エコリクコラム

2025.5.15
トピック
WMO「世界氷河デー」に警鐘 – 加速する氷河融解がもたらす連鎖的影響
2025年3月21日、初の「世界氷河デー」を迎えたこの日、世界気象機関(WMO)は、地球規模で加速する氷河融解とその深刻な影響について緊急の警告を発しました。WMOと世界氷河モニタリングサービス(WGMS)の共同報告によると、世界の主要な19の氷河地帯すべてにおいて、2024年まで3年連続で氷の質量が減少。特に2022年から2024年の3年間は、観測史上最大の氷河消失を記録しました。2024年単年での氷の質量消失は4,500億トンに達し、過去4番目の速さで氷河が後退していることが明らかになりました。
この前例のない氷河融解の加速は、単なる自然現象として看過できるものではありません。企業活動においても、その影響を深く理解し、対策を講じることが急務となっています。
世界気象機関(WMO)とは
WMO(World Meteorological Organization:世界気象機関)は、気象、気候、水に関する国際連合の専門機関です。世界各国の気象機関と協力し、大気の状態や地球の気候、水循環に関する観測、研究、情報共有を推進しています。WMOの発表するデータや報告書は、地球環境の変化を把握し、対策を講じるための科学的根拠となる重要な情報源です。
氷河融解の深刻な影響
氷河の急速な融解は、以下のような多岐にわたる深刻な影響を引き起こします。
- 海面上昇: 融解した氷河の水は海に流れ込み、海面水位を上昇させます。これにより、沿岸部の都市やインフラ、生態系が深刻な脅威に晒されます。企業のサプライチェーンや物流網、事業資産への影響も無視できません。
- 淡水資源の減少: 多くの地域で、氷河は重要な淡水源となっています。氷河の消失は、農業用水、工業用水、生活用水の不足を招き、企業の事業継続や地域社会の安定に大きな影響を与えます。
- 異常気象の誘発: 氷河の融解は、気候システムのバランスを崩し、異常気象(洪水、干ばつ、熱波など)の頻度と強度を増加させる可能性があります。これは、企業のサプライチェーンの混乱や事業活動の停滞に繋がります。
- 生態系の破壊: 氷河周辺の独特な生態系は、氷河の融解によって失われつつあります。生物多様性の損失は、長期的に地球全体の環境安定性を損ない、企業の事業活動にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。
- 地盤沈下や地滑りのリスク増加: 氷河の消失は、地盤の不安定化を招き、地盤沈下や地滑りのリスクを高めます。これは、インフラや事業資産への直接的な損害に繋がる可能性があります。
氷河を救う方法とは
加速する氷河融解を食い止めるためには、地球温暖化の根本原因である温室効果ガスの排出量を大幅に削減するしかありません。企業には、以下の取り組みが求められます。
- 事業活動における温室効果ガス排出量の削減目標設定と実行: Scope 1, 2, 3 の排出量を把握し、科学的根拠に基づいた削減目標を設定し、具体的な行動計画を実行に移すこと。
- 再生可能エネルギーへの転換: 事業で使用するエネルギーを、太陽光、風力などの再生可能エネルギーに積極的に転換すること。
- 省エネルギーの推進: オフィスや工場におけるエネルギー効率を向上させるための技術導入や運用改善を行うこと。
- サプライチェーン全体での排出量削減: サプライヤーと連携し、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に取り組むこと。
- 気候変動対策技術の開発・導入: 温室効果ガス排出量を削減する革新的な技術の開発や導入を推進すること。
日本での動き
日本政府も、地球温暖化対策に向けて様々な取り組みを進めています。
1)2025年2月18日に「地球温暖化対策計画」を閣議決定
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、2035年度に温室効果ガスを2013年度比で60%削減、2040年度には73%削減するという高い目標を掲げた新たな「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。
2)地球温暖化対策計画の概要
この計画では、エネルギー部門における再生可能エネルギーの最大限の導入や、産業部門における省エネルギー・脱炭素化の推進、運輸部門における電動車の普及促進など、具体的な対策・施策が盛り込まれています。企業は、この政府の計画を踏まえ、自社の事業活動における脱炭素化を加速させる必要があります。
WMOの警告は、地球の危機的状況を改めて示しています。氷河融解は、私たちの社会経済活動に深刻な影響を及ぼす可能性があり、企業はもはやこの問題を無視することはできません。
今こそ、企業は持続可能な社会の実現に向け、積極的に温室効果ガス排出量の削減に取り組み、気候変動対策を経営の重要課題として位置づけるべきです。それは、リスクの低減だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出、企業価値の向上にも繋がります。地球規模の課題解決に貢献する企業姿勢を示すことが、これからの時代において、社会からの信頼を得るための重要な要素となるでしょう。