エコリクコラム
2020.6.29
トピック
SDGsに取り組める企業とは-工務店の取り組みから-
2019年4月から2020年2月のおおよそ1年、村上周三委員長(東京大学名誉教授)を筆頭に「これからの工務店経営とSDGs(持続可能な開発目標)」(※1)の執筆者として末席ではあるが携わらせていただきました。
今回は、その経験をとおして自身が捉えているSDGsをお伝えしたいと思います。すでに、ご存じの方も多くいらっしゃると思いますが、SDGsは2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を指しており、17のゴール、169のターゲット、232のインディケーターで構成されている2030年に向けた開発目標です。(図1)
SDGsの基本的理念や概要について関連する専門書は、すでに幾多あり、それらの中で丁寧に解説されているためSDGsについてはそれらを参照いただければと思います。
SDGsに取り組む工務店の事例
「工務店」について正式な定義はないのですが、一般的に、住宅の建設を中心とした中小建設工事業者のことを指しています。つまり「これからの工務店経営とSDGs」は、建設業界における中小企業にSDGsに取り組んでもらうために編纂された書籍となります。その中で、私は事例集を担当することになりSDGsを実践している12の工務店の社長やSDGs担当者にインタビューやアンケートを行い、コラムの作成、各工務店の事例の編集などを行いました。これらの概要についてはグリーン建築推進フォーラムの第11回シンポジウムの資料(※2)の中で報告させていただいておりますので、その内容について、以下に説明したいと思います。
建築業界では、高気密・高断熱住宅やゼロエネルギーハウスなどSDGsが国連サミットで採択される以前より、気候変動(ゴール13)やヒートショック(ゴール3)への対応を指向した住宅政策がすすめられていました。そのため、先進的な工務店の多くは、すでに高気密・高断熱住宅としゼロエネルギーハウス(以下、ZEH)などの建設のノウハウを持ち、実際に建設も行っていました。そして、子連れ出勤を推奨し女性が活躍できる職場づくりやリモートワークなどを取り入れている工務店も少なくありませんでした。加えて、各社独自の戦略で、自社が開発した構法を用いたZEH、CO2排出量の少ない天然乾燥材や、地域経済に貢献可能な地域材にこだわった住宅、低所得者でも購入できる住宅など、大手企業には真似ができないようなさまざまな取り組みも実践していました。
これらの取り組みはSDGsのゴールへの貢献を目指した事業活動であり、2030年に向けた重要業績評価指標(KPI)を定め目標値を設定した事例を書籍にまとめ事例集として取り纏めさせていただきました。(図2)
コロナ禍におけるSDGsに取り組む工務店
「これからの工務店経営とSDGs」をきっかけに、工務店がSDGsへ取り組む土台ができたと思った最中、コロナウイルスの猛威が世界に広がり、2020年4月には緊急事態宣言が発令され、建設業界では大手建設会社の建設工事が中止にもなりました。その中で、SDGsに取り組んでいた工務店は、Zoomを使い勉強会を開催し、オンラインでの住宅相談会などを実践している工務店もありました(※3)。現在、最大の社会課題であるコロナ禍の中で、しっかりと社会課題に適応し積極的に事業を継続させていたのです。
コロナ禍により、SDGsの根源的な理念である持続可能とは何かと考えさせられています。With COVID-19やAfter COVID-19といわれる時代に、SDGsは企業に何を問うているのでしょうか。
17のゴール、169のターゲットに貢献することに他ならないものではありますが、抽象化すれば、企業の社会への適応力そのものを問うているゴールなのではないのでしょうか。SDGsに取り組める企業は、アウトサイドインアプローチにより社会課題を捉え、柔軟に社会課題に対応し事業を適応させていく力を持っています。そして、コロナ禍により、単純に事業活動とSDGsのゴールとの関連性を表した紐づけだけでは分からなかった企業の対応力が明らかとなったのではないかと思っています。
今回は、私が把握している工務店といった限定された業界ではありますが、他の業界でも同様であると推察しています。事業規模にかかわらず、SDGsに取り組める対応力の高い企業こそが、今後の社会をリードし持続的に成長していく有望な企業になるでしょう。