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コロナ感染症後の私たちの暮らし

2020.6.4

トピック

コロナ感染症後の私たちの暮らし

今年に入って私たちの日々の生活を一変させた新型コロナ感染症、5月末現在わが国では第一波の山は越えたようです。今はこの感染症後の暮らしはどうなるのか、という議論をよく耳にします。本篇ではこのコロナ感染症を機会とした私たちの新たな暮らしについて提案します。

この感染症が終息したとしても私たちは今までの暮らしには戻れないだろう、とよく言われます。その理由は何でしょうか。それは、この感染症が顕在化して以来叫ばれてきた「三密を避けよう」にあると思います。すなわち、密閉、密集、密接を避けフィジカルディスタンスを保持する、です。

この三密と仕事との関係について、今回はオフィスで働く人々の立場で考えます。私たちはまず顧客を含むすべての関係者で仕事内容について話し合い、互いの業務分担などを決め、次いで各人の密接な連携のもと仕事を進めるのが基本でしょう。課題はあるにしてもいわゆる「ホウレンソウ」が重要、と言われるのはこの考え方からではないかと思います。しかし、三密を避ける環境下でこの基本を守るのは困難となるでしょう。もちろん、ネット会議などで対応可能な部分も多いでしょうが、いわゆるフェイストゥフェイスでの話し合いの機会は制限されると思います。

私の経験を一つ述べさせていただきます。私はかつてある国立研究所の代表として航空の安全にかかわる国際会議に定期的に出席していたことがあります。そのような会議では、各国の利害が絡まり簡単に皆が納得の結論は出ないのが普通です。そこで重要となるのは例えばコーヒーブレイクなどでの関係者との非公式の話し合い(雑談)です。このような話し合いの機会が増え相互理解が深まると、相手の考えの背景やこだわりなどが互いに理解でき、いわゆる落としどころが見つかるという経験を何度かしたことがあります。私は、フェイストゥフェイスでのこのような話し合いは極めて重要と考えます。

冒頭の「今まで通りの暮らしには戻れないだろう」というのはこのような感覚から生まれたものでしょう。では私たちはどうすれば良いか、です。図1「わが国の都道府県別人口密度と10万人当たりの新型コロナ感染者数」をご覧ください。

図1 わが国の都道府県別人口密度と10万人当たりの新型コロナ感染者数
図1) わが国の都道府県別人口密度と10万人当たりの新型コロナ感染者数

この10万人当たりの感染者数は、5月20日現在の最多、最少5都道府県をリストアップしています。一部例外はありますが、東京をはじめ人口密度が高い都道府県は軒並み感染者が多く、おおまかに人口密度と感染者数は比例しています。そこで、今まで大都市中心に行われてきた種類の仕事を人口密度の比較的低い地域に分散してゆくことを本気で考えませんか、というのが私の提案です。

幸か不幸か大都市の住民はこれまで今回のような危機に直面する機会が比較的少なかったと思います。例えば、最近各地で頻発している大洪水や地震なども残念ながら「対岸の火事」的見方をしていなかったか、私を含め大都市の住人は反省するべきと思います。それが今回の感染症は「身近の火事」となり、今後のことを考える人が増えてきたのだと思います。

今後を考えるキーワードはテレワークでしょう。これは今回の危機で一気に広まり、経験された方も多いと思います。テレワークは、オフィスでの業務を自宅なりに移し三密を避けるのが現在の主目的でしょうが、遠く離れた地方でも今の業務をシームレスで担えると言えます。すなわち経営者や職員各位が決断すれば、あまり大きな障害なく今までの仕事を徐々にでも地域に分散させることが可能となり、働き方の変革と人口集中に伴う脆弱性の緩和につながると思います。仕事の分散は、大都市に人口を吸い取られる一方だった地域が大都市で働いていた人を迎え、これまでになかった種類の業務と地域の長所などを調和させて地域ごとに独自の雇用を生み出すチャンスとなり、それこそ世界的な持続的成長に結びつくと確信します。

ただ、大きな課題としてテレワークがなじまないエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々、不特定多数と接触するのが仕事のため、感染リスクが高い人々などの暮らしの変革が残されています。そのような人々に深く敬意を払い、感染リスクが不平等に分配されている、という状況を無くすのはSDGsの理念からも極めて重要です。

今後、これらの課題や新しい地域での働き方などをさらに深く考えたいと思います。

著者プロフィール

山本 憲夫(やまもと かずお)

山本 憲夫(やまもと かずお)

1975年岡山大学大学院工学研究科修了、運輸省電子航法研究所入所。

航空用電子機器などを研究。仏ニース大学とミリ波レーダに関する国際共同研究リーダー。東京海洋大学で海上航行の研究と教育担当。元電子航法研究所理事長。現在は大手シンクタンクで鉄道技術の国際展開支援のための調査、研究を担当している。

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