エコリクコラム
2023.5.22
トピック
「パーパス経営」が生まれた本当の訳と活用法(2)
– 「パーパス経営」の射程範囲って? –
「パーパス経営」の射程範囲って?
「パーパス経営」という言葉がはじめて世に現れたのは、2018年に資産運用会社であるアメリカのブラックロック社CEOラリー・フィンクス氏が投資先の経営者に対して送った年次書簡が始まりといわれています。
ご承知の通り、ブラックロックはニューヨークに本社を置く、年間運用資産残高約10兆USドルという日本のGDPの2倍に相当する額を運用する世界最大の資産運用会社です。その年次書簡では、毎年、世界経済や市場分析に基づいて、価値創出にとっての多彩な重要テーマが取り上げられていて、2018年の書簡のタイトルが「A Sense of Purpose(目的意識) 」でした。ちなみに今年はステークホルダー資本主義など「資本主義の力」について言及されています。
さて、資産運用会社が資金提供者に対して責任を負う以上、このラリー・フィンクスCEOの書簡も、当然、利益創出の文脈で読み解くことが重要です。この書簡では、社会格差による社会不安が増大しているという時代認識を示した後に、こう続けています。「…企業が長期的に繁栄するためには、財務パフォーマンスだけでなく、社会への貢献、すべてのステークホルダーに便益を与えることが求められており、この『A Sense of Purpose』がなければ、企業はポテンシャルを最大限発揮することが出来ない…」。つまり、長期的成長、長期的価値創造へのドライバーとしての「パーパス」なのです。
いや、立派な言葉だけれど、今までだって「ミッション」や「ビジョン」とか企業理念を現すことの重要性は言われてきたじゃないか、何が違うんだ、と思われたかもしれません。
少し言葉の整理をしてみましょう。
一般に、現経営陣は自分たちの任期中の会社の利益や株価が最大の関心事で、それによって経営層としての能力を評価されてきました。いわば、年度決算や中期経営計画の達成状況が成績表だからです。漠然とした社会不安や社会格差の解消に尽力しても評価されないから、まぁ、いったん脇においておこう、と。
しかし、長期で投資するサイドからすれば、役員の任期中の業績だけでは安心できない、それは当然としてもっと重要なことがある。つまり、企業の将来を長期的に考えると、社会環境の変化は、消費者のし好や価値観を変化させて市場の形を変え、サプライチェーンの需給体制や価格に影響を与え、これらに影響を受けた世界や国の政策形成をも左右しますので、企業経営には大きな影響があるはずです。
とすれば、資産運用会社のように長期的なファンドを組んでいる場合には、そうした影響に受け身のリスク対応で留まることなく、さらに変化を積極的に取り込んで長期的成長に繋げている能動的な企業であるかの判断は不可欠です。真に能動的な経営判断を実践している企業かどうかを見極めるための、いわばリトマス試験紙が「パーパス」だといえます。確かに、現在のところ、パーパスの優劣を比較評価できる客観的モノサシとなる基準は開発されていませんが、少なくとも酸性土壌かアルカリ性土壌かがわかれば、そこに適した植物の予測、つまり、企業の進める事業の方向性・可能性は予測できます。これが、書簡に言う「ポテンシャル」に関わります。
ラリー・フィンク氏は、2018年だけでなく、続く2019年、2020年でも、同様にパーパスの重要性を訴え、成長と利益を長期的な視点で見ることを強調し、「長期的成長にはパーパスこそが原動力になる」ということを、さらに確信をもって主張しているようです。 次回は、長期的成長の原動力になるというこの「パーパス」は今までのビジョンやミッションと比べて、機能的に一体何が違うのか、を金融・経済との関係でご説明しましょう。