アメリカ「パリ協定」からの脱退は対岸の火事ではない | グリーンジョブのエコリク

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アメリカ「パリ協定」からの脱退は対岸の火事ではない|グリーンジョブのエコリク コラム

2025.1.27

トピック

アメリカ「パリ協定」からの脱退は対岸の火事ではない

2025年1月20日、アメリカのホワイトハウスは、共和党であるトランプ大統領が就任した直後、気候変動問題に対する国際的な枠組みである「パリ協定」から脱退すると発表しました。
トランプ氏は前回、大統領に就任した2017年にパリ協定からの脱退を表明したことより、この行動は既定路線ではありますが、この脱退は対岸の火事ではなく、多くの企業に影響を及ぼす出来事であると考えられます。

アメリカにおけるESG投資の論争

【背景】

ESG投資の概念は、国際連合が支援する組織である「責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)」によって2006年に導入されました。
ESG投資は、投資家が企業の持続可能性に関わる取組を評価するための枠組みを提供するものであり、伝統的な財務モデルを超えたリスクと機会を考慮することで長期的利益をより高める可能性があります。
リスクを軽減し、より良い結果を実現するために、排出削減や経営陣の多様性などの要因が評価されます。PRIの設立以来、ESG投資は、財務情報非財務情報統合し、長期的な視点から評価するために使用されてきました。
しかし、この概念に対する見解の相違がアメリカでは顕在化しつつあります。

【高まる反ESGの3つの要因】

ESG投資への批判は、(1)リベラルと保守の対立、(2)化石燃料産業の保護、(3)ESG投資自体の曖昧さという主に3つの要因になります。

(1)リベラルと保守の対立

アメリカでは、ESG要因を投資判断プロセスに含めるべきか否かの規制ガイドラインに対する意見が、約30年にわたって揺れています。
共和党は、ESGが短期的な利益の最大化を抑制してしまい、ビジネスに悪影響を及ぼす主張しています。

(2)化石燃料産業の保護

2010年ごろからシェールオイルの生産が急増したことから、アメリカは世界一の石油輸出国としての地位を築いてきています。その結果、石油抽出が主要産業となっている州を中心に、化石燃料セクターを保護するための一貫した取り組みが存在しています。
アメリカが世界一の石油輸出国としての地位を築いた背景の一つに、「ロシア・ウクライナ問題」があります。
欧州連合(EU)加盟国はロシアの戦費につながる資源収入を断つため、対ロシア制裁を強化し、2022年12月に海上輸送による原油輸入を停止したほか、2023年2月に石油製品の輸入も禁止しました。
また、ロシア産のガス輸入抑制を目的に国内消費量の15%削減に努めながら、2027年までに全てのロシア産化石燃料を禁輸する計画で進めています。
ロシア産エネルギーの代替調達を進める欧州にとっての最大支援国は、アメリカです。
アメリカは豊富な国内生産量を駆使して、欧州市場に石油や天然ガスを積極的に輸出しています。
2022年の原油輸出量は、イギリス・ドイツ・イタリア向けで前年比プラス約30%を記録し、対フランス・スペインで4割ほど伸びています。

図1 アメリカの欧州各国への原油輸出量(2019~2022年)
出所)笹川平和財団「石油・ガス輸出国としてのアメリカ:米欧エネルギー協力の進展」(※1
(3)ESG投資自体の曖昧さ

ESGの枠組みは、独立して取り組まれていたさまざまなトピックを統合し、投資判断を行う際の包括的な視点を提供しています。
この統合的なアプローチは、司法や貿易協定など、他の分野でも適用されています。
しかし、人権と環境問題の間に見られるように、ESGの異なる側面の間には明らかなトレードオフが存在しています。
企業のESGパフォーマンスを評価する際には、環境・社会・ガバナンスの各要素にスコアがつけられ、それらが組み合わさっています。
また、ヨーロッパでは、過去ESG投資家は軍需産業に関与する企業を除外してきました。
けれど、ロシアとウクライナの間で紛争が勃発すると、一部の機関投資家は立場を転換し、以前の軍需産業に対する除外を撤回するなど一貫性がないと主張をしています。

アメリカにおける気候変動の被害

アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、10億ドル級災害の発生が史上最多、記録的な高温の年と、2023年のアメリカの気候について報告しています。
10億ドル級の災害は28件、うち最多は竜巻・雹・雷雨等の暴風雨で17件、ついで水害4件、熱帯暴風雨2件ありました。
気候変動リスク非財務リスクではなく、財務リスクであることがわかります。

今後のアメリカの対応

【アメリカ企業が環境に取り組む意識】

「企業・地域ごとに差」
アメリカ国内の大企業は、日本企業の取り組みよりも対策、考えは進んでいます。
一方、脱炭素化への取り組みに関心が低い企業も一定数あります。その背景として、強制されているわけではないため、まだ取り組んでいないといった状況です。
また、地域差も大きく、カリフォルニア州を含む西海岸、ニューヨーク州を含む北東部、イリノイ州などは、環境規制も進みやすく、取り組みも相対的に進んでいます。
他方で、中西部や南部では、製造業が多い地域ですが、あまり進んでいません。

【パリ協定脱退後の動きを推測】

アメリカは州レベルの力が強いため、地方政府やビッグテック企業など、環境への取り組みを積極的に推進している企業は、今まで以上に活動を強化し情報を発信していく可能性がある。
また、グローバル企業はアメリカ国内の政策にかかわらず、環境規制を意識せざるを得ない。こうしたことも踏まえれば、長期的にみると、脱炭素化推進という大きな流れは変わらないのではないかと推測している。

【今後の展開を予想】

アメリカ国内の環境規制が一時的に減速したとしても、世界的な潮流は変わらないと予想します。
特に欧州のCSRDをはじめとした環境規制は、アメリカ企業も含めてグローバルに影響を及ぼします。
アメリカ国内の規制の動向を見ることも重要ですが、特にグローバル企業と付き合いがある日本企業は、引き続き脱炭素化対策を進めていく意識を持つことが重要となります。
また、連邦レベルの規制のみならず、アメリカは州ごとに規制が異なるため、関係がある州の規制は注視していく必要があります。
世界情勢が変わる中でも、サステナビリティ領域での人材のニーズは高い状況が続くと予想しています。

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執筆者

神戸 修(こうべ おさむ)

  

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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