせることで、農業従事者がより少ない労力で精密な農作業を行えるようになることを目指します。これにより、農業の生産性向上、労働負担の軽減、そして持続可能な農業の実現に貢献しようとしています。
協業の背景
今回のクボタとAgtonomyの協業は、グローバルな農業が直面する共通の課題と、それに対する技術革新への期待が背景にあります。
- 農業における人手不足と高齢化: 世界的に、農業従事者の高齢化が進み、新規就農者の確保が困難になっています。これにより、労働力不足が深刻化し、農業生産の持続性への懸念が高まっています。
- 精密農業のニーズ: 作物の品質向上や収量増加、環境負荷の低減のためには、圃場(ほじょう)の状況に応じたきめ細やかな作業(精密農業)が求められます。これを人手に頼らず、自動化技術で実現しようとする動きが加速しています。
- アグリテック(農業技術)の進化: AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボット技術、GPS(全地球測位システム)などの技術が農業分野にも導入され、スマート農業という形で進化を遂げています。
- クボタの戦略: クボタは、グローバルな農業機械メーカーとして、単に機械を提供するだけでなく、農業が抱える課題を解決するソリューションプロバイダーへの転換を図っています。スタートアップ企業との協業は、最新のアグリテックを取り込み、この戦略を加速させる重要な手段です。
農業での人手不足の現状
日本の農業は、特に深刻な人手不足と高齢化に直面しており、今回の協業がもたらすスマート農業技術への期待は非常に大きいものがあります。
- 高齢化の進行: 日本の農業従事者の平均年齢は60歳代後半に達しており、後継者不足も深刻です。
- 労働力人口の減少: 全体的な人口減少に加え、若者の農業離れも進み、農業の担い手が減少しています。
- 労働時間の長さと重労働: 農業は季節や天候に左右され、長時間労働や重労働が伴うため、特に若年層の就労を阻む要因となっています。
- 新型コロナウイルス感染症の影響: 感染症の影響で外国人技能実習生の入国が制限され、一時的にさらなる労働力不足が顕在化した時期もありました。
このような状況は、食料自給率の維持や農業の持続可能性に直接的な影響を与えており、省力化、自動化、そして効率化を実現するスマート農業技術の導入が急務となっています。
スマート農業について
スマート農業とは、ICT(情報通信技術)やIoT、AI、ロボットなどの先端技術を活用し、農業生産の最適化、効率化、省力化を図る新しい農業の形です。
■ 主要技術と目的:
- データ活用: センサーやドローンで収集した圃場の土壌データ、気象データ、作物の生育状況などをAIで分析し、最適な肥料・水の管理、病害虫対策などを提案します。
- 自動運転農機: GPSやセンサーを活用し、トラクターや田植え機などが自動で作業を行います。これにより、経験の浅い作業者でも精密な作業が可能になり、ベテランの作業者はより高度な判断業務に集中できます。
- ロボット技術: 収穫ロボットや除草ロボットなど、人の手で行っていた作業をロボットが代替することで、人件費削減や重労働からの解放に繋がります。
- 環境制御: 温室内の温度、湿度、CO2濃度などを自動で最適に制御し、作物の生育環境を最大限に引き出します。
■ スマート農業がもたらす効果:
- 省力化・省人化: 人手不足の解消、労働負担の軽減。
- 生産性向上: 収量増加、品質向上、作業効率アップ。
- コスト削減: 肥料や農薬の適正使用による資材費削減、燃料費削減。
- 環境負荷低減: 精密な管理により、環境への影響を最小限に抑えます。
- 新規就農者の増加: 重労働の軽減や効率化により、農業がより魅力的な職業となり、若者の就農を促します。
現状と課題について
スマート農業は大きな可能性を秘めている一方で、その普及にはまだ課題も残されています。
【現状】
- 導入は一部に留まる: 大規模農家やITリテラシーの高い農家を中心に導入が進んでいるものの、中小規模の農家全体への普及はこれからです。
- 高コスト: スマート農業機器やシステムの導入には初期費用が高く、中小農家にとっては経済的負担が大きい場合があります。
- 技術的なハードル: 最新技術の操作やデータの活用には、一定のITスキルが求められ、高齢の農業従事者にはハードルが高い場合があります。
- 通信環境の整備: 圃場での安定した通信環境(Wi-Fi、5Gなど)が不可欠ですが、地方では整備が遅れている地域もあります。
【課題】
- 導入コストの低減: スマート農業機器やシステムの低コスト化、レンタルやシェアリングサービスなどの普及促進が必要です。
- 技術の簡素化・標準化: 誰でも簡単に操作できるユーザーフレンドリーなシステム開発や、異なるメーカー間の機器連携を可能にする標準化が求められます。
- 人材育成: スマート農業を導入・運用できる人材の育成や、既存の農業従事者への研修機会の提供が不可欠です。
- データ連携と活用: 異なるシステム間で農業データを連携させ、AIによる分析や、より高度な営農指導に繋げるためのプラットフォーム構築が求められます。
- 政策的支援の拡充: スマート農業導入への補助金、融資制度の拡充、実証事業を通じた成功事例の普及など、政府によるさらなる政策的支援が必要です。
- 地域特性への対応: 日本の農業は中山間地域や小規模圃場が多く、画一的なスマート農業ソリューションだけでなく、地域ごとの特性に合わせた柔軟な技術開発と導入支援が求められます。
クボタとAgtonomyの協業加速は、世界の、そして日本の農業が直面する人手不足と生産性向上という喫緊の課題に対し、具体的な解決策を提示するものです。自動運転農機の本格的な実用化は、農業従事者の重労働からの解放、作業の効率化、そして精密な栽培管理による収量・品質向上に大きく貢献するでしょう。
特に高齢化が進む日本の農業現場において、この協業がもたらす技術が広く普及することで、食料自給率の向上と持続可能な農業の実現に向けた大きな力となることを期待します。