経済産業省・資源エネルギー庁が描く日本のエネルギー戦略:ペロブスカイト太陽電池が切り札に | グリーンジョブのエコリク

エコリクコラム

一覧に戻る

経済産業省・資源エネルギー庁が描く日本のエネルギー戦略:ペロブスカイト太陽電池が切り札に|グリーンジョブのエコリク コラム

2025.6.3

トピック

経済産業省・資源エネルギー庁が描く日本のエネルギー戦略:ペロブスカイト太陽電池が切り札に

経済産業省・資源エネルギー庁は5月22日、自民党部会に新たな「エネルギー白書案」を提示しました。この白書案では、エネルギーの安定供給、脱炭素化、そして経済成長の三つの目標を同時に達成するために、日本がエネルギー技術の革新と事業化を強力に推進していくことが不可欠であると強調しています。特に注目されているのが、日本が技術面で世界をリードする「ペロブスカイト太陽電池」と「光電融合技術」です。

日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは

「ペロブスカイト太陽電池」は、次世代型太陽電池として大きな期待が寄せられています。その名の通り、ペロブスカイト構造を持つ化合物を用いた太陽電池で、従来のシリコン系太陽電池とは異なる特性を持っています。

図1 ペロブスカイト太陽電池
出所)自然エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」(※1

ペロブスカイト太陽電池の特長

ペロブスカイト太陽電池には、以下のような画期的な特長があります。

  • 薄くて軽い、曲がる: 非常に薄く、軽量で柔軟性があるため、これまで太陽電池の設置が難しかった場所(例えば、ビルの壁面、窓ガラス、車両、さらにはウェアラブルデバイスなど)への設置が可能になります。
  • 少ない光量でも発電可能: 曇りの日や室内照明など、比較的少ない光量でも発電できる特性を持っています。これにより、太陽光発電の利用範囲が大きく広がります。
  • 製造コストの低減可能性: シリコン系太陽電池に比べて製造プロセスが簡素化され、低コストでの製造が期待されています。
  • 高い変換効率: 研究開発が進むにつれて、高い変換効率が報告されており、将来的にはシリコン太陽電池を超える可能性も秘めています。

ペロブスカイト太陽電池の課題

一方で、ペロブスカイト太陽電池の実用化にはいくつかの課題も存在します。

  • 耐久性・安定性: 長期間にわたる屋外での使用における耐久性や安定性の向上が求められます。特に、湿気や熱に対する耐性の改善が重要な課題です。
  • 毒性物質の使用: 製造プロセスにおいて、一部に環境負荷の高い物質が使用される場合があり、代替材料の開発や安全な製造方法の確立が必要です。
  • 大規模生産技術: 研究室レベルでは高い性能が確認されていますが、大量生産に向けた技術確立とコスト低減が不可欠です。

ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた状況

日本はペロブスカイト太陽電池の研究開発において世界をリードしており、実用化に向けた取り組みが活発に進められています。

  • 積水化学工業: 2025年の実用化を目指し、耐久性の高いペロブスカイト太陽電池の開発を進めています。同社は、ビルや住宅の窓、壁面などへの設置を想定し、耐用年数10年を超える高耐久性を持つ製品の実現を目指しています。また、独自の封止技術により、従来の課題であった湿気への弱さを克服しようとしています。
  • 東芝: 高効率化と長寿命化を目指した研究開発を進めており、フィルム型ペロブスカイト太陽電池での世界最高効率を達成するなど、量産化に向けた技術開発に注力しています。
  • NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構): ペロブスカイト太陽電池の実用化を加速するため、企業や研究機関と連携し、基盤技術開発や実証プロジェクトを推進しています。

現状と課題について

エネルギー白書案では、ペロブスカイト太陽電池について「技術面で世界をリードしている」と分析する一方で、その「量産体制の構築や市場開拓が求められる」と指摘しています。これは、日本が持つ優れた技術を、いかに早く社会実装し、グローバル市場で競争優位を確立できるかという課題を明確に示しています。

具体的な課題としては、耐久性のさらなる向上、製造コストの低減、大型化技術の確立、そして国内外での新たな設置場所の開拓が挙げられます。また、安全性やリサイクル性に関する基準整備も、普及には不可欠となるでしょう。

今回の白書案では、ペロブスカイト太陽電池のほかにも、大容量・低遅延・低消費電力を実現する光電融合技術(NTTのIOWN構想と連携)、浮体式洋上風力、次世代型地熱発電、次世代原子炉、水素に関する技術開発の動向もまとめられています。特に光電融合技術については、NTTの次世代光通信基盤「IOWN(アイオン)」構想との連携による差別化と、量産体制構築による早期の市場獲得が必要とされています。

また、白書は中東情勢の緊迫化や、トランプ米政権が気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」から脱退表明したことを受け、エネルギーを巡る国際情勢が大きく変化していることを指摘。日本はエネルギー安全保障に万全を期す必要があると強調しています。

経済産業省・資源エネルギー庁の新たなエネルギー白書案は、日本のエネルギー政策が、技術革新を核とした未来志向の戦略へと転換していることを明確に示しています。特にペロブスカイト太陽電池は、その特性から「日本の再エネ拡大の切り札」となる可能性を秘めています。

企業としては、この国のエネルギー戦略の方向性を理解し、ペロブスカイト太陽電池をはじめとする次世代エネルギー技術の開発・実用化、あるいはその関連事業への参入を積極的に検討することが、今後の成長戦略において不可欠となるでしょう。

技術開発だけでなく、量産化、コスト削減、そして新たな市場開拓に向けた取り組みが、日本のエネルギー供給の安定化と脱炭素化に大きく貢献することが期待されます。今後の次世代エネルギー技術の開発・実用化に向けた企業の取り組みに注目が集まります。

業界のプロがあなたの経歴にマッチした
求人情報をご提案いたします!

会員登録(無料)

【人材をお探しの企業様】貴社のサステナビリティを
推進する人材をご紹介します

詳しくはこちら

執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

tag:

一覧に戻る