エコリクコラム

2025.6.16
トピック
ENEOS、環境省の「ブルーカーボンCCUS調査」を受託! 〜洋上でのCO2回収・貯留、大規模プロジェクトで脱炭素化を加速へ〜
日本のエネルギー大手ENEOSホールディングス傘下のENEOSは5月20日、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所(PARI)と共同で、環境省が公募した「令和7年度海洋資源を活用したCCUSに関する調査検討業務」の受託先に選定されたことを発表しました。これは、日本の脱炭素社会実現に向けた重要な一歩となる、海洋を活用した大規模なCO2回収・貯留プロジェクトへの取り組みを示唆しています。
リリースの内容について
ENEOSが今回の調査業務を受託した背景には、日本が2050年カーボンニュートラル目標を掲げ、温室効果ガス排出量の大幅削減を目指していることがあります。その中で、CO2の回収・貯留・利用(CCUS)技術は、削減が難しい産業分野からの排出量を実質ゼロにするための重要な手段として注目されています。
本調査検討業務では、特に「海洋資源を活用したCCUS」に焦点が当てられており、具体的には以下の点が盛り込まれていると推測されます。
- 洋上でのCO2回収・貯留(CCS)の可能性調査: 洋上でのCO2を回収し、地下や海底に貯留する技術の適用可能性や、そのための環境影響評価、安全性確保に関する調査。
- ブルーカーボン生態系の活用: 藻場や干潟といった「ブルーカーボン生態系」が持つCO2吸収・固定能力の評価と、その大規模活用に向けた調査。
- 大規模プロジェクトの実現性検討: これらの技術を組み合わせた大規模なオフショア(洋上)プロジェクトの実現に向けた経済性、技術的課題、法制度上の検討。進み、乾土効果※が得られる
ENEOSは、石油・天然ガス開発で培った洋上での知見や、既存のインフラ、技術力を活用することで、この調査業務に貢献していく方針です。共同受託先のJAMSTECは海洋科学技術に関する専門知識を、PARIは港湾・海洋構造物に関する知見を提供し、三者が連携して多角的な調査を進めます。
大規模ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、海洋生態系(藻場、干潟、マングローブ林など)によって吸収・貯留される炭素のことです。森林など陸上の生態系が吸収する炭素(グリーンカーボン)と比較して、海洋生態系はCO2をより長期間にわたって大量に貯留できる可能性を秘めていることから、地球温暖化対策の新たな切り札として世界的に注目されています。
そして「大規模ブルーカーボン」とは、この海洋生態系のCO2吸収・貯留能力を、国家規模や広域的なスケールで活用しようとする取り組みを指します。具体的には、広大な藻場や干潟の造成・再生、さらには海底の地層へのCO2貯留技術(CCS)との組み合わせにより、これまで以上に大量のCO2を効率的に削減・固定することを目指します。今回のENEOSによる調査は、まさにこの大規模ブルーカーボンとCCSを組み合わせたオフショアでの可能性を探るものです。
CCUSについて
CCUSとは、「Carbon Capture, Utilization and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・有効利用・貯留」と訳されます。これは、工場や発電所などから排出されるCO2を大気中に放出する前に回収し、そのCO2を地下深くに貯留したり(CCS)、燃料や化学製品などの別の有用なものに再利用したり(CCU)する技術の総称です。
CCUSの重要性:
- 排出量削減が困難な分野での貢献: 鉄鋼、セメント、化学工業といった、製造プロセス上CO2排出が避けられない産業分野において、排出量を大幅に削減するための重要な手段となります。
- 既存産業との共存: 既存の産業構造を大きく変えることなく、脱炭素化を進めるための現実的な選択肢として期待されています。
- ネガティブエミッション: 将来的には、大気中のCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術と組み合わせることで、大気中のCO2濃度を削減する「ネガティブエミッション」を実現する可能性も秘めています。
日本政府は、CCUSを2050年カーボンニュートラル達成に向けた不可欠な技術と位置づけ、その研究開発や社会実装を積極的に推進しています。
現状と課題について
今回のENEOSによる環境省の調査受託は、日本のCCUS・ブルーカーボン技術の進展に期待が寄せられる一方で、克服すべき課題も存在します。
現状:
- 政策的推進: 日本政府は、CCUSやブルーカーボンをGX(グリーントランスフォーメーション)推進の重要な柱として位置づけ、ロードマップ策定や実証事業への支援を強化しています。
- 技術開発の進展: CO2回収技術自体は確立されつつありますが、回収コストの低減や、大規模貯留技術、貯留適地の選定、利用技術の多様化が求められています。
- 国際的な潮流: 世界各国でもCCUSは脱炭素化の重要な手段とされており、技術開発や実証プロジェクトが加速しています。
課題:
- コストの低減: CO2の回収・輸送・貯留には依然として高いコストがかかります。技術革新や規模の拡大により、コストを大幅に削減することが不可欠です。
- 大規模貯留適地の確保: 日本周辺の海底下に十分なCO2貯留能力を持つ地層があるか、その安全性は確保できるかといった調査と、国民の理解を得るための環境アセスメントが重要になります。
- 環境影響評価: 海洋環境への影響を最小限に抑えつつ、CCUSやブルーカーボンプロジェクトを進めるための厳格な環境影響評価とモニタリング体制の構築が求められます。
- 法制度の整備: 大規模なCCUSプロジェクトを推進するための、法整備や規制緩和が必要となる可能性があります。
- 社会受容性: CO2貯留に対する国民の理解と受容を得るための、丁寧な情報公開と対話が不可欠です。
ENEOSが環境省から受託した「海洋資源を活用したCCUSに関する調査検討業務」は、日本の脱炭素戦略における新たなフロンティアを切り拓く可能性を秘めています。特に、洋上でのCO2回収・貯留とブルーカーボン生態系の活用を組み合わせるという大規模な試みは、今後の日本のエネルギー構造を大きく変える潜在力を持っています。
この調査が成功すれば、日本はCO2排出量削減の新たな道を切り開くとともに、海洋国家としての強みを活かした独自の脱炭素技術を世界に発信できるでしょう。しかし、そのためには、技術的・経済的な課題の克服はもちろん、環境影響への配慮と社会の理解を得るための丁寧な取り組みが求められます。ENEOSと共同研究機関が、この国家的プロジェクトを成功に導き、日本のカーボンニュートラル実現に貢献することが期待されます。