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2024.1.4

トピック

2024年のESGトレンドワード? 「リジェネラティブ(環境再生)」

みなさま、新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、昨年は12月13日にドバイでのCOP28が閉幕し、パリ協定の目標達成に向けて世界全体の進捗を評価する仕組み「グローバル・ストックテック(GST)」が初めて実施され、気候変動の悪影響に伴う損失と損害(ロス&ダメージ)に対応するための基金を含む新たな資金措置制度の大枠に関する決定などがなされました。
多くの方は、ニュースで、欧米や島しょ国などが明記を求めていた「化石燃料の段階的廃止」という文言が産油国の反対で盛り込まれず、「化石燃料からの脱却(transition away)を加速」という文言にとどまった記事などを御覧になったことと思います。予想を上回るペースで温暖化も進んでいるのに、という不満の声をあげるNGOの方たちからの厳しい投稿も目にされたかもしれません。

では、グリーンジョブを志す私たちにとって、あまり学ぶところのない会議だったのでしょうか? いえ、会議のプロセスでは、次の時代を主導する大切なヒントがいくつか現れていました。サステナビリティの戦略策定やこれから有望なグリーンジョブを考える際には、ルール化された結論だけでなく、会議の中で現れた様々な議論(ソフトロー)から有用なヒントを読み解くセンスも大切なのです。

そのひとつのワードが「リジェネラティブ(再生)」です。リジェネラティブとは、自然の再生能力を高めるような農業や食料システムのことです。COP28では、このリジェネラティブ農業(環境再生農業)に転換することで、気候変動への適応と排出削減を両立することを目指す「持続可能な農業、レジリエントな食料システム、気候アクションに関するCOP28 UAE宣言」に152ヶ国が署名しました。

気候変動がテーマの国際会議でなぜ農業が話題に? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、気候変動の影響を最も受けやすいのは「植物」で、異常気象や渇水などによって従来の農作物の生産が出来なくなっている地域が増え、食や命に対する切迫感が世界中に広がってきたからです。それだけでなく、実は、農業は気候危機に対しても大きな影響を持っています。畑を作るための自然改変や森林転換などで、世界のGHG排出量の約4分の1が農業生産から生じていると推定されていることも大きな理由なのです。

これまでの大規模慣行農業は、大型機械で土地を大規模に掘り起こし、化学肥料を大量に投入し、化学農薬で害虫による被害を抑えて生産量を確保しようとするものでした。しかし、不耕起栽培などの「リジェネラティブ農業」によって、微生物等の土壌生態系を再生することで、土壌微生物による窒素固定が進んで農作物の成長に必要な二酸化炭素や水分を保持できるようになり、肥料の過剰投入も必要なくなるというものです。そうなれば、気候危機と持続可能な農業生産の両立が可能となります。COP28でも、2030年までに1.6億ヘクタールをリジェネラティブ農業に転換する目標を掲げる行動アジェンダも発表され、約3300億円の資金が動員され、世界中で農家360万人の参加が目指されています。

この「リジェネラティブ」という言葉の拡がりは、農業や水産業の分野だけにとどまりません。建築や街づくりの分野でも、住まい手の快適さだけでなく、周囲の自然環境や暮らしに関わるエネルギー資源が自然由来であることなどが「リジェネラティブ・デザイン」として反映されていますし、様々な分野で注目され始めています。流行り言葉として振り回されるのではなく、その真意を考えて注目していきたいですね。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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