気候変動で長期化する花粉〜課題解決に向けての取り組み~ | グリーンジョブのエコリク

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2025.1.28

トピック

気候変動で長期化する花粉
〜課題解決に向けての取り組み~

2025年1月8日。東京都でスギ花粉の飛散が確認されました。これは1985年の統計開始以来、最速の確認になります。
そして、ウェザーニュースが発表する「2025年花粉症飛散傾向」では、西日本は例年の2倍となる地域もあり、過去10年で花粉の飛散量が最大になる可能性もあります。
この花粉症の影響は日本だけでなく、アメリカ、カナダでも花粉症シーズンの影響が深刻化しています。
「世界経済フォーラム」は花粉症の深刻化は気候変動の影響があると、2023年4月12日のコラム「気候変動で長期化する花粉シーズン」(※1)で掲載しています。

花粉症による経済損失

政府広報オンラインでは、日本国民の3人に1人がスギ花粉症にかかっており、花粉症による生産性の低下は、年間で2,215億円の経済的損失を招くと試算しています。また、この経済的損失に医療費を合わせると年間で2,860億円の損失になります。

2023年に政府は、花粉症を国民病として、関係閣僚会議を立ち上げ「①発症等対策」「②発生源対策」「③飛散対策」の3本柱で対策を施行することを決定し対策をしています。

具体的には、診療ガイドラインの改訂や舌下免疫療法(SLIT)の推進、リフィル処方箋の活用推進などがおこなわれています。

花粉症の主な症状である鼻、眼、のどの症状については、1日にくしゃみと鼻かみが各11回以上、鼻閉による口呼吸が1日のうちでかなりを占める場合は「重症」と評価され、花粉症が重症化するとQOLが著しく悪化します。

QOLの評価指標であるEQ-5D-5Lを用いた値では、重症花粉症のQOLは糖尿病や骨折、乾癬よりも悪いことがわかっています。

気候変動の影響

世界的な問題となっている花粉症ですが、年々悪化の一途をたどっているのには、気候変動が大きく関係しています。
風に乗って運ばれる花粉の飛散は、気温や雨量の変化と密接に関係しており、気候変動で春の気温が上昇すれば、植物が花粉を飛ばす時期も大幅に早まります。

3月15日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された研究によれば、アメリカで飛散する花粉の量は気候変動により、2100年には現在の平均より40%も増える可能性があり、飛散は最大で40日早く始まり、19日長く続くとあります。

日本における花粉症対策

図1 スギ・ヒノキ人工林の全国分布
出所)林野庁Webサイト「スギ・ヒノキ林に関するデータ」より(※2

日本の花粉症の約70%がスギ花粉によるものと推測され、日本人の3人に1人が花粉症と言われています。

この背景には、日本の国土に占めるスギ林の面積が多く、国土の12%をスギ林が占めていることが原因と考えられます。
ここまでスギ林が占めたのは戦中・戦後に資材、燃料としての過度の伐採で森林が荒廃し、全国にはげ山が広がり、台風などにより度々各地で甚大な災害が発生。 その後、昭和35年の所得倍増計画、高度成長期における薪炭材の需要の低下と、住宅建築などに伴う用材需要の増大により、天然林を人工林に転換する拡大造林への要請が高まりました。
こうした中、荒廃した林地への緑化運動の展開や、天然林伐採跡地への植林の拡大にあたり、日本の固有樹種で加工しやすく、幅広い用途に使えるスギが植えられました。

けれど、スギ林の伐採は、伐採後に花粉の少ない苗木を植えるなどして、きちんと森林に戻していかなければ、水害や山地崩壊などの原因になります。

対策とサステナビリティ領域の業務について

こうした中、日本では、林野庁を主体として無花粉スギや花粉をほとんど出さない少花粉スギの苗木の生産拡大に取り組んでいます。

花粉を飛散させる既存のスギ林を伐採し、こうした花粉の少ない苗木に植え替えることで、花粉の発生源を減少させている計画を立てています。
2019年までに生産された無花粉及び少花粉スギの苗木は1,212万本で、スギ苗木全体の生産量の約5割を占めました。林野庁は、今後、2032年までにその割合を7割にすることを目指しています。

無花粉品種開発をさらに効率化させるためには、雄性不稔をもたらす遺伝子とその塩基配列の解明が求められてきましたが、スギはイネの20倍以上大きく、複雑なゲノムを持つことから配列の解読が難しいとされていましたが、近年のゲノム解析技術の進歩により、森林総合研究所や、東京大学など複数の大学からなる日本の研究グループが、スギが持つ11本の全ての染色体をカバーする塩基配列の解読に成功しました。
これにより、有用な無花粉品種の開発・育成が加速するとともに、スギの進化過程の予測や、気候変動の影響予測にも大きく役立つことが期待されています。

また、花粉飛散の予測については難しいとされてきていますが、膨大なデータの解析DX推進により対策も進んできています。
技術の進歩により、アレルギーを軽減させるための対策や取り組みは、対症療法に過ぎません。根本的な原因である気候変動への対策が重要です。

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執筆者

神戸 修(こうべ おさむ)

  

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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