「『未』財務情報」と気候変動の可視化~ESG経営の最前線では、何を測っているのか~ | グリーンジョブのエコリク

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2024.3.21

トピック

「『未』財務情報」と気候変動の可視化~ESG経営の最前線では、何を測っているのか~

ESG経営に関する企業の対応の中で一番進んでいるのは、ご承知の通り「気候変動」の分野ですが、その理由は何なのでしょうか。

気候変動が人類の将来にとって大きな影響を与えるものだから、その解消に向けて大きな影響力を有する企業の取り組みが不可欠という社会公益的な理念はもちろん存在します。しかし、それが理由なら、公害問題の解消などもっと早い時代に対応は実現していたはずです。過去のエコリクコラムをお読み頂いている方なら、世界の変化を生み出している最大のドライバーが「金融」つまり社会を動かすお金の仕組みであること、特にESG投資を主導する機関投資家の動向であることは、ご理解頂いていると思います。

そんな世界で「気候変動」がESG経営を先導しているのは「測れる」という価値を生じつつあるからなのです。

反ESGの潮流のゆくえ

なぜ今回改めてこのことを指摘したのかというと、情報感度の高い方ほど「反ESG」の世界的な動きに対して、果たして今のままサステナビリティ、脱炭素の活動やESG対応の継続があるかという不安のご質問の声を頂くことが少なくないからです。米国フロリダ州では「反ESG法」が成立したり、大手格付会社S&Pグローバル・レーティングは8月上旬に企業のESGの点数評価の公表の取りやめを発表したり、脱炭素に向けた金融機関の有志連合「GFANZ(グラスゴー金融同盟)」からの脱退が相次いだり…といった情報に接すると、企業の担当者としては、そういう懸念も当然かもしれません。転職を検討しておられる方なら、果たして、今からサステナブル社会を目指すグリーンジョブの職に就いて、将来は大丈夫なんだろうか、と。

しかし、公益的価値観の変化でなく利益が原動力と分かれば、そのような「揺り戻し」も、金融的理由すなわち反ESGによって儲かる誰かの利益のためであったり、その利益擁護を主張することで政治的支持を得るためであったりということは容易に気づかれると思います。冷静に、情報を読み解けば、上述の大手格付会社S&Pグローバル・レーティングも点数評価の公表を取りやめるといっているだけで、ESGに関する情報管理や定性情報の開示をやめるとは言っていないのです。

機関投資家が、せっかく手に入れた情報源、利益の種を手放す訳はなく、だとすれば、企業サイドは、自社なりの実現したい社会像をゴールとして持ちつつ、潮流の多少の変化は想定の範囲内と捉え、走りながら自社の施策を考え続けることです。

最新のESGが測っているもの

1400年代にベネツィアで簿記が発明されてから永い年月かかって完成された財務諸表というツールでは、企業の短期的財務情報を分析することしかできませんでした。だからこそ、ビジネスの世界は、長期的財務情報を支える「自然資本(≒自然の恵み)」や「社会関係性資本(≒良好な人間関係)」というこれまで定量的に測れず、経済の仕組みの外側の事象「外部不経済」の「非財務情報」でしかなかったものを可視化するという数百年ぶりのチャンスに、躍起になっているのです。ESG経営の世界では、企業の将来価値を示す「プレ財務情報」「将来財務価値情報」として、これまでは測れなかったことが測れるようになっていく成熟中のツールや、これらを共有した新たなイニシアティブが、膨大なデータ管理・分析を可能にしたAIの進化を背景として、日々登場し続けています。

その中でも最近注目されている動きのひとつが「PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials): 金融向け炭素会計パートナーシップ」です。これは、2015年にオランダで発足し、2018年に北米、2019年には全世界で取り組まれはじめた国際イニシアティブで、日本国内でも2021年に大手金融機関が参加するPCAFジャパンが設立されました。

企業におけるGHG(温室効果ガス)排出管理の関心が、自社管轄領域からTCFD対応のScope3として、サプライチェーンへ拡大していますが、その理由は企業が自社の裾野の広いサプライヤーに対する責任を果たすことで温暖化防止に貢献できるからであり、この要請は止まりません。同様に、金融機関は投融資におけるGHG排出量を評価・開示することで、低炭素社会への移行を促進するためにより積極的な関与が求められています。実際にPCAFは金融機関に対してGHG排出量の測定と開示を奨励しています。投資先企業も、気候関連リスクとチャンスが中長期的な財務に及ぼす影響を金融機関に共有されることで、今後変革の大きなドライバーになっていくかもしれません。

感度の高いサステナビリティ推進担当者は、今後ますます人材ニーズが高まっていきそうですね。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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