なぜ、「人的資本」に注目が集まるのか ~ESG経営の推進がもたらす、企業の最大の変化は?~ | グリーンジョブのエコリク

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2024.3.25

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なぜ、「人的資本」に注目が集まるのか ~ESG経営の推進がもたらす、企業の最大の変化は?~

このコラムをお読みの企業関係者の皆様の中には、「人的資本」をESG経営で開示対応すべき要素、KPI管理をすべき項目の一つとして理解しておられる方も多いと思います。「E:環境課題」対応における脱炭素社会の実現にむけたGHG(温室効果ガス)管理、循環型社会形成にむけた資源管理と同次元で、社内の「S:社会課題」ではダイバーシティの観点から女性管理職数、人材育成方針や社内環境整備方針、リスキリングの体制などの把握と情報開示が必要である、と。

確かにそれは、重要な管理・開示事項です。しかし、「ESG経営の実践」自体が人材育成に果たす効果が見えれば、「人的資本」に対する理解は格段に深まってくるはずです。

存在感を拡大する「人的資本」分野と「ESG経営ジレンマ」

日本で経営における「人的資本」の重要性を有名にしたのは、2020年9月の経済産業省のプロジェクトで座長を務められた伊藤邦夫先生(一橋大学 名誉教授)の下でまとめられた「人材版伊藤レポート」の公表がきっかけでした。さらに、2022年には日本でも人的資本情報の開示指針となる世界標準規格「ISO30414」認証取得企業が登場し、2023年度からは上場企業を中心に有価証券報告書へ人的資本情報の記載が義務づけられています。「人的資本」は、ESGの「管理」項目として、GHG管理と並んで企業が最も力を注ぐ分野となっています。

実は、ESG経営に向けて企業のニーズの高い「マーケット」では、それを支援するビジネスが登場しますが、現在、システム系プロバイダーによる導入提案が大きくシェアを拡大している分野が、「炭素管理ソフトウェア」と並んで、「HRテック(Human Resources/人的資源+Technology/テクノロジーの造語)」の領域です。従業員の取得資格などだけであれば表計算ソフトで管理できても、それに留まらず、従業員の企業に対するエンゲージメント、企業の能力評価に対する従業員自身の納得感などやそれらの複雑な相関関係が企業の持続的成長に果たす効果は非常に見えにくいものでした。しかし、極めて高度なAIがその可視化、一定の関係性評価を可能にし始めてきたことにより、これまで「勘と経験」に委ねられがちであった人的資本管理の分野でも、HRテックの可能性に気づいてシステム導入する企業が増えています。

企業のESG経営のドライバーは「投資対効果」、すなわち、どのような活動をすればどのような効果が上がるかが見えることです。ESG経営の効果が見えなければ、その改善に投入すべき経営資源が投入できるか決定できず、その結果、施策も進まないという「ESG経営のジレンマ」から抜け出せません。二酸化炭素をt-Co2(1トンを意味する単位)で数値化できたことで改善の進んだ炭素管理のように、今後は人的資本についても、企業ごとに効果進捗管理が進み、経営資源の投資判断の説得力が進むと予測されています。

ESG経営が創出する最も大切な効果

以上の説明からすると、HRテック導入可能な大企業しかESG経営における「人的資本」の活用が難しいのではないかという声もありそうですが、もちろんそんなことはありません。その説明として、ESG経営に取り組むことによって期待できる効果に関して、中小企業も対象にした一つの調査(※1)をご紹介したいと思います。

この調査では、ESG経営に取り組んだ結果、得られた効果として、第1位は、コスト削減でした。脱炭素のための省エネや節水によって、オフィスや生産加工プロセスでの光熱費や水道料金の削減がなされますから、これはほぼ予想通りの効果と言えます。第2位は、環境や社会への配慮による他社との差別化(企業イメージや商品・サービス等)でした。これも多くの方にとって、予想通りといえるでしょう。

しかし、第3位になったのが、意外にも、従業員の意識が良い方向(主体的な行動をとる等)に変化するというものでした。中小企業においてもこういう自律性向上の効果を得られるのは、一つには、複雑多様な価値観を包含する社会における課題解決のためには、社会価値を提供する企業の側も「多様な価値観を持った個人が、相手の価値観を理解し尊重しながら、相乗効果を発揮していく」組織であることが不可欠となるからです。そして、ESG経営は何よりも長期的な時間軸を前提に企業の持続的成長を視野に入れた経営であるからです。

ESG経営を、単なるESG情報の抽出・管理と開示の仕組みと表層的に捉えることなく、従業員一人一人が幸せに自己実現をし、それによって企業全体で革新的な社会課題を解決する、本来のサステナブル企業を目指して進んで参りましょう。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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