エコリクコラム
2018.6.7
インタビュー
下田屋 毅 氏 | 持続可能な社会を構築するために
日本企業に対してサステナビリティ(CSR)に関するコンサルティング、研修、リサーチなどで発展を続けている「Sustainavision Ltd.」。
代表取締役の下田屋様に事業内容や今後サステナビリティ分野で求められる人材について、お話しいただきました。
これまでのご経歴についてお聞かせください。
大学時代は社会学を専攻していました。大学時代、石弘之氏の「地球環境報告」を読んで地球環境問題の深刻さを知ったときに衝撃を受け、何とかしなければと思い環境関係の仕事に就きたいと思うようになりました。当時は環境コンサルタントはそれほどメジャーでなく就職先として考えられたのは、メーカーや商社の観点での選択肢でした。そして結果、重工業の会社に入社し、環境機械を取り扱う部門に配属となりました。そこでは工場の総務課に配属となりました。工場の総務は、非常に幅広い業務を取り扱っており、人事、労務、労使交渉、福利厚生などのほか、工場の主担当として労働安全衛生に携わることができましたが、現場での管理の難しさを肌で感じる経験をしました。
その後、出向で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで、廃プラスチックと紙くずから石炭の代替燃料となるRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)を製造するテストプラントの建設を新会社を立ち上げて行うこととなり、そちらで原料集荷の営業を担当しました。これは、環境ビジネスに直接的に携わりたいという思いを会社に伝え続けていたところ、大企業にいながら、再生可能エネルギーに関わる会社の立ち上げに携わることができたということで、この経験はその後の人生においても非常に良かったと思っています。
原料は産業廃棄物を分別した廃プラスチックと紙くずで、それらを収集するために関東近郊の大企業から中小企業まで走り回りました。RPF事業は、企業に廃棄物処理費をいただいて廃棄物として処理し、製造したRPFを販売するというビジネスモデルでした。RPFの原料は、紙くずを混合するので、二酸化炭素の削減につながることになり、モチベーション高く企業に提案していきました。
基本的には、アポイントメントをとって提案をしに行くのですが、工業団地などを訪問した際には、そのまま工場を片っ端から回るような飛び込み営業も行っていました。またこれら原料集荷の営業では、中間処理場だけではなく、収集運搬会社とのネットワークづくりも力を入れていました。収集運搬会社の方々も営業をして廃棄物を運搬してくれるので、RPFのメリットを理解してもらうと彼らも一緒に原料を集めてくれるようになりました。このように企業がリサイクルやISO14001の環境マネジメントシステムを進めていく中でうまく集まってくる仕組みができていったのですが、そこで私が感じたのは、ネットワークの重要性、そして企業はコストメリットを感じると早く行動を起こすということです。
また失敗もありました。スーパーマーケットの飲食店などから排出される廃プラスチックを回収することで、より多く回収しようとしたのですが、食品の残渣が残ってしまうという問題がありました。排出元のスーパーマーケットの廃棄物を回収するスタッフや収集運搬会社の方々にその分別方法を教えても、徹底がなされないことがあり、食品残渣がたくさん混入し、RPFの工場サイドで、食品残渣の混入がひどいので受け入れを停止するという決定がなされました。2トンもの食品廃棄物が混入した廃プラスチックをそのまま返却するというのです。営業担当としては、これが返却されたらスーパーマーケットの廃プラスチックを今後実施していくのには、より多くの時間がかかり、進めていくのが困難になると判断し、また工場作業者にも迷惑はかけられないので、なんとかしなければとの思いで徹夜で山になっている2トンもの廃棄物を1人で分別するということを行いました。これは大変でしたが、何が問題となっているのかが、明確になり、分別をした状態をその後再度提案し、教育を徹底していただくことで継続することができました。
さて、このようにネットワークを広げていくことで成功体験を得たので、今度は海外で実施して、環境ビジネスとして展開することができないだろうかと考えるようになりました。そしてもともと海外志向もあったので、留学を考えるようになりました。私のいた部門は、その当時海外に拠点を持って積極的に活動をしている部門ではなかったので、自分自身で、海外へ行く道を切り開いていくしかないと考え、自費で行こうと決めました。 当時は年齢的な問題で、その後の就職とか留学に否定的な声も結構ありましたが、もともと海外留学をしたいと思っていましたし、今しかないとも思っていたので、海外で環境ビジネスを実施するために留学すると決め準備を進めて、実際に留学をしたのは40歳になった年でした。
英国イースト・アングリア大学で環境科学を専攻し、その後、ランカスター大学でMBAを取得しました。卒業後、当時は英国には大学院などを卒業した留学生に2年間のビザが与えられており、現地で環境コンサルタント系の企業に入れないか模索していましたが、リーマンショック直後で景気も悪く、そのような状況で日本人が採用されることはまずありませんでした。
企業への出願を続けているうちに、ある会社から「自分で起業したらどうか?」という、アドバイスのようなメールが返信されました。まず環境コンサルで経験を積んで起業する形がベストとばかり思っていましたが、すぐに起業をする選択肢もあるなと思い、自身で会社を立ち上げることにしました。そして関連する本を読み漁ったり、ロンドンはもちろん、欧州のいろいろなネットワーキングに参加しながら2010年12月にCSRのコンサルティング、リサーチ、研修を行うサステイナビジョンをロンドンで立ち上げました。
このサステイナビジョンを立ち上げた理由は、当時は日本人で、欧州で日本とCSR/サステナビリティに関して情報提供をしながら橋渡しをする人がいなかったということがあります。最近ではそういったWEBサイトも増えて欧州のCSR/サステナビリティの情報が日本語で得られる機会も増えてはいますが、現地のイベントやカンファレンス、インタビューなどでネットワークを広げ、そこで得たその時の最新の情報を日本企業に記事を書いて伝えたり、研修でお伝えすることから始めていきました。
貴社の事業内容をお聞かせください。
2010年12月に英国ロンドンで会社を立ち上げる少し前にベルギーのブリュッセルでサステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習(※詳細は後述)を受講しました。そしてこの講習が欧州、北米、アジア、中東で行われていたけれども、日本ではまだ行われていないことがあり、この講習を日本に持ち込むために、そのCEO・創業者であるCSEという会社のニコス・アブロナス氏と話をし、交渉の末日本にて開催をすることに至りました。現在は英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習として1年に2回実施しています。またCSR/サステナビリティ全般だけではなく、研修事業としてはビジネスと人権により焦点を当てたビジネスと人権研修をTwenty Fiftyという英国・ドイツを拠点とする会社と提携を行い実施しています。
その他、事業会社やコンサルティング会社からの依頼を受けて欧州のサステナビリティに関する動向をカンファレンスに参加して調査し、レポートを提供するなどのリサーチ事業も行っています。その他、専門メディアの依頼で記事を執筆するなどの情報発信もしています。最近は、欧州のCSRの動向やサプライチェーン、人権などについて、会社の経営層に向けてダイアログという形で話をして欲しいというご依頼も増えています。
サプライチェーンの人権・労働に関しては私が現在、専門性を持って焦点を当てている分野でもあるのですが、企業に関わる人権の問題は、日本企業ということに関わらずどこの組織においても苦労しており、どう取り組みをしたら良いかわからないと思われています。海外の先進企業は、ステークホルダーからの要求もあり、会社としてもその対応を行うために、計画を立てて実施するスピードが速いです。日本はそれが先進企業であっても遅い感じがします。最近では、ESGの観点から、例えばGPIFのインデックスに入るということで、海外で発生している人権問題の対応、その情報開示の重要性が認識されるようになってきています。
日本企業の多くは、CSR/サステナビリティに関することにおいて、まだコストとして考えられている企業が多く、先に投資してリスクを回避するということがまだまだできていないようです。先に投資しておけば何か不具合が発生した時に、莫大なコストを投じて対応したり、信用回復をするということもなく素早く対応することができます。そしてグローバルな視点、また長期的な視点からは、先行してCSR/サステナビリティに投資をしていることが、企業の信用を高めるとともに競争優位の状況も確保することができるのです。
どのような経験が今の仕事に活きていますか?
最初の重工業の工場での経験が、現在非常に役立っています。総務や人事の仕事というのは言うなれば従業員への営業みたいなものです。工場は500人規模で、それほど大きくなかったこともあり、全員のことを知っていました。工場の労働者が仕事がしやすい状況をどのように作るかという仕事だったのですが、現在サプライチェーンの監査などを行うなかで、この時の工場での経験との関連性が非常にあり、この過去に実施した業務の知識や経験が非常に役に立っています。
特に安全衛生に関しては、どこに危険が潜んでいるのかなど、すぐに身に着けることができない内容でもあり、それを工場の主担当として実務でやっていた経験は非常に大きいと思っています。工場で実務として行ってきたことが活かされていること、そして環境ビジネスの会社の立ち上げの際に構築したネットワーク作りの経験も活かされ、現在はCSR/サステナビリティの領域で海外の有識者の方々とネットワークを作ることに役立っています。
今後はどういった人材が求められてくるとお考えですか?
まず学問の英語ではなく実際に使える英語力が必要だと思います。英語で世界の人たちとコミュニケーションを図れること、また発信できることは環境あるいは広くCSR/サステナビリティ分野では特に重要となってくるのでTOEICで高いスコアを出すことに重きをおくのではなく、コミュニケーションとして使える英語を身に付けることが重要だと思います。
あと海外とビジネスをするには自分の意見が何かを発信していくことは非常に重要です。発信するためには自分の意見を持たなければいけませんし、そのためにはそれを裏付ける知識がないといけないので、自分自身で調べたり勉強することが非常に重要となってきます。また環境問題そしてCSR/サステナビリティは状況が変化しているので変化にも対応できるように柔軟な考え方を持つことが大切です。
また、今後はパートナーシップが鍵となると思います。自分のネットワークを作りながら、その中で協業していくことができる人が求められるのではないでしょうか。
環境ビジネスへ就職・転職を考えられている方へアドバイスをお願いします。
一番大事なことは決断し、実行することです。そうすれば道は拓けます。やると決めたら腹を括ってやる、それができれば何でもできます。そして、やりたいと思ったことは、熱意をもってとことん研究し、その方向性を探ることです。環境や社会問題に関心を持つ人というのは、今の状況は非常にまずい状況だ、という問題意識をもっていて、社会を変えてくれる可能性のある貴重な人材だと思います。まずは今の会社でやれることを地道にやり、今自分自身に何ができて、そのうえでなぜ、今後新たなことをやってみたいと思うのか考えてみる。特別なことをやろうとしたら当然時間はかかるわけで、関心があるならセミナーを見つけて参加してみること。そうしていると知識も蓄えられるしネットワークもできてくる、そのように行動、実践していくことでだんだん道が拓けていきます。最初の道は広くないかもしれないけれど、決断して実行するうちに色々な人と出会っていくことで道は広がっていきます。
就職・転職を考えるのであれば、その業界で働いている人に会って話をすることや、グレイス(エコリク)さんに相談することも有効だと思います。またもし自分が考える企業が世の中に無いとしたら、自分で会社を立ち上げる、という方法もありだと思います。
10月に開催されるサステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習についてお知らせください
英国のCMIが認定する国際資格で、欧州、北米、中東、アジアで広く実施され、世界で約1,200名の資格保持者がいます。日本では、2012年から開始して今年の3月で16回目を迎え、資格保持者も約130名ほどで、資格保持者のコミュニティもできています。
受講者は企業のCSR/サステナビリティ担当者が中心ですが、マーケティング、資材調達、NGO職員、コンサルタントなど幅広い業種、職種の方が参加されています。そして今は違う仕事についているけど、今後CSR/サステナビリティに関連する仕事に就きたいという方も参加されています。最近の傾向ですと執行役員が担当部長と一緒に参加するケースや、中小企業の社長が参加されたり、CSR/サステナビリティのチーム内での共通の理解を持つために2名で参加したり、定期的に同じ企業から参加することも増えています。
受講の条件としては、ビジネスや会社組織の仕組みを理解していないとわからないことも多いので、社会人としての実務経験(3年)があることが望ましいです。
定員は15名と少数で意見を言い合う双方向のディスカッション形式です。私が講師として最新の欧米のCSR/サステナビリティの情報を伝えつつ、CSR/サステナビリティをどうやって企業経営に統合していくのかについてお伝えしています。2日間では足りないくらいの盛りだくさんの内容です。講義終了後に課題があり、その課題に合格すると資格が付与されます。2日間でグループワークやディスカッションをかなり多くやりますので、非常に濃密な時間を過ごすので、参加者同志仲良くなりますし、その後も交流を持つことが多いです。
またこの資格保持者のコミュニティもあるので、さらに期を超えて交流ができるようになることもメリットだと思います。資格講習の費用もそれなりに掛かりますが、ある意味それだけ腹を括って参加しようという方々ですので、その場で知識を蓄えるだけではなく、その後の資格保持者のコミュニティでも同じ志を持つ人たちと連携をして、社会を良い方向に変える動きにつながっています。資格保持者のコミュニティでは、そうした取り組みや人たちをつなぐネットワークの活動も企画しています。
貴重なお話をいただきありがとうございました。