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ブルーカーボンイメージ

2023.7.5

トピック

ブルーカーボンを増やすためには

磯焼け

大好物のウニが海の厄介者となり、その結果、大好物のアワビが減っていることを知り、驚きました。 日本の海岸から砂浜が減っていることはかなり前から言われていたことですが、海の中でも自然環境が変わっていたようです。「磯焼け」という現象が起こっていました。「磯焼け」とは、藻場が衰退したまま回復することなく不毛な状態が続く現象のことです。ウニとアワビで説明すると、地球温暖化で海水温が上がり、ウニなどの海藻を食べる生物が増え、藻場を構成する海藻が減り、全国的に磯焼けが広がっていたのです。そして、貝や魚の生育に欠かせない藻場が減ることにより、海藻を餌にしていたアワビが減り、魚は産卵や稚魚の生育場を失い、漁獲量が減っていました。

ブルーカーボン

2050カーボンニュートラルに向けて、排出するCO2を減らす取組が必須なのと同様に、排出したCO2を吸収する取組も行わなければなりません。そこでCO2の新たな吸収源として海の中のブルーカーボンが注目され始めています。 陸の植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応によって作り出す有機炭素化合物をグリーンカーボンと言うのに対し、海の植物が光合成反応によって作り出す有機炭素化合物はブルーカーボンと言います。グリーンカーボンを作り出しているのがグリーンカーボン生態系と呼ばれ、ブルーカーボンを作り出しているのがブルーカーボン生態系です。
図1 ブルーカーボンのメカニズム 出所)国土交通省「ブルーカーボンとは」(※1
グリーンカーボン生態系は主に森林から成り、下図によると2013年時点では森林がかなりのCO2を吸収していましたが、2030年の推定値では森林によるCO2吸収量が半分近くに減っています。その代わりにブルーカーボン生態系による吸収量は増え、最大値910万t-CO2となった場合、農地土壌と都市緑地の合計値と同程度になる推計になっています。日本の人工林が成熟期を迎えることにより、森林によるCO2吸収量が減少する一方で、海に囲まれた日本にとっては、ブルーカーボンは沿岸海域の吸収源としてとてもポテンシャルが高いのです。 そして、ブルーカーボン・クレジット制度も始まっています。
図2 日本のブルーカーボンによるCO2の年間吸収量
出所)一般財団法人みなと総合研究財団「ブルーカーボンについて」(※2

ブルーカーボンとは、2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた(captured)炭素が「ブルーカーボン」と命名され、吸収源対策の新しい選択肢として提示。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。(※3

磯焼け対策

ブルーカーボンを増やすために、ブルーカーボン生態系である藻場などを増やす取組が行われています。磯焼け対策として、主に海藻などを増やし海藻などを食べる植食動物の除去を行っています。

具体的には、

  • 【海藻などを増やす】では、漁業者などが海藻を培養してその苗を人工的に植えて藻場を再生する取組が行われています。また、製鉄会社の鉄鋼スラグから施肥材を作り、藻場造成を進めています。
  • 【海藻などを食べる植食動物の除去】では、ウニや魚の食害からフェンスによって海藻などを守る対策や、ウニを実際に取り除くことで数を減らす対策が行われています。
図3 磯焼け対策の考え方
出所)水産庁「第3版 磯焼け対策ガイドライン」令和3年3月(※4

ウニは厄介者になるほど大量にあるのなら捕獲して食べてしまえばいいのにと思いましたが、磯焼けになった海にはウニの食べ物の海藻がなく、そこにたくさんいるウニは中身が空なようです。漁師はウニを獲っても売り物にならないので獲らない、そして誰も取らないのでウニが増えるという悪循環になっています。そのウニを漁師から買い取って陸上で養殖し、身を増やして販売することで磯焼けの対策を行っている企業もあります。これは近江商人の「三方良し」ではないかと思いました。

実家のある岩手では「牛乳瓶入り生ウニ」が名産ですが、全国版のテレビで取り上げられて以来、地元のスーパーでは品薄になり、今ではその瓶が小さくなってしまいました。磯焼け対策は地球環境がよくなり、ウニもアワビも増えて消費者が安く買え、担い手が減っている漁業者の収入増につながるので、まずは日本のまわりの海を元気にしたいものです。

著者プロフィール

亀本 裕子(かめもと ゆうこ)

亀本 裕子(かめもと ゆうこ)

岩手県立一関第一高等学校理数科卒 法政大学工学部建築学科卒

設計事務所に勤めた後、結婚を機に夫の赴任先であるアメリカに滞在、帰国後、シンクタンクで働いている。国土基盤、エネルギー、環境の分野は建築とはそう遠からず。一児の母であり、建築家の妻でもある。

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