エコリクコラム

2025.6.9
トピック
森林・林業白書に見る、日本の森林の現状と未来
林野庁が公表した「令和6年度 森林・林業白書」の概要は、日本の森林が持つ多面的な機能と、それが直面する課題、そして未来に向けた取り組みの方向性を示しています。この白書は、国民の生活と密接に関わる森林の重要性を再認識させるとともに、持続可能な森林経営の必要性を強く訴えかけています。
日本の森林の現状:豊かな恵みと高まる課題
日本の国土の約3分の2を占める森林は、木材生産だけでなく、地球温暖化対策(CO2吸収・固定)、水源涵養(水資源の確保)、国土保全(土砂災害防止)、生物多様性保全、そして人々に安らぎを与える場として、かけがえのない役割を担っています。特に、人工林の多くが本格的な利用期を迎えており、木材の安定供給源としての期待が高まっています。
しかし、その一方で、森林・林業を取り巻く環境は決して楽観視できるものではありません。
- 林業従事者の減少と高齢化: 担い手不足は深刻で、山林の手入れが行き届かなくなり、森林の持つ多機能が十分に発揮されない地域も増えています。
- 木材価格の低迷: 安価な輸入材との競争もあり、国産材の価格が低迷。林業経営の安定化が難しい状況です。
- 森林の荒廃: 間伐などの手入れ不足により、健全な森林が維持できず、土砂災害のリスクが高まるなどの問題も顕在化しています。
- 社会の変化への対応: 都市と山村の交流人口の増加や、SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりなど、社会のニーズが多様化しており、森林に対する期待も変化しています。
白書が示す未来への方向性
白書では、これらの課題を克服し、森林の多面的な機能を最大限に引き出すための具体的な方向性が示されています。
1. 森林の適切な管理と利用の推進
「伐って、使って、植えて、育てる」という森林資源の循環を確立することが重要視されています。
- 持続可能な森林経営: 適切な間伐や伐採、再造林を行うことで、森林の健全性を保ち、木材を継続的に生産できる体制を強化します。
- 国産材の利用拡大: 公共建築物等への木材利用促進や、木材製品の多様化、CLT(直交集成板)のような新たな木質材料の普及を通じて、国産材の需要拡大を図ります。
- 木材の価値向上: 地域の特色を活かした木材製品の開発や、林業と他産業との連携を強化することで、木材の付加価値を高めます。
2. 林業の成長産業化と魅力ある職場づくり
林業を若者が目指せる魅力ある産業へと変革していくことが求められています。
- スマート林業の推進: ドローンやICT(情報通信技術)を活用した測量、高性能林業機械の導入により、作業の効率化と安全性の向上を図ります。
- 人材育成と確保: 林業大学校などの教育機関の充実、インターンシップ制度の推進、女性の活躍推進などにより、新たな林業従事者の育成と定着を支援します。
- 労働環境の改善:安全対策の徹底、社会保険制度の充実、賃金水準の向上などにより、林業をより魅力的な職場にします。
3. 国民参加による森林づくりの推進
森林は国民共有の財産であり、その恩恵を享受し、守り育てるためには、国民一人ひとりの理解と協力が不可欠です。
- 森林環境税の活用: 令和6年度から本格的に徴収が始まった森林環境税を、市町村や都道府県が森林整備や人材育成に活用し、国民全体で森林を支える仕組みを強化します。
- 企業やNPO等との連携: 企業のCSR活動や、NPO法人による森林保全活動への参加を促進し、多様な主体による森林づくりを進めます。
- 森林教育の充実: 幼少期からの森林体験や、学校教育における森林学習を通じて、森林への理解と関心を深めます。
私たちの生活と森林のつながり
白書は、森林・林業が単なる経済活動に留まらず、私たちの暮らしを支える基盤そのものであることを改めて強調しています。例えば、私たちが普段利用する「紙」や「木材製品」はもちろんのこと、豊かな「水」や「空気」も、森林が健全に機能しているからこそ得られる恵みです。また、近年増加する集中豪雨や土砂災害に対する「国土保全」の役割も、森林の適切な管理によって維持されています。
「令和6年度 森林・林業白書」は、日本の森林が持つ可能性と、私たちが向き合うべき課題を明確に示しています。林業の成長産業化、新たな技術の導入、そして何よりも国民一人ひとりの森林への意識向上と行動が、持続可能な森林経営を実現し、豊かな自然環境を次世代に引き継ぐための鍵となります。
この白書を通じて、森林が私たちの生活といかに深く結びついているかを感じていただけたでしょうか。あなたも、身近な森林に目を向けて、その恵みについて考えてみませんか。