エコリクコラム

2025.2.18
トピック
企業の脱炭素経営とCDPについて
現在、企業の環境に対する取り組みが、企業価値に大きく影響を与えています。
企業の環境に対する取り組みを進めていく中で、また投資市場で、環境分野の国際的なNGO団体であるCDPという名を聞くことが多いと思います。
企業がサステナビリティを考える上で必須のCDPの組織と2024年度の変更点について説明いたします。
CDPとは
CDPは、投資家、企業、国家、地域、都市の活動やそれに伴う環境影響を評価・情報公開するプラットフォームを運営する英国の非政府組織(NGO)です。
2000年に「Carbon Disclosure Project」として組織が作られた時は脱炭素について働きかける団体でしたが、現在では森林保全や水質保護にまで活動の範囲を広げています。
CDPは環境課題に対する企業の取り組みを質問書という形でヒアリングし、環境に与える影響に関して情報開示をすることを促進しています。
また、CDPはSBT(パリ協定と整合した温室効果ガスの削減を目指す国際イニシアティブ)やRE100(企業が事業活動で使用する電力を再生可能エネルギーで100%まかなうことを目指す国際イニシアティブ)の設立・運営にも携わっている団体であり、環境保護に関する複数の国際基準の設定に関与しています。
環境への取り組みという数値化が難しい部分について客観的な評価が得られるとして、CDPの活動は世界中の機関投資家から支持されています。
CDPの3つの質問書とスコアについて
CDPでは、世界中の企業に対して以下の3つの質問書を通して情報を集めています。
- ① 気候変動
- ② フォレスト
- ③ 水セキュリティ
(気候変動)
企業のCO2排出量や、企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法であるカーボンプライシングの活用状況、事業戦略、ガバナンスなど幅広い内容で総合的に企業の温室効果ガス排出への取り組みを調査します。
(フォレスト)
森林を保全するために各企業がどのような取り組みをしているか、また企業が使用する木材や畜産物・農作物といった原材料の製造過程が森林減少に影響を与えていないかを調査します。
(水セキュリティ)
事業計画が水に与える影響、水資源の不足について、企業に改めて理解を促す役割もあります。
CDP回答のメリット
CDPは、情報公開を行うことによって企業が得られるメリットとして、以下を挙げています。
- ・企業の評判の維持・改善
- ・企業競争力の強化
- ・取り組みの強調
- ・リスクと機会の発見
- ・規制の先取り
外部からの評判や内部の戦略の見直しにつながる取り組みとして、CDPに回答することは大きなメリットがあります。
また、CDPが作成する質問書や評価基準は、TCFDやSBTなどの国際的に認知された基準に従っています。それ以外にも、RE100、IUCN、CEO Water Mandate、Accountability Frameworkなどの基準に整合したものとなっています。
そのため、CDPの枠組みの中で高い評価を得る企業努力をすることは、その他の環境問題への対策やその情報公開に関する基準を満たすことにもつながっています。
世界の動向について
CDPは現在、130兆米ドル以上の資産を保有する740を超える署名金融機関と協働しています。
そして2023年、CDPを通して署名金融機関や購買企業・機関から回答要請を受けた企業のうち、全世界で時価総額の3分の2を超える約23,000社(日本企業約2,000社を含む)が気候変動、フォレスト、水セキュリティに関する情報を開示しました。
CDPは2023年のスコア公表直後、気候変動質問書回答に関するコメントでは、CDPが定義する気候移行計画の21の指標を網羅する企業は気候移行計画を開示した4000社以上の企業のうちわずか81社であり、1.5度の世界との整合という観点から見て企業のパフォーマンスは厳しいものになっているとあります。
日本では2023年において、要請を受けた企業の質問書回答数が3テーマ合わせて1985社(2021年は1056社)、気候変動は1984社、水セキュリティは706社(2021年は261社)、フォレストは138社(2021年は87社)と、着実に増えていることがわかります。
2024年から適用される質問の統合をきっかけに、影響度の高い企業を中心とした回答数の増加が見込まれます。また、日本のAリスト企業は気候変動110社、水セキュリティは36社、森林は7社が認定されていました。
環境に関する情報開示の評価機関として、CDPは今後もより多くの国内外の企業に活用されるでしょう。
(1.5度についての補足)
「1.5度」という数字は、2015年のパリ協定で気温上昇の抑制目標値として合意して以来、気候変動に関する国際交渉において強力な象徴性を持つようになっていました。 しかし、世界の平均気温は記録が残る1850年以降、2024年度の平均気温は最も高く、工業発達以前と比べて初めて1.5度以上高くなってしまったと、欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が1月10日に発表しました。
尚、「1.49度なら大丈夫で、1.51度がこの世の終わりというわけではない。気温が0.1度ごとの上昇には意味があり、温暖化が進むほど気候への影響は漸進的に悪化すると、アメリカの研究グループ「バークリー・アース」の気候科学者ジーク・ハウスファーザーウジは説明しています。
そのため、より一層の対応が企業には求められることになります。(※1)
CDP2024年の主な変更点
CDPは、2021年~2025年の戦略として、1.5℃かつネイチャーポジティブなシナリオに沿った企業・金融市場の移行のサポートを掲げていて、2024年度の様々な変更もこうした背景から起きています。
主要な変更点は以下の通りです。
- ・気候変動・水セキュリティ・森林(+生物多様性・プラスチック)の3つの質問書の統合
- ・IFRS S2との整合
- ・TNFDやESRSとの関係性
- ・森林質問書とスコアリングに関する変更
- ・テーマ割り当て制度の変更
- ・金融サービス企業向け
- ・中小企業(SME)向けの専用質問票の導入
変更における影響範囲
気候変動・水セキュリティ・森林(+生物多様性・プラスチック)の3つの質問書の統合によって、テーマ別に公開・非公開の選択ができなくなります。
そのため、回答企業は自らの事業だけでなく、バリューチェーン全体に関する知識を持ち、網羅的な可視性を高めることも求められます。
もう一つは中小企業(SME)向けの専用質問票の導入です。
この中小企業(SME)向けの質問票の対象となる中小企業は、従業員数が500人、収益が5000万米ドルとなっており、選択できるオプションも含めて下図のようになっています。

出所)EHS総合研究所 「Corporate-Disclosure_Key-changes-for-2024_Part-II」を和訳して作成(※2)
CDPに基づく情報開示を行っていない中小企業にとっては、どこに注意を向けるべきかを容易に理解できるようになるメリットもありますが、対応できる人材が社内にいない、知識がない企業も多いです。