土壌「耕す、耕さない」はどちらも正解である | グリーンジョブのエコリク

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土壌「耕す、耕さない」はどちらも正解である|グリーンジョブのエコリク コラム

2025.3.11

トピック

土壌「耕す、耕さない」はどちらも正解である

コラム「肥沃な土は平等ではなく、そして肥沃な土は減っていっている」で、不耕起栽培について説明しました。
不耕起栽培には脱炭素を進める上でのメリットがありますが、日本では不耕起栽培の農地は全体の0.01%にも満たないといわれています。
不耕起栽培が進まないのは認知されていないだけなのか、それとも取り組むためのハードルがあるのかを説明します。

日本の農業経営対数推移

2024年12月27日に公表されました「令和6年農業構造動態調査結果(※1)」では、全国の農業経営体数は88万3,300経営体で、前年に比べ5.0%減少しました。
このうち、個人経営体は84万2,300経営体で前年に比べ5.2%減少し、団体経営体は4万1,000経営体で同0.7%増加しました。
団体経営体のうち法人経営体数は3万3,400経営体で、前年に比べ1.2%増加しました。 この結果、団体経営体に占める法人経営体の割合は81%となり、その法人経営体の内訳は、会社法人が2万2,400経営体で前年に比べ300経営体増加し、農事組合法人は7,800経営体となり前年並みとなりました。

表1 令和6年農業構造動態調査結果
出所)農林水産省「令和5年農業構造動態調査結果(令和5年2月1日現在)」(※1

※農業構造動態調査とは

農業構造を取り巻く諸情勢が著しく変化する中、農業生産構造及び就業構造に関する基本的事項を把握し、農政の企画・立案、推進等に必要な基礎資料を得ることを目的とした調査のこと。

(農林水産省「農業構造動態調査の概要」(※2)を参照)

農業に参入する法人が増えた背景

農業に参入する法人が増えた背景としては、以下のことが考えられます。

  1. 2009年に農地法が改正され、一般法人が農地を賃借する形態で参入しやすくなったこと。
  2. 集落営農が増えて法人化が進んだこと。
  3. 農作物の製造から販売・加工までを一体として行う農業の第6次産業化など経営の合理化を進めたこと。
  4. 税制上のメリットや資金調達上のメリットがあること。
  5. 法人化による農地の集約と経営の大規模化が可能なこと。
  6. ロボット技術や情報通信技術、画像処理技術、リモートセンシングなどスマート農業化することで生産性が向上し採算が取れようになったこと。

(スマート農業の目的)

  1. 従来から作業量の多さと重労働が当然とされてきた農作業を、省力化・労力軽減すること。
  2. ヒトからヒトへ勘や経験に頼っていたスキルやノウハウの継承を、システム的に完成させること。
  3. 食料自給率の向上を目指すために、少ない人員でも収穫量を高めるための対策。

(スマート農業で求められる技)

  1. 耕起と整地……自動走行式トラクターの無人操縦技術、ICTに基づいた農業用建機
  2. 移植と播種(はしゅ)……乗用タイプの全自動移植機、ドローンによる播種(種まき)
  3. 栽培管理……リモコン式による自動草刈機、自動走行式のスプレーヤー、害獣用の自動捕獲檻
  4. 施肥……ドローンによるリモートセンシング、ドローンによる施肥
  5. 収穫……自動収穫ロボット、収穫した野菜の自動運搬車
  6. 経営管理……農業用の経営管理システム

農業構造動態調査から、現在増加しているのはスマート農業などに参入する企業が多く、少ない人員で効率よく収穫し利益を出していることがわかります。

植物の生育環境を決める生物多様性

従来の農業でもスマート農業でも、土壌の問題は避けられません。

土壌には多種多様な微生物が存在し、その数は1グラムの土壌に約100~1000万にもなるといわれています。
そして、土壌微生物は、自ら相手の微生物の生育を阻害する物質を生産し、スペースを取りあったり、エサを奪い合ったりしながら拮抗します。
一方、お互いに共存するものもあり、増減を繰り返すことで種類と個体数のバランスを保っています。

これを土壌微生物の多様性といいます。
多様性が失われ、バランスが崩れた土壌は、植物の病害や生育不良を招きます。多様性を保つことは、良好な生育環境をつくる上で大切なことです。

連鎖障害

連鎖障害とは同じ作物を同じ場所で繰り返し栽培することによって生育不良や病害虫の発生が起こることです。

連作障害の要因は、①土壌養分の消耗②物理性の悪化③毒素(アレロパシー)などが挙げられます。
しかし、これらは養分補給や土を耕すこと(耕うん)などにより改善し、解決できるため、現代農業においては、大きな問題となっていません。
現在、一般的な連作障害の多くは、同じ作物をつくり続けた結果、土壌微生物の多様性が崩れ、増殖した病原菌によって引き起こされています。
通常、植物は根から養分を分泌しているため、根の周囲1~2ミリの根圏では大量の微生物が活発に動いています。
そのため、病害菌が侵入する余地がなく、病害に対する抵抗力を持っています。

また、最近では、植物体内に生息し病害に抵抗する機能を持つ微生物である「エンドファイト」の存在もわかってきました。「エンド」は体内、「ファイト」は植物を意味し、窒素や糖分などをやりとりしながら共生し、植物の免疫機能を活性化させるとの研究結果があります。
しかし、特定の作物の栽培と収穫は、残渣に残る特定の病原菌が増大し、根圏微生物のバランスで防ぎきれずに発病にいたります。これが連作障害のメカニズムです。

図1 連作障害と土壌微生物
出所)ヤンマー「Vol.2 土壌微生物の世界」(※3

耕すことのメリット・デメリット

農業情報誌『現代農業2023年1月号』(※4)によると、耕すことのメリットは以下の通りです。

  • 整地・ウネ立てがしやすくなる
  • 有機物や肥料を混ぜられる
  • 土がふかふかになる
  • 土壌の無機化が進み、乾土効果が得られる
  • 雑草が抑えられる

一方、デメリットは次の通りです。

  • 耕盤層ができる
  • 硬い耕盤層がつくられると排水性が悪くなる
  • 干ばつ時には耕盤層に遮られて地下水が上がってこなくなる
  • 作物や雑草の根のあとにできた空気や水の通り道や土壌団粒が耕うん作業によって物理的に壊れる

(浅耕、不耕起の使い分け)

土壌が成熟していない場合には、人為的に物質循環を早め、有機物を蓄積することが重要なため浅耕を行う事が多いです。
土壌の腐植含有率が10%を超えるまで浅耕作業を繰り返し、最終的には不耕起栽培に切り替えることがよいと言われています。

カバークロップと不耕起栽培の組み合わせ

茨城大学農学部の小松﨑将一教授ら研究グループは、20年以上におよぶ「耕さない農業」の実証実験の成果を2022年に発表(※5)しています。

実証実験の内容は「カバークロップ」と「不耕起栽培」の組み合わせが、地球温暖化の原因となる炭素を土壌に貯留し、さらには土壌の微生物の多様性を高めるというものです。

国連食糧農業機関(FAO)は環境を保全する農法として、不耕起栽培、カバークロップ、輪作の三つの手法を推奨しています。

カバークロップは日本でも導入する農家が多く、レンゲなどのマメ科植物がよく使われます。
ですが小松﨑教授は、より炭素成分が高く土壌改善効果が高いと思われるイネ科植物に注目しました。
不耕起栽培は植物の根が土中に残るため保水性が高く、土壌侵食が少ないです。
また、農業労働の3割を占める耕耘に費やすエネルギーが省けることからも、欧米では盛んに行われていますが、日本での実施例はまだ少ない状況です。
その理由は温暖湿潤気候の日本では雑草が多発し、作物の発芽、生育を妨げてしまうのが大きな理由です。

不耕起栽培を行う上での雑草の対処として、雑草の根を残して刈り取ることです。
刈り取った草や落ち葉など、有機物を畑に積んでおくか、あるいはカバークロップ(被覆作物)を常に生やしておくことが重要です。
土をむき出しにすると日射や風雨で土壌構造が破壊され、保水力や保養力が著しく低下します。
逆にバイオマスを与えることで有機物が土壌生物・微生物のエサとなり豊かな土壌が育まれます。
また、多様性を高めるため混植も大事です。

一つの作物だけを植えるのではなく、複数の作物や雑草を一緒に生やすことで生物多様性が増して生態系が安定するといわれています。多様性は作物の病害虫への抵抗力を高め、農業をするうえで経済的な安定にもつながるというメリットがあります。

雑草問題

不耕起栽培ではどうしても雑草の対策が必要になります。

アメリカの大規模農場では除草剤をまいている地域もありますが、これではせっかく育った土の中の根を全て枯らしてしまうというデメリットがあります。
植物の根は菌類と共生関係を結んでいて、土壌の健康には欠かせない存在なので、できるだけ生きた根を土の中に残しておくことが重要です。
雑草が生えてきたら根を抜かずにそれを刈り取って、そのまま地面にかぶせておいたり、落ち葉や刈り取ってきた草を草マルチとして畝にたっぷりのせたりします。
そうすると地表まで届く光が遮断されるので雑草がはびこることを防げます。

ただ、不耕起栽培だと、劣化している土壌だと収穫量が下がったり、作物が取れ始めるまで時間がかかるデメリットがあります。
また、不耕起栽培の原則として単作ではなく複数の作物を混植すること、そうでなくとも時期をずらしながら常に畑に複数のカバークロップを生やしておくことが挙げられています。
これを実現するには単作で栽培してきたこれまでの経営方法とは異なった考え方をしていく必要があり、不耕起栽培への転換のハードルになる可能性があります。

現在、雑草を刈り取る草刈り機にGPSを搭載するなどIT化も進んいますが、作業が増える、生産量が安定しないなど、スマート農業を進めている法人経営体では経営の転換が必要になります。

ただ、不耕起栽培は農地をCO2の吸収源にでき、土をかき乱さない、常に草で覆う、そしていくつもの種類の植物を生やしておく、この三原則を守るだけではじめられます。
確かに不耕起栽培に向かない作物もありますが、これからも注目される題材であり、様々な研究がおこなわれています。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

  

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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