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「ラストマイル」と「SDGsの統合的アプローチ」|グリーンジョブのエコリク コラム

2023.8.30

トピック

「ラストマイル」と「SDGsの統合的アプローチ」

みなさんは「ラストマイル」という言葉を聞かれたことはありますか。
直訳だと最後の1マイル(1.6km)。サプライチェーンなどで、エンドユーザーに荷物などが届くまでの最後の接点のことを指しています。最近だと、人手不足で宅配や物流などビジネスの現場でも使われますが、ESGの世界では、政府や国連などの公共機関でも容易に手の届かない途上国の村や地域への、援助やサポートの限界を指して使われています。

例えば、異常気象による食糧危機に対して世界各地からの支援物資が送られても、乳幼児を抱えて田舎に住む母子家庭のお母さんはその配給を受け取りにいけないという物理的「距離」や、人口が集中していないために設置が間に合わず水道の通っていない地域への清潔な給水がいつまでも進まない、冷蔵保存の必要なコロナのワクチンが電気のないエリアでは配達や接種ができないといった経済社会的「距離」が「ラストマイル」の例に挙げられます。

便利で何不自由のない暮らしを送っている日本の我々にはなかなかイメージしにくいですが、今でも世界の3人に1人、約22億人は、安全な水を自宅でいつでも飲める環境になく、川や池、沼、湖、用水路、覆いのない井戸などの危険な水を飲むしかありません。年間44万人といわれる下痢による乳幼児死亡の約6割は汚れた水等に由来し、犠牲になる子どものほとんどは、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ地域)等の2歳に満たない乳幼児です。また、大人にとっても恐ろしい、蚊が媒介するマラリアやデング熱も、不衛生な水が蚊の発生源となっています[日本ユニセフ協会調べ(※1) ]。SDGsの「安全な水とトイレを世界中に」というゴールひとつとっても、「ラストマイル」の現実を知れば知るほど、その実現の難しさがわかりますね。

反面、日本では、生活者にとってのSDGsの言葉の認知度は91.6%(※2)と「ブーム」が終わった感があると口にする方もおられますし、企業にとっても企業活動の中ではすでにSDGsと自社の活動の紐づけはほぼ完了したという雰囲気になっています。ただ、実際の既存の活動を取り上げて、それがSDGsゴールの何番と対応しているという見方は「後付けのラベリング(後からラベルを貼ること)」と呼ばれて、SDGs理解の入り口としては役立っても、実際に上述のような世界の課題をさらに解決していくためには不十分な発想だといわれます。

SDGsを中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、2015年の9月25日に、ニューヨークの国連本部で開催された国連サミットで採択されましたので、今月、間もなく8歳の「誕生日」を迎えます。まだ小学2、3年生くらいです。2030年の目標年でもやっと15歳になると考えると、このラストマイルを達成するためには、多くのステークホルダーが、自分事として、さらにいろいろ知恵を絞ることが求められるはずです。

その知恵を絞るときに参考になるアプローチが「先付けのラベリング」とも呼ばれる「SDGsの統合思考」の活用です。本来、一つひとつの社会課題は様々な側面を有しています。その解決策を考える際に、「環境」「社会」「経済」の三つの側面から課題と施策を洗い出し、あるアクションの推進手段や果たしうる効果を統合的、トータルに考えようという方法論です。最初から視野を広げて考えるこの手法は、自社がこれからの新たな取り組み課題を発見する際にも有効に使えるのです。「後付けのラベリングだけでは、次のアクションは出てきませんね。

   

   

電気についての取り組みを例に説明しましょう。2020年でも、電気を使えない人は世界で7億3300万人もいて、途上国の電気の通っていないエリアでは、照明のために決して安くはない灯油を燃やしたランプで灯りを確保しています。しかし、狭く換気も十分でない住宅の中での灯油ランプの使用は火災の危険があるだけでなく、品質の悪い灯油の燃焼によって健康に悪い有害な黒煙が室内に蔓延して、目の病気や肺疾患の呼吸器系の病気にり患して健康にも大きな被害をもたらすことが問題となっています。
また、夜間、十分な明るさが確保できないことで、女性たちも家事や内職などをすることも出来ず、本などを読むこともできないので子供たちも家での学習が難しいといった弊害も生み出しています。

それに対して、環境NGOなどが企業の協力を得て、個人住宅には太陽の力で発電する廉価な「ソーラーランタン」を、診療施設などには太陽光発電パネルと照明を提供することによって次のようなメリットが生まれます。

「環境」

  • 再生可能エネルギーの導入によって夜間の灯りが確保できる
  • 室内空気環境の改善により、「社会」面の目や呼吸器系の疾患も回避でき、健康につながる

「社会」

  • 女性は夜間の手工業の内職による副収入を獲得でき、「経済」的にも豊かになれる
  • 子供の自宅での学習が可能になり、教育水準が上がり、将来の就労機会増は「経済」的豊か

「経済」

  • 日々の灯油の購入代が節約でき、灯油に使っていたお金は別の用途で活用でき、貯蓄も可能 になって、その日暮らしの貧困のループから脱却する契機となる

このような複合的なメリットは、最初から視野を広げて考える統合思考によって実現したと言えるでしょう。

著者プロフィール

佐々木 正顕(ささき まさあき)

佐々木 正顕(ささき まさあき)

一般社団法人サステイナビリティ人材開発機構 代表理事

関西大学 法学部卒 
大手ハウスメーカー入社後、経済団体主任研究員への出向等を経て、最終的に ESG経営推進本部 環境推進部において、持続可能性を反映した環境経営の施策立案や開示、社内浸透を推進後、現職。樹木医。

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