松本 香澄 氏 | 2020年、世界からのお客様に胸を張って東京をお見せするために | グリーンジョブのエコリク

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2020年、世界からのお客様に胸を張って東京をお見せするために

2017.1.20

インタビュー

松本 香澄 氏 | 2020年、世界からのお客様に胸を張って東京をお見せするために

今回は東京都都市整備局で東京都の都市計画を推進する仕事に従事されると同時に、土木技術者女性の会の事務局長として理系女性の支援活動をされている松本香澄様にお話を伺いました。

松本様のご経歴についてお聞かせください。

景観という分野があることを知って社会工学科に

東京工業大学の社会工学科を卒業しました。たまたま、大学受験の頃に景観について大学の先生が書かれた記事を見つけて、こういう分野があるということを初めて知って、そういう勉強をしたいと思い、志望しました。

結局、私は景観の研究室に行きませんでしたが、すぐ近くでその世界にも触れられましたし、たまたま開発事業によってもたらされる街への影響を勉強する機会もいただきました。 私は学部卒なので研究室生活は1年間だけでしたが、景観のことをかじりつつ、都市開発のことも知った状態で卒業を迎えた時に、公務員になりたいと思い、東京都を志望しました。

東京都での配属、そして第一子出産

東京都では土木職としての採用で、私は都市計画局に配属になりました。区画整理という都市開発の手法の部署に配属されて、大学時代の専攻が少しは活かせる新人時代を迎えることができたのは幸せでした。

都市計画局で区画整理や開発などの仕事をしている間に、結婚して初めの子供が生まれたのですが、身体がそんなに強い方ではなかったので、仕事第一ということは無理だろうと思い、産休と育休を4ヶ月くらい取りました。育休取得もまだ制度発足間もない時期だったので、取らせていただくことがありがたく、取らしていただく限りは少しでもご恩返ししたいとは思っていました。しかし、保育園に子供を預けたりして、心の中では可愛い子供との葛藤で、その時に自分の中の優先順位が少し変わって、自分の家の近くで仕事が続けられる職場に、というスタンスになってしまったという感じがありますね。

主任昇進と水道局での仕事

都庁の昇進は全て試験によるもので、昇進は男女関係なく全くフラットです。そこで、まずは、主任試験を受けて主任になりました。

主任になると他局に配属されることになっていました。東京都は仕事の幅が広いので、同じ土木職でも港湾や建設、下水、環境など色々ありますが、結果的に水道局に異動することになり、その後10年間いることになりました。

水道の仕事は、「水源から蛇口まで」といろいろ分かれていて、水道局の組織も浄水場や配水管敷設、配水管の維持、管から各家庭に引き込む給水装置などの縦割りになっています。最初は給水装置の担当の営業所に配属されて、給水装置の仕事をやりつつ、お客様サービスの一環として水道局のPRグッズなどを使った営業をやっていました。

その後、局内で異動して、全体の施設計画を考える部署の中の水需要予測の関係を仕事になりました。水需要予測では、統計学やデータの分析を行う業務が多く、大学で学んだことがそこで本当に活きました。水使用の状況を把握するために、生活用水ではお風呂の水や洗濯などの家庭の視点が必要となり、業務用水では大量の水を使う羽田空港(飛行機を洗う等)、大学、病院などの大規模水使用者にヒアリングに行い、今後の水使用動向を検討するという仕事もありました。都民の皆さんの水の使い方と水の供給方法のマッチングを一生懸命やっていたように記憶しています。またその時期、水道局の中で若手がもっと自由に発言できる場を作ろうよという活動も情熱をもってやっていました。

第二子出産と管理職試験

第二子を妊娠した時に、多摩地区に住んでいたこともあり、また家の近くで仕事をしたいと希望して、多摩地区の管路管理を行う多摩水道対策本部に異動しました。当時、東京都は、水道も下水道も、施設の整備経過から、区部では維持管理体制がしっかりできていましたが、多摩地区は各市町にお任せでまだまだ混乱している状況でした。私が多摩に異動したころは、各市町の水道を東京都水道局で一元化するために、組織の枠組みを大きく変える時期でした。水道局には、水道施設の維持管理についてのプロが大勢いらっしゃるので、その方々のお話を聞きながら、学びながら、新しい体制も作らなければいけない、という状況。団塊の世代が確実に退職するのが見えているという時期に将来の水道事業の枠組みを決めていく仕事で、仕事の内容としては非常に厳しかったのですが、今思えば楽しく水道の仕事をやらせていただきました。その間に二人目が生まれて、家に近い職場で保育園に間に合うギリギリの時間まで仕事していました。

そして、もうひとがんばりと思って管理職試験を受けました。やっとのことで合格し、都市建設エリアに戻され、さらに修行を積んでというコースがはじまったのが、平成14年ですからもう15年前ですね そこからは都市開発系一本になりましたね。

課長になられたのは、平成何年ですか?

課長昇級と市政への出向

平成17年です。そこで武蔵村山市役所に出向しました。前日まで課長補佐で、当日から課長級ですが、市役所に出向すると部長級になってしまうのです。昨日まで補佐だったのに「部長!」と呼ばれることになり、まして担当部長ではなくライン部長で、どうなることかという感じだったのですが、本当に素敵な方々に恵まれて、楽しくやらせていただきました。

その時は都市整備部だったので、あらゆる都市整備のお仕事が管轄なので、これもこれもこれも私の仕事という感じでした。自分は研究体質ではなく、物事に広く浅く関わるのが好きなタイプでしたので、そういう意味ではぴったりでしたね。市役所時代の経験がその後に、随分活きました。

業務を続ける上で必要な資格などはあるのでしょうか?

仕事を続けていながらも、本当は少し仕事を休んで子育てに専念してから仕事に復帰したいと思っていました。しかし、資格をほとんど持っていなかったので、仕事を辞めてしまったら私には何もない、と非常に焦っていた時期がありましたね。本当、技術士くらい持っていないとまずいかな?と思っています。

私達東京都の昇進試験では、土木職は技術士を持っていると土木専門の試験は免除になる制度があります。その為、技術士の資格を一生懸命取っている人が多いです。ただ、逆に専門馬鹿みたいな人が増えてしまうのも困るので、管理職試験では、面接等でちゃんと資質を見抜かなくてはならないと、職員を採用したり育成したりする立場として思います。

技術士や土木施工管理技士、コンクリート技士・・・といろいろな資格がありますから、自分にあった資格を見定めて取得している人は羨ましいですね。

課長になられて市役所に行かれてから都庁に戻ってこられたのですね。

2020年のオリンピックに向けて

都庁に戻ってからは、再開発や区画整理の事務所に配属になりました。その後採用関係の仕事もありましたが、平成20年に都市整備局に戻ってからは開発関係が続き、現在は区画整理や開発許可の仕事をしています。

今所属する部署では、自分のラインではありませんが、汐留地区や有明地区というように、東京都が事業者として区画整理をしている事業も担当しています。区画整理事業で、土地の交換分合をして高度利用を図り、まちづくりを進めていく事業です。今、電通が入っているビル等がどんどん建ちましたよね。あそこは元々JRの貨物操車場だったのですが、区画整理事業で整備された結果できた街になります。そのような事業者の立場で仕事をしていた時期が長かったのですが、現在の担当は、民間事業者の区画整理や開発に対して、指導というのはおこがましいのですが、こうした方が上手くできるよ、とアドバイスしたり、他の部署との仲介をしたり、という仕事をメインでしています。
私は、就職して最初の仕事が区画整理だったこともありますし、市役所や事務所で再開発を担当したことや、区画整理の事務所で地権者さんと直接やりとりをした経験があったことが活きて、今の仕事ができていると思います。「昨日までの自分は今日のためにある」と19歳になった息子がよく言うのですが、まったくその通りだと思っています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、それぞれの事業がどういう形で2020年を迎え、どういう形で外国から東京に来る方々に、胸を張って東京をお見せすることができるか、どれだけ整えることができるか、という勝負の時期に入ってきたと思っています。

あと3年ですね。

今、自分の担当している事業の中で一番大きいのは渋谷駅周辺の開発です。実は2020年に、すべてが完成するわけではありません。西口の工事は後回しになります。ただ、東口はほぼ完成形になる予定です。今後、銀座線の駅が移動し、埼京線のホームも移動する予定で工事が始まっていますし、東急の新しい店舗も2019年にはできる予定と聞いています。2020年の夏場には外国のお客様がきて、渋谷駅から新しい国立競技場に行けるような交通ルートも考えられていると聞きます。

私の担当業務の中では、多摩地区の仕事も結構ありまして、稲城や町田あたりでも大規模な土工事があります。雨が続いたり、地震があったりすると崖地や擁壁が崩れないようにと心配しながら、事前対応を肝に銘じながら仕事をしています。

都心部の再開発と多摩の元々緑が多いところの開発をする上で、環境に対する考え方は変わったりするのですか。

「作る緑」と「護る緑」

私はその事業が何を目的としているかで緑の意味が違ってくると思っています。 例えば渋谷のように交通結節点の整備ということでは、周りの商業系土地利用をどう有効におこなうかを主眼に考えるので、どちらかというと「作る緑」のイメージですね。緑被率の考え方は最低限ありますけれど、緑の意味が違う。
一方、多摩地区では、以前から山を切り拓いて行う宅地開発が多いので、本当に良好な樹林地を開発してよいのかといつも気になるところです。住宅開発後にその住宅のイメージをどう考えるか・・・後背地に緑があることを前提として住宅の販売をするのであれば、緑地を活かした住宅デザインを考慮して設計をするでしょうし、全然そんなことを考えずに、ただただ宅地面積を確保したいということであれば、それが周辺の方々にご理解いただけるのかどうか、開発する地域だけではなく、その地元の市なりのお考えの中で開発事業を認められるのかが主眼になるかと思います。

都内の土地利用は高速道路の配置と似ている状況だと思っています。都心環状線内部にあたる都心部と、外郭環状線の内側の地域、圏央道の内側の地域では、それぞれ緑に対する意識のレベルが違うかもしれないですね。今は外環あたりの地域の生産緑地を、どのようにして残していけるものを残すかということが、局として、都として大命題になっていると思います。生産緑地の持ち主が土地を売ることになって、市役所が買えなかったら民間に土地が渡る。そうしたらそのまま畑を続ける可能性がそれほど高いわけではないので、これまでの良好な緑(農地を含む)の維持が期待できないことになる・・・。地域にとってどのくらい緑があれば住民が納得できるか、緑の残し方をどうするかということを改めて検討しなければなりません。そういう時の緑は「作る緑」だけでは許されないでしょうし、同じ緑の比率の考え方でも、ちょっと中身が違うように思いますね。今お話ししながら自分の中で区別しているなって思いました。

都心部と郊外では同じ緑被率の考え方でも、ちょっと中身が違うように思いますね。

渋谷区には明治神宮があるのですが、明治神宮は大正時代に作られた緑なんですよね。

区画整理の歴史と環境保全の実際

作った緑も50年経てば、100年経てば・・ですよね。渋谷でも品川でも今植えておけば、50年後にはそうなるって想像力が働けば・・・。

私たちが関わっている区画整理の歴史には、震災復興と戦災復興とがあって、その流れを汲んでいることになっています。関東大震災後の後藤新平の時代の震災復興で区画を整理して、何もないところはバーっと道路を計画して、という感じです。東京都の地図上に、練馬・世田谷あたりになんとなく緑がライン上に多く残っているところがあるかと思います。現在では考えられないことですが、戦後にグリーンベルトを作るという考えで、建物を建てさせない規制をしてこういう緑が残っている状態があります。当時のグリーンベルト計画をそのまま実現させるのはちょっと難しいですが、なんとかその趣旨を活かすことができないか、という仕事に関わっている仲間も同じ部の中にいます。

最近、圏央道が県域を越えて繋がったので、それぞれのインターチェンジの近くに物流拠点を作る計画がクローズアップされています。しかし、こういう緑豊かな地域ですから、新たに施設を作るということは大規模な樹木の伐採等を伴うので、どうしても本当にこの場所に物流拠点が必要なのかということを、改めて考えなくてはいけない場合もあります。現在の自分の立場は事業者ではなく、事業者の相談を受ける立場なので、一歩引いているところがありますが、市役所の方々は、地元の方のご了解をいただかないと事業も進められないという状況で、一番苦しい立場かもしれませんね。事業者や市役所の方々に対して、ご協力できるところはして、知恵やアドバイスを伝えることや、他県の事例をお伝えするなど精一杯のお手伝いしている感じですね。

全国の会員数が250人を超える「土木技術者女性の会」の事務局長として女性のキャリア支援をされていらっしゃいますが、会での活動についてご紹介いただけますか。

ロールモデル集の冊子等で女性技術者を支援

ご縁があって、土木技術者女性の会の事務局の仕事に関わらさせていただいています。

「Civil engineerへの扉」という冊子を出していますが、要は先輩がどうやって今の状態になったのかを知りたいという場合に活用していただきたいロールモデル集です。自分の会社には先輩がいなくて、どうしたらいいのだろうって困っている女性土木技術者はいまだ多いんですよね。なので、土木界の中でもゼネコンやコンサル等様々な分野の方にお願いをして、私は若い頃はこうだったけど、こんなことがあったけど、今こんな感じでやっていますよということを載せています。その発展系が「継続は力なり 女性土木技術者のためのキャリアガイド」ですね。これはQ&Aで、こんな時にどうしました?みたいなことも掲載されています。土木学会での作成に当会も協力しました。

国交省も土木学会も、ダイバーシティの一部としての女性活用について、取り組みを発展させながら真剣に動いてくださっています。当会ではそのような動きを追い風にしつつ、土木で頑張っている女性技術者の皆さんが持っている能力を十分に発揮できるようにお役に立てる組織になりたいと思っています。 他人様から見てしっかりした組織だと言っていただけるように一般社団法人化もしました。

土木技術者女性の会のパンフレットと「継続は力なり 女性土木技術者のためのキャリアガイド」
土木技術者女性の会のパンフレットと「継続は力なり 女性土木技術者のためのキャリアガイド」

こちらは土木ですが、一般的に理系文系と分けると理系という分けで、昔に比べると働き方も随分変わってきていると思いますが。

女性のキャリア構築の転機は出産

個人の意見ですが、女性のキャリア構築では、突き詰めると本気で子供を産もうかなという時が大きな転機かもしれないと思っています。結婚は旦那様の理解があれば仕事を続けることは不可能ではないし、仕事を続けさせないなんて言わせないぞという女性が私の周りには結構多いです(笑)。フロアーを見ていただければわかるのですが、この部署には結構女性がいます。元々公務員になるような女性は、勤め続けたい気持ちから公務員を選ぶし、就職活動の時にそういうことを調べるという話もよく聞きます。

今、20代30代、結婚前とか結婚してこれから子育てとかを考えている女性に、会としてどのようなアドバイスをされていらっしゃるのですか。

先輩技術者のアドバイスと共に就活支援なども

まず、学生さんに土木業界も悪くないよ、おもしろいよとお伝えするのが一つです。世間的にあまりよいイメージがないようですから。

土木工学科に入ってこの先どういう仕事に就こうかという学生さんには、例えばコンサルならこういう仕事でこういう生活、公務員ならこう、ゼネコンならこうと社会人の実情をご案内しています。 また、就職して1年目2年目のちょっとこんなはずじゃなかったという思いを持っている若い方々が、「先輩たちどうしたかな」と思う時に先ほどの冊子を使っていただいて、また会のメンバーが直接アドバイスする機会をつくったりしています。

昨今、会社に入ったからにはその組織に最後まで従属する、という時代ではありませんよね。子育て終わってから退職して海外に行ったり、若いうちに退職して子育てをしてやっぱり仕事をしたい方もいらっしゃり、会で知り合いになった方とご縁があって再就職できたりという話もありますので、そういうマッチングの仲介役になれるといいと思っています。グレイスも環境ビジネスにおいて同じような企業活動をされていますよね。/p>

現場見学が一番の勉強

勉強会も年に数回、各支部で行われています。大きな土木構造物を目の前にして、どのような計画を立てて橋を作ったのか、どういう環境条件をクリアして設計を行ったのか、という話は生きた事例なので、土木業界の勉強会の一番はやはり現場見学会ですね。

まさに「継続は力なり」で、継続することがキャリアを作っていくために一番大切なことと思いますが。

一つの組織にいることの継続ではなく、向上心を持ち続ける継続や、自分にとってより良いもの、能力を発揮したいという思いを持ち続けることであってほしいですね。

最後に、今就職活動や転職活動をしている人に向けてのアドバイスをお願いします。

自分を安売りして欲しくないですね。

安売りして欲しくない、というのはそれなりの能力がある人にでなければと言えない世界だと思っています。安売りをしなくても済むだけの準備と、転職するならば今の会社で得られる知識を全部得てから転職してください、とお伝えしたいですね。そうでなければ、本当にもったいないと思っています。その志を持てる人をできる限り応援したいと思っています。

貴重なお話をいただきありがとうございました。

プロフィール

松本 香澄(まつもと かすみ)

松本 香澄(まつもと かすみ)

昭和63(1988)年:東京工業大学工学部社会工学科卒業
同年:東京都庁に入庁 (都市計画局防災計画部市街地開発課)
平成 6(1994)年:主任昇格 水道局に異動
平成11(1999)年:係長昇格
平成15(2003)年:課長補佐昇格
平成17(2005)年:課長昇格 武蔵村山市へ出向
平成20(2008)年:東京都に復職
その後、都市整備局市街地整備部 民間まちづくり担当課長等を歴任し現在に至る

主な社外活動
(一社)土木技術者女性の会 事務局長(平成27年6月~)
土木学会 H部門論文編集委員会、継続教育実施委員会に所属

就職支援パンフレット「Civil Engineerへの扉」2006年版(A5版23頁)
将来を模索している女子高校生や女子大学生の職業選択や、土木技術者を目指している女性達の就職活動を支援することを目的として、土木技術者女性の会が作成した就職支援パンフレットです。
土木技術者女性の会のWebサイトより無料配布の申込みができます。

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