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環境アセスメントにおける環境保全対策の実際

2020.11.10

トピック

環境アセスメントにおける環境保全対策の実際

環境アセスメント(環境影響評価)とは、「環境影響評価法(平成9年法律第81号)」に定められている大規模事業が環境に及ぼす影響を予測・評価する手続きのことです。

道路、ダム事業など、環境に著しい影響を及ぼす恐れのある行為について、事前に環境への影響を十分調査、予測、評価して、その結果を公表して地域住民等の関係者の意見を聞き、環境配慮を行う手続の総称。(環境用語より ※1

実際のアセスメントの手続きは、図1に示す通り配慮書から方法書・準備書・評価書と長期かつ多岐にわたる手続きを踏みますが、建設・環境コンサルタントや環境調査会社が主に関わるのは、アセスメントの実施(調査・予測・評価)から準備書の手続きです。今回は、私が経験したアセスメントにおける自然環境保全の一例について述べたいと思います。

図1 環境アセスメントの手続き
図1) 環境アセスメントの手続き
『環境アセスメント制度 環境アセスメントガイド』環境省環境影響評価情報支援ネットワークより(※2

調査計画の策定と文献調査

環境影響評価法で環境アセスメントの対象となる事業は、道路、ダム、鉄道、空港、発電所などの13種類の事業です。アセスメントの実施が決定すると、まず事業が環境に及ぼす範囲(調査範囲)を決定し、影響を受けると予測される調査項目を抽出します。
調査項目には、水質・騒音などの生活環境項目や動植物の自然環境の調査のほか、土地利用や景観、史跡・文化財なども含みます。また、事業供用後の影響だけでなく、工事中の工事(建設機械の稼働など)の影響も検討します。

調査項目が決定したら次に行うのは実際の調査ですが、まず文献収集を行い、既往報告書などの調査結果、調査地域の特徴や特に留意すべきことなどを整理します。実は、アセスメントの業務のなかで一番時間を要するのが、この文献の整理とまとめです。目的や調査実施機関などによって様々な結果や報告書がありますし、例えば調査頻度や密度などが多い項目は、影響は小さいのに結果が強調されて誤った判断に誘導されたりすることもありますので、注意を要します。そのようなことがないように結果を一元化して整理し(多くの場合は地図に示す)、項目ごとに専門とする有識者の意見を伺い、一進一退を繰り返しながら作業を進めていきます。そして、過去の文献だけでは環境影響を評価できないと判断される項目について、現地調査を実施します。

貴重種の調査と保全対策の一例

環境アセスメントでの現地調査の主な目的は、貴重な自然の現状把握と保全です。私の建設コンサルタント時代の経験ですから10年以上前の古い事例になりますが、考え方は変わらないと思いますので、どのような現地調査をして保全対策を講じたのかを具体的に述べたいと思います。

●ダム建設予定地にヒメギフチョウ(絶滅危惧種)が生息

ヒメギフチョウは日本固有種で、環境省のレッドデータリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)の指定を受けている貴重種です。ダム建設による水没予定地の過去の調査結果に、ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシンの群生地があり、ヒメギフチョウの生息が確認されていたため、改めて現地調査を実施しました。その結果、群生地は現在も存在し、春先にはヒメギフチョウの成虫と卵も確認されました。「現在も存在し」という書き方をしたのは、既往調査で報告されている地域が既に開発されて消失していることもアセスメントの現地調査では多々あるからです。

図2 ウスバサイシンとヒメギフチョウ
図2) ウスバサイシンとヒメギフチョウ

植物、昆虫学の先生方にヒアリングを実施して判断を仰ぎ、決定した保全対策はウスバサイシンと卵の移植でした。幸いなことに、ウスバサイシンは、群生地域近くの水没しない里山にも数カ所生育していることが確認されたためそこを移植地に決定し、ヒメギフチョウの産卵時期に葉の裏に卵が付いている状態のウスバサイシンを株ごと丁寧に移植しました。その後、移植株の生育状況やヒメギフチョウの産卵・生息確認の調査をダム建設後まで毎年継続して実施し、無事に保護できたことが確認されています。

●水没予定の旧ダム堤体内に多数のコウモリが生息

コウモリは、特に絶滅危惧種に指定されているわけではなく、どこにでも見られる哺乳類です。前述のダム建設で旧ダムは新ダム完成後水没の予定でした。その旧ダムの堤体内に多数のコウモリが生息していたのです。これは既往調査の報告にはなく、アセスメントのために実施した現地調査で確認されました。もちろん、ダムの管理者はコウモリが沢山住んでいる事は知っていましたが、そのコウモリ(どちらかというと糞の臭さなどが迷惑で駆除したかった)が環境保全対象になるとは思ってもいなかったようです。コウモリを専門とする中学校の理科の先生に現地まで来て頂いてのヒアリングの結果、比較的街中に近い人工構造物内でのコロニー形成は珍しく、是非保護して欲しいということになりました。

まず、生息状況の調査です。手網でコウモリを捕獲し、種類と体長を計測して標識を取り付けて離す、数千匹のコウモリに対する気の遠くなるような作業でした。また、コウモリは夜行性ですから、飛翔範囲を把握するための徹夜の調査も実施しました。
さて、現在の生息地は水没することが決定していますから、別の新しい寝ぐらをあてがう必要があります。飛翔範囲内にコンクリートでコウモリ用の小さなトンネルを造り、糞を移動させて引っ越させるという作戦でした。しかし、この対策は残念ながら成功せず、コウモリは新しい住まいに移住せずに自然界へ散らばっていったようです。

このように、有識者の意見を伺いながら対策を進めていても、移植などの保全対策が成功したか否かの評価は数十年単位になります。環境保全対策には「回避」>「低減」>「代償」がありますが、可能であれば「回避」の方向で検討することが、今後SDGsの観点から重要になっていくでしょう。

最後に、東日本大震災直後の火力発電所建設のように、「震災復興事業」などの迅速性を重んじる事業の場合は、環境アセスメント手続きが簡素化されることがあることもお伝えしておきます。(※3

著者プロフィール

中村 恭子(なかむら きょうこ)

中村 恭子(なかむら きょうこ)

早稲田大学 理工学部応用化学科卒

大手建設コンサルタントで、河川、湖沼の水質保全、環境アセスメント等の業務を約25年間担当。
技術士(環境部門、情報工学部門)、公害防止管理者(水質第一種)

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