小宮 純 氏 | 水素を活用した環境先進都市への貢献 | グリーンジョブのエコリク

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水素を活用した環境先進都市への貢献

2018.9.20

インタビュー

小宮 純 氏 | 水素を活用した環境先進都市への貢献

臨海部の晴海エリアに建設中の選手村は、「環境先進都市のモデルとなる街」の実現に向けて、東京2020大会後にはエネルギーや交通システムなどに各種の新技術が導入された市街地として再整備されます。
今回は、その中でも特に注目されている水素を活用した選手村地区エネルギー事業について、実施事業者として選定された企業コンソーシアムの代表会社である東京ガス株式会社エネルギーソリューション本部の小宮課長に、水素の導入及びエネルギーとしての将来展望について、お話を伺いました。

最初に、東京2020大会終了後の選手村地区で水素を活用するという東京都の計画についてお話しいただけますか。

東京ガスを含む企業コンソーシアムは、2016年に事業協力者として東京都の選手村地区エネルギー整備計画の策定に携わってきました。東京都は選手村地区における水素供給の意義として、次の3点を挙げています。

  • エネルギー・環境政策の先進的な取組の実施、PRによる水素社会構築の先導
  • 都市のレジリエンス強化
  • 一般の市街地における事業モデルの構築

このような東京都の計画に対し、首都圏でエネルギー事業を営む一事業者として、協力させて頂いております。

晴海の水素ステーションは、水素をそこで作るのですか?

水素ステーションにはオンサイト方式とオフサイト方式があります。オフサイト方式は他のエリアで製造した水素を持ってくるのですが、大量に水素を使う場合は運搬費用がかかり、非効率です。そこで、街のインフラとなっている都市ガスから改質して取り出した水素を安定供給できるオンサイト方式が、晴海ではもっとも合理的な方法だと思います。

今回の事業で東京ガスが担当される具体的な内容をお話しいただけますか。

当社を含む企業コンソーシアムは、2016年7月から翌3月まで事業協力者として、東京都の選手村地区エネルギー整備計画の策定にご協力させて頂きました。その後、東京都は2017年3月にこの計画を公表し、同年6月に事業実施者の公募を行い、東京ガスを代表会社とする4社(JXエネルギー(現JXTGエネルギー)、東芝、パナソニック)の企業コンソーシアムを同年9月に事業予定者として選定しました。
事業実施に辺り、東京ガスの100%出資子会社である晴海エコエネルギー(株)を同年10月に設立し、水素関連の技術やリソースを集約することで、事業に全力投入できるように致しました。具体的には、晴海エコエネルギー(株)はガス事業法の小売事業者として、お客様に水素を供給する事業の実施主体になります。 東京ガスは、事業が円滑に進むように、代表会社として事業全体を監督する役割を担っています。

今回の事業は導管を使って水素を供給する国内初の民間事業ですので、確実かつ安心・安全にお客様に水素を供給するという重大な責務を晴海エコエネルギー(株)は担っています。特に公衆保安の確保を最優先に水素を供給できるように検討を進めています。

一般の方にとって、水素はこれまでにない新しいエネルギーということになるかと思います。水素を供給するために、安心・安全はもちろんのこと、規制等への適合性を満たすために、どのような取り組みをされているのでしょうか?

水素は着火エネルギーが低く燃焼範囲が広いため、着火しやすいという特徴があります。一方で、非常に軽く、拡散しやすいので着火しにくいとも言えます。都市ガスなどのエネルギーと水素の性質の違いを理解しながら、水素を安全に供給するシステムを構築していくのは、我々に課せられた義務です。
水素の供給に関してこれまで一部のエリアで実施された事例はありますが、事業として長期間行われた事例はありません。過去の経済産業省委託事業や水素実証事業の知見を活かしつつ、高いレベルの安全性を確保するよう検討を進めています。

水素を活用する意義、今回の事業の意義を教えてください。

水素の特殊性は、都市ガスや電気等様々なエネルギーと水から製造できること、使う(発電)とき高効率であること、バッテリーのように放電することがないので、水素に変えてしまえば、エネルギーを損失することなく、長期間貯められることなどです。昼夜の電気負荷の違いはバッテリーでまかなえますが、もう少し長いスパンで考えたときに、電気が余る季節には電気を水素に変えて冬季や夏季のピーク時に上乗せし、地域ごとのエネルギーの需要差を埋めることも水素ならば可能だと思います。
風力や水力発電の余った電気を貯めておいて需要地で使うなど、将来のオプションとして期待値が高いのが水素エネルギーです。今後再生可能エネルギーの開発・普及が進み、電気が余る時代がくると言われていますが、その時に水素を貯めておくことはコスト面でも有効な手段だと思います。

今回の晴海のシステムではそこまではできませんが、まずは水素を市街地のエネルギーインフラの一部として使った事業を実施することで、将来に向けて一歩を踏み出すことが大事だと考えています。

もう少し将来的な展望も含めた水素の活用について教えてください。

国の政策で、2050年には温室効果ガス80%削減が求められていることは皆さんご存知の通りです。水素は使用時に二酸化炭素を一切排出しないので、将来的には、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーと連携したシステム構築のキーとして、期待されています。

水素の普及に向けて、現時点での最大の課題はコストです。水素は電気などの他のエネルギーから作られるので、2次エネルギー、場合によっては3次エネルギーになります。そのように手間暇かけて作られますから、当然コストは高くなりますが、将来的には海外からの大量導入などにより大幅なコストダウンが進む可能性もありますので、長期的な視点が必要です。

実際に他のエネルギーと比較してコストはどの程度違うのでしょうか?

エネルギーの利用はケースバイケースで考えるべきだと思います。再生可能エネルギーが安価に入手でき、貯蔵が必要な場合は、水素として貯蔵し、燃料電池で発電するのが最適な方法だと思います。大規模な発電ではLNG火力発電など、それぞれの得意とする特性を踏まえた上で、水素だけを全面的に押し出すのではなく、エネルギー全般でより良い形でお客様に提供していければと考えています。

今後の期待などお話いただけますか?

東京ガスは、水素に限らずエネルギー全般の技術や情勢変化を常にウォッチしており、深い知見がございます。エネルギーの状況は全世界的な動きで日々ダイナミックに変化しています。そのような中で水素が良いのか、もっと違うエネルギーキャリアがあるのではないかということを国や自治体に提案することがエネルギー事業者として求められています。

水素に限らず、我々の知見は、長期的な展望が必要な国の施策やまちづくりに貢献できると信じています。そして、これからも企業活動の中でお客様ニーズを真摯に求め続けることがエネルギー事業を担う東京ガスの責務だと考えています。
また、今回の水素エネルギー事業は、環境経営トップランナーを目指すエネルギー事業者として、社会貢献の一つになると考えています。

水素に限らず、我々の知見は、長期的な展望が必要な国の施策やまちづくりに貢献できると信じています。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

小宮 純(こみや じゅん)

小宮 純(こみや じゅん)

東京ガス株式会社 エネルギーソリューション本部
エネルギー企画部 エネルギー公共グループ 課長

1998年工学系研究科応用化学専攻修士課程修了
同年東京ガス入社 基礎技術研究所配属
家庭用燃料電池エネファームの開発・商品化を担当。
水素ステーション建設の主担当。
2015年より、現職。

東京ガス株式会社

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