エコリクコラム

2025.5.16
トピック
GHGプロトコルで企業の排出量を「見える化」する大切さ
地球温暖化が深刻化する中、企業には温室効果ガス(GHG)排出量の把握と削減が強く求められています。その国際的な算定・報告基準として、重要な役割を果たしているのが「GHGプロトコル」です。
GHGプロトコルとは
GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)は、企業が自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際的な基準です。
開発:
- 世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同で開発
目的:
- 企業の排出量算定における信頼性と透明性を確保
- 排出量削減目標の設定や進捗管理を支援
- サプライチェーン全体での排出量削減を促進
GHGプロトコルのスコープ分類
GHGプロトコルでは、企業の温室効果ガス排出量を、事業活動における排出の発生源や性質の違いによって、スコープ1、2、3の3つに分類します。この分類により、企業は自社の排出責任を明確にし、より効果的な削減対策を検討できます。
1. スコープ1:直接排出
- 定義:
- 企業が自ら所有または管理する排出源から、直接排出されるGHG
- 事業活動で使用する燃料の燃焼や、製造プロセスにおける化学反応などが該当
- 具体例:
- 工場や事業所で使用するボイラーや炉の燃料(重油、都市ガスなど)の燃焼によるCO2排出
- 社用車やトラックなどの燃料(ガソリン、軽油など)の燃焼によるCO2排出
- セメント製造プロセスにおける石灰石の分解によるCO2排出
- 化学製品製造プロセスにおける亜酸化窒素(N2O)排出
- 空調機器からの冷媒漏洩によるフロンガス排出
- 特徴:
- 企業が直接管理できる排出源であり、削減対策を比較的実施しやすい
- エネルギー効率の改善、燃料転換、製造プロセスの変更などが主な削減手段
2. スコープ2:間接排出(エネルギー起源)
- 定義:
- 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- 自社が消費するエネルギーの生成過程で発生するGHG排出
- 具体例:
- 購入した電力の使用に伴うCO2排出
- 購入した熱・蒸気の使用に伴うCO2排出
- 地域冷暖房の使用に伴うCO2排出
- 特徴:
- 企業が消費するエネルギー源の排出係数に依存するため、削減にはエネルギー源の選択が重要
- 再生可能エネルギーの導入、省エネルギー化などが主な削減手段
3. スコープ3:間接排出(その他)
- 定義:
- スコープ1、2以外の、企業の事業活動に関連する間接排出(サプライチェーン全体)
- 原材料調達、輸送、製品の使用・廃棄など、幅広い範囲の排出を含む
- カテゴリ分類(例):
- カテゴリ1: 購入した製品・サービス
- カテゴリ2: 資本財
- カテゴリ3: 燃料およびエネルギー関連(スコープ1,2以外)
- カテゴリ4: 輸送・配送(上流)
- カテゴリ5: 事業から発生する廃棄物
- カテゴリ6: 出張
- カテゴリ7: 従業員の通勤
- カテゴリ8: リース資産(上流)
- カテゴリ9: 輸送・配送(下流)
- カテゴリ10: 販売した製品の使用
- カテゴリ11: 販売した製品の廃棄
- カテゴリ12: リース資産(下流)
- カテゴリ13: フランチャイズ
- カテゴリ14: 投資
- 特徴:
- サプライチェーン全体での排出量を把握する必要があるため、算定が複雑でデータ収集が困難な場合が多い
- 自社だけでなく、取引先との連携による削減が重要
- サプライチェーンの見直し、物流効率化、製品の省エネ化などが主な削減手段
各スコープの重要性
- スコープ1、2:
- 企業が直接的に排出量を把握・管理しやすい
- 削減目標設定や進捗管理の基礎となる
- スコープ3:
- サプライチェーン全体の排出量が、自社の排出量よりも大きい場合がある
- より広範な排出削減への貢献を示す
- リスクと機会の把握、ステークホルダーとの対話に役立つ
企業は、GHGプロトコルに基づき、スコープ1、2、3の排出量を算定・報告することで、自社の排出実態を正確に把握し、効果的な気候変動対策を推進できます。
2025年の現状と課題とは
2025年現在、GHGプロトコルは多くの企業で活用されていますが、以下のような現状と課題があります。
- 開示の義務化:
- 国内外で、GHG排出量の開示を義務付ける動きが加速
- 企業は、投資家やステークホルダーへの情報開示が不可欠に
- スコープ3の算定:
- スコープ3の算定は、データ収集の複雑さなどから、依然として課題
- サプライチェーン全体での排出量削減が重要になる中、スコープ3の算定精度向上が求められる
- 国際的な基準の動向:
- GHGプロトコルだけでなく、TCFD、ISSBなど、様々な開示基準が存在
- 企業は、これらの基準を理解し、適切に対応する必要がある
- 中小企業の対応:
- 中小企業は、専門知識や人材の不足などから、GHG排出量の算定・報告が遅れている
- 中小企業向けの支援策が求められる
GHGプロトコルは、企業の気候変動対策において、非常に重要な役割を果たしています。企業は、GHGプロトコルを活用し、自社の排出量を正確に把握し、削減目標を設定・実行することで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
また、開示の義務化やサプライチェーン全体での排出量削減など、今後の動向を注視し、適切に対応していくことが求められます。