エコリクコラム

2025.6.18
トピック
再エネ推進に新局面!発電施設建て替え時の環境アセス簡略化法が成立 〜老朽化風力発電所の更新加速へ、環境と開発の最適解を模索〜
規模や位置を大きく変えずに発電施設などを建て替える際に、環境影響評価(アセスメント)の手続きを簡略化する改正法が2025年6月13日の参院本会議で、与野党の賛成多数により可決、成立しました。これは、建て替え時期を迎えつつある陸上風力発電所などを念頭に、事業者の負担軽減を図り、再生可能エネルギーのさらなる導入加速を後押しすることを目的としています。
現在地について
今回の法改正は、再生可能エネルギー、特に風力発電の導入拡大を目指す日本のエネルギー政策において重要な意味を持ちます。現在、日本各地で稼働している初期の風力発電設備は、建設から20年近くが経過し、建て替え(リプレース)の時期を迎えています。しかし、現行の環境アセスメント制度では、新規建設時と同様の手続きが必要で、これが事業者の時間的・金銭的負担となり、スムーズなリプレースを阻む要因となっていました。
この法改正により、既存設備の範囲内での更新であれば、アセスメント手続きが大幅に簡略化され、より迅速な設備更新が可能になります。これは、発電効率の向上や最新技術の導入を促し、日本の再生可能エネルギー目標達成に貢献すると期待されます。
洋上風力発電とは
陸上風力発電所の更新が今回の法改正の主なターゲットですが、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、近年特に注目を集めているのが「洋上風力発電」です。
洋上風力発電とは、その名の通り、海上や沿岸部に風力発電設備を設置し、風の力を利用して発電するシステムです。陸上に比べて風況が安定しており、大規模な発電が可能であること、そして広大な設置場所を確保しやすいことなどから、再生可能エネルギーの「切り札」として世界中で導入が進められています。
洋上風力発電には大きく分けて2つのタイプがあります。
- 着床式: 海底に基礎を固定して設置する方式。比較的浅い海域に適しています。
- 浮体式: 設備を海上に浮かべ、係留索で固定する方式。水深の深い海域でも設置可能で、日本の国土に適していると期待されています。
洋上風力発電の導入が進んでいる理由とは
洋上風力発電の導入が世界的に加速している主な理由は以下の通りです。
- 優れた風況: 陸上に比べて、海上は風が強く安定しているため、高い設備利用率(発電効率)が期待できます。
- 大規模化の可能性: 広大な海域を利用できるため、陸上よりも大規模な発電所を建設しやすく、発電コストの低減に繋がります。
- 環境への影響が限定的: 陸上での設置に比べて、騒音問題や景観への影響が比較的少ないとされています(ただし、海洋環境への影響評価は重要です)。
- 技術革新とコストダウン: 大型化する風車技術や、効率的な建設・メンテナンス技術の進展により、発電コストが大幅に低下しています。
- 政府の強力な推進: 多くの国が脱炭素目標達成のため、洋上風力発電を国家戦略として位置づけ、積極的に導入を支援しています。日本も、FIT制度(固定価格買取制度)からFIP制度(Feed-in Premium:市場価格連動型支援制度)への移行などを通じ、洋上風力の競争力強化を図っています。
洋上風力発電の環境影響とは
洋上風力発電はクリーンなエネルギー源として期待される一方で、建設から運用、解体に至るまで、海洋環境や生態系に与える影響についても慎重な評価が求められます。主な環境影響としては以下のような点が挙げられます。
- 生態系への影響:
- 鳥類: 渡り鳥の飛行ルート上に風車が設置された場合、バードストライクのリスクがあります。
- 海洋生物: 建設時の騒音(パイルドライビングなど)が魚類や海洋哺乳類に影響を与える可能性、構造物への付着生物の増加、電磁波の影響などが懸念されます。
- 漁業: 漁場の利用制限や、漁業資源への影響が懸念されるため、漁業者との丁寧な合意形成が不可欠です。
- 景観への影響: 沿岸部に近い場合、陸上からの景観への影響も考慮する必要があります。
- 海底環境への影響: 基礎の設置による海底地形の変化や、底生生物への影響が考えられます。
これらの環境影響を最小限に抑えるため、洋上風力発電の導入にあたっては、詳細な環境アセスメントが義務付けられており、事業者には環境保全措置の実施が求められています。
現状と課題について
今回の法改正は陸上風力発電のリプレースを主な対象としますが、洋上風力発電においても、日本は導入拡大に向けた多くの課題を抱えています。
現状:
- 導入拡大の加速: 日本政府は、2030年までに10GW、2040年までに30〜45GWの洋上風力発電導入目標を掲げており、大規模プロジェクトの推進を急いでいます。
- EEZ内での制度整備: 排他的経済水域(EEZ)内での発電設備設置を可能にするための新たな法制度も整備が進んでおり、海洋エネルギー活用の可能性が広がっています。
- 国際競争の激化: 世界的に洋上風力発電の導入競争が激化しており、技術開発やサプライチェーン構築の面で、日本は国際的な競争力を高める必要があります。
課題:
- コストの競争力強化: 依然として欧州などに比べて発電コストが高い傾向にあり、さらなる低減が必要です。サプライチェーンの国内構築も重要です。
- 漁業との共存: 漁業が盛んな日本では、漁業者との調整と合意形成が極めて重要であり、導入地域における丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
- 送電網の整備: 大規模な洋上風力発電からの電力を効率的に陸上に運び、需要地まで届けるための送電網(系統)の増強が急務です。
- 技術開発の加速: 特に浮体式洋上風力発電は、日本の深い海域に適していますが、技術開発とコストダウンが今後の普及のカギを握ります。
- 長期的な環境モニタリング: 建設・運用後の生態系への影響を継続的にモニタリングし、必要に応じて対策を講じる体制の構築が重要です。
今回の環境アセス簡略化法の成立は、既存の陸上風力発電設備のリプレースを後押しし、日本の再生可能エネルギー導入を加速させる一助となるでしょう。2050年カーボンニュートラル目標達成には、洋上風力発電を始めとする多様な再生可能エネルギー源の最大限の活用が不可欠です。
風力発電の導入は、環境負荷を低減し、エネルギー安全保障を強化する上で不可欠な一方で、環境アセスメントの適切な実施と、地域住民や関係者との丁寧な対話が引き続き重要となります。環境保全と経済活動のバランスをとりながら、日本の持続可能な未来に向けたエネルギー転換を加速させていくことが、今後の大きな課題となるでしょう。