エコリクコラム

2025.3.7
トピック
地球温暖化対策に微生物を
二酸化炭素の吸収源となる森林生態系の解明は、地球規模の炭素循環を理解する上で重要な役割を担っています。森林で起きている炭素循環、それと微生物の研究による温暖化対策について説明します。
土壌呼吸
土壌には枯葉や枯死根、枝、倒木など植物に由来する有機炭素が豊富に蓄えられています。
そのため、土壌表面からは多量の二酸化炭素が排出されていて、このことを土壌呼吸といいます。
土壌呼吸は、微生物が土壌の有機炭素を分解することで発生する二酸化炭素(微生物呼吸)と、植物の根の新陳代謝によって発生する二酸化炭素(根呼吸)から成ります。
陸域生態系の炭素収支において、土壌呼吸は光合成の次に規模が大きく、重要な要素です。
地球規模の土壌呼吸は、年間約3,600億トン(二酸化炭素換算)と推定されており、そのうち微生物呼吸は約7割を占めています。
この微生物呼吸量は人為起源の二酸化炭素排出量の約10倍にも相当します。
そして微生物呼吸は、温度の上昇に対して増加します。
つまり、少しの温度上昇でも、微生物呼吸量は顕著に増加します。
そのため、地球温暖化によって微生物呼吸量が増加し、さらに温暖化に拍車をかける悪循環が想定されています。

出所)国立環境研究所「森林生態系における炭素循環のプロセスと土壌呼吸」から抜粋(※1)
地球環境研究センターニュース 2017年1月号で掲載された「地球温暖化によって土から排出される二酸化炭素の量は増えるのか?」(※2)では、1°C当たりの温度上昇に対する微生物呼吸の増加率を6年間観測した結果、増加の平均値は9.4%という結果が出ています。
土壌の研究状況
土壌は鉱物と有機物、生物などの混合物とされていますが、そのバリエーションは無数であり、解明に至っていません。
土壌には大小様々な空間があったり、水分があったりなかったり、温度も周辺環境次第と、とても複雑で多様性に富んでいます。
近年では生物的側面からの研究も盛んに行われるようになり、その結果、特に植物の根の周りには、「根圏微生物叢(こんけんびせいぶつそう)」と呼ばれる、特定の微生物集団からなる生態系のようなものが形作られていることが明らかになりました。
各微生物はその生態系の複雑なネットワークの中で共存しており、ある有用微生物がその土壌で有用性を発揮するのも、他所から持ってきた有用微生物が新たな土壌で有用性を発揮できないのも、その生態系内での相互作用のためだと考えられています。
有用土壌微生物には、成長促進や病害抑制など植物に良い影響を与えるものも多数知られています。このような有用微生物の有効利用への道がようやく拓かれつつありますが、どうやってその複雑な生態系を作り出すことができるのかはまだよく分かっていません。
また、根圏微生物叢を構成する各微生物はどのようにして植物の根を見つけて集まってくるのか、土壌や植物根のどこかに特定の棲家があるのかどうか、微生物や植物、土壌(鉱物)の間に相性のようなものがあるのかなど、まだまだ分からないことばかりです。
その中で、自然界に数多く存在する微生物が持つ「分解」「処理」などの能力を活用することで地球温暖化に対応できないかという研究が進んでいます。
バイオレメディエーション
生物の働きを利用し汚染物質を分解することによって、土壌や地下水など環境汚染の浄化を図る技術のことを「バイオレメディエーション」といいます。
バイオレメディエーションは3つあります。
1つ目は、外部で培養した微生物を導入することで浄化を行う「バイオオーグメンテーション」です。
2つ目は、浄化する場所に生息している既存の微生物に栄養物質等や酸素を加えて微生物を活性化する「」です。
3つ目は、植物を利用して土壌の浄化を行う「ファイトレメディレーション」です。
バイオレメディエーションに利用される微生物はどれでもいいわけではありません。
例えば、石油を分解するには、石油に適応能力のあるカンジダ属やアシネトバクター属などが選ばれています。
また空気中で揮発しやすいトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物の分解には、酸素を好む好気性細菌と酸素を嫌う嫌気性細菌などを状況によって選ぶなどこれまでの研究でどの微生物が効果が高いかなど実証実験が続けられています。
光合成を行って酸素を発生させる細菌 シアノバクテリア
火山活動が活発な海底熱水噴出孔で発見された新種のシアノバクテリアが注目を集めています。専門誌 Applied and Environmental Microbiology に発表された最近の論文(※3)によると、この細菌は他のシアノバクテリアと比べても優れた大気浄化能力を有しており、もし科学者たちがその遺伝子を改良できれば、廃棄物が少ない炭素回収システムに応用できるかもしれないといいます。
市民参加型のプロジェクト
N2O(一酸化二窒素)は、二酸化炭素やメタンに次ぐ第3の温室効果ガスであり、農業などの食料生産によっても発生しています。
このガスは二酸化炭素の約296倍の温室効果を持ち、またオゾン層を破壊する最大の原因物質でもあります。
そこで、土の中にはN2Oを消去できる微生物を利用してN2Oの排出を抑える技術の開発をしている東北大学大学院 生命科学研究科 大久保智司 特任助教が中心となり市民参加型プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」を始動しています。
この「地球冷却微生物を探せ」は、内閣府が主導する国家事業であるムーンショット型研究開発事業「資源循環の最適化による農地由来の温室効果ガスの排出削減」の一部で、全国にお住まいの方に採取キットを配布し、様々な場所から土とその周辺の空気を収集しているプロジェクトです。
「土」に関してこのように大規模な収集を行った研究は他に類がなく、この市民参加型のプロジェクトのサンプルから得られたデータは他の研究にも活用されることが決まっています。
地球温暖化を解決するためには様々な研究がおこなわれています。