エコリクコラム

2025.2.28
トピック
ホワイト水素は脱炭素の切り札になるのか
地球温暖化が深刻化する今、脱炭素社会の実現は人類共通の目標です。
対策の一つとして挙がることが多いのが水素エネルギーです。
水素エネルギーとは、水素が燃焼などによる化学反応を引き起こした場合に生じるエネルギーのことです。
水素は地球上に豊富に存在し、燃焼しても二酸化炭素を排出しないので、脱炭素対策にメリットの大きいエネルギーです。しかし、水素の製造コストが高いと思われていました。
2025年2月21日にCNNが「ホワイト水素と呼ばれるエネルギー源が各地の山脈に大量に埋蔵されている可能性がある」と報道しました。
水素エネルギーとこの報道がどれほどのインパクトがあったのかを説明します。

出所)Tokyo水素ナビ「水素エネルギーとは」から抜粋(※1)
水素エネルギーを取り巻く環境
水素はさまざまな資源から製造できることに加え、燃焼反応の際に、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しません。
水素は水から生成することが可能で、燃焼する際に二酸化炭素(温室効果ガス)を排出しないクリーンなエネルギーです。さまざまな形状(気体、液体、固体、など)で貯蔵、輸送が簡単です。
水素エネルギーの最大の魅力は、燃焼時に水しか排出しないクリーンさであり、多様な資源から製造可能で、エネルギーセキュリティにも貢献しますが、コストの高さやインフラ整備の遅れなど、課題も山積しています。
水素エネルギーの生成方法
水素エネルギーはその生成方法によって、水電解法、蒸気改質法、メタル水素化法、生物由来水素、の4種類に分類できます。
(水電解法)
水に電気を通すことで水素と酸素を分離する(電気分解する)最も一般的な水素を取り出す方法です。
しかし、電気を発生させるために石油や石炭などの化石燃料を利用するため、地球環境に負荷がかかり、費用もかかります。
尚、現在実用化されている水電解装置には、「水酸化カリウム」の強アルカリ溶液を使用する「アルカリ型水電解装置」と、純水を使用する「固体高分子(PEM)型水電解装置」の2種類があります。
福島で実証が進められているのはアルカリ型で、固体高分子型については、山梨県甲府市で国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証が進められています。
現在、コストや稼働時間の観点からはアルカリ型の方がすぐれており、発電量が気象に大きな影響を受ける再エネに対する柔軟性やコンパクト化の観点からは固体高分子型がすぐれているとみられています。また、研究段階のものとして、「固体酸化物型水電解(SOEC)装置」もあります

出所)資源エネルギー庁「次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?」から抜粋(※2)
(水蒸気改質法)
高温・触媒の状態にある天然ガスやナフサといった化石資源に、水蒸気を吹き込んで反応させることで、合成ガス(水素ガス)を得る方法です。前述した水電解法よりも安価に水素を製造できます。
(メタル水素化法)
金属に水素を吸着させて水素を製造する方法です。上記の水電解法や水蒸気改質法よりも効率的に水素を製造することが可能とされています。
(生物由来水素)
微生物や藻類などの生物から水素を生成する方法で、地球環境にとても優しい水素を製造する方法ですが、水素の純度が低いです。
グレー水素・ブルー水素・グリーン水素について
水素には、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」といった種類があります。

出所)資源エネルギー庁「次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?」から抜粋(※2)
グレー水素やブルー水素といった化石燃料をベースとした水素をつくる場合には、化石燃料を燃焼させてガスにし、そのガスの中から水素をとりだす「改質」と呼ばれる製造方法がとられています。
メタンガスなどを改質して水素をつくる方法(水蒸気改質法)は、すでに工業分野で広く利用されていますが、CO2が排出されます。
水を「電解」つまり電気で分解して水素をつくる製造方法もあります。ここで再エネ由来の電力を利用すれば、グリーン水素をつくることができます。
ただ、水を電気で分解するには大規模な量の電力が必要となります。
現状、水素エネルギーを生成・利用するための環境が整備されてはいないので、これまでの化石燃料を利用する発電方法で製造された電気の方がコスト面においては有利ですし、大量に水素エネルギーを生成するには大規模な電力が必要になっていました。
新たな希望、ホワイト水素
2025年2月21日にCNNが報道した「ホワイト水素と呼ばれるエネルギー源が各地の山脈に大量に埋蔵されている可能性がある」はこの水素エネルギーを推進する上で大きな希望になります。
「ホワイト水素」は地中で自然に生成される水素であり、クリーンで低コストのエネルギー源として期待されています。
このホワイト水素が地殻内部に大量に存在していることは20から30年前に一部の科学者から伝えられていましたが、どこに人類のエネルギー需要を満たすに十分な埋蔵量を発見できるかが長年調査されていました。
(ホワイト水素生成プロセス)
水素の生成には3つのプロセスがあります。
1つ目は水の放射性分解です。
岩石中に含まれる微量のウラン、トリウム、カリウム等の放射性元素の壊変により発生する放射線によって水が分解され水素が発生します。
この反応は速度が遅いため、先カンブリア紀などの古い岩体において、長い時間をかけての水素生成がされている可能性があります。
また、ウランなどの放射性元素を多く含む性質のある花崗岩類は水素生成ポテンシャルが高いと考えられています。
2つ目は蛇紋岩化反応です。
かんらん岩等の超苦鉄質岩が変質して蛇紋岩となる際に、水素が発生します。
反応速度は比較的速く、天然水素の生成プロセスの中でもっともよく研究されているプロセスでもあります。
日本にある温泉には、蛇紋岩体を掘削した温泉があり、トルコのChimaeraや高純度の水素が観測されているオマーン・Samailオフィオライトも同様のプロセスで水素が生成しています。
3つ目は、水素を大量に含む地球深部のコアや下部マントルから排出された水素が、プレート境界や断層に沿って浅部まで上昇するものです。
この3つの中から研究者は2つ目の蛇紋岩化反応に注目しました。
蛇紋岩化反応とは
蛇紋岩化作用を引き起こす元となるのは、かんらん石((Mg0.9Fe0.1)2SiO4)と水です。そして、反応の結果として、蛇紋岩(Mg3Si2O5(OH)4)、ブルーサイト(Mg(OH)2)、 磁鉄鉱(Fe3O4)、水素ができます。
蛇紋岩作用が特に起こりやすい場所として、沈み込みプレート境界が挙げられます。蛇紋岩化作用のもととなる、かんらん岩は上部マントルに存在しており、沈み込みプレート境界でプレートととともに沈み込んだ水や含水鉱物と上部マントルのかんらん岩が反応し蛇紋岩化作用を引き起こします。
日本は以下の4つのプレートの上に乗っかるような状態で存在しています。
- 北米プレート
- ユーラシアプレート
- 太平洋プレート
- フィリピン海プレート

出所)内閣府 防災情報のページ 令和2年版 防災白書|附属資料1「世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界」(※3)
そのため日本は火山活動が活発なため、ホワイト水素の宝庫となる可能性があります。
水素エネルギーは、まだ発展途上の技術です。しかし、技術革新や更なる研究が進めば、脱炭素社会の実現に大きく貢献するでしょう。今後、ホワイト水素の結果と発表に注目が集まります。