エコリクコラム
2017.2.20
インタビュー
中村 隆之 氏・倉橋 征示 氏・佐々木 梓乃 氏| 環境ビジネスの未来とその課題
今回は「行政」としての視点で環境ビジネスを調査されている環境省総合環境政策局の皆様にお話を伺いました。
現在の所属組織と業務内容について
◇中村
私たちは、環境省の総合環境政策局という部署に所属しています。特定の政策分野というよりは環境保全の施策を横断的に見るような部局で、例えば地球温暖化対策であれば地球環境局とか、生物多様性の保全や利用の促進であれば自然環境局という、特定の政策分野を持っている局に対して、我々は、複数の政策分野の横串を通す役割を担っています。その局の中の環境計画課で環境経済政策に関する調査や情報の整備、発信を担当しています。
まず、環境計画課がどういった仕事をしているのか簡単に説明すると、一つは環境保全型の地域づくりを標榜しており、例えば地球温暖化対策に関する計画では、国が旗を振るだけではなく、地域に根ざした形で地球温暖化対策が進むことが重要と考えており、自治体の政策立案支援をしています。次に環境計画課という名前のとおり、環境基本計画に基づく施策の点検や、計画そのものの見直しの検討といった業務を担当しています。環境基本計画とは、環境基本法の第15条に基づく政府の総合的かつ長期的な政策の大綱をまとめている計画を指します。その他にも、環境基本法第12条に基づき、環境白書の作成・取りまとめを担当するなど、環境保全に対して色々な角度からの取組をしています。
その中で、環境経済政策の担当としては、環境基本計画で掲げている「環境・経済・社会の統合的向上」の実現に向けて、経済・社会と調和した環境政策の企画・立案や、環境産業の発展に資する基盤の構築を目指して取り組んでいます。「環境」と「経済」に着目した場合、相乗効果が非常に重要であることからも、より環境に配慮した経済活動を行う企業が増えることは目指すべき方向性であり、それを我々は「経済のグリーン化」と表現しています。「環境産業」は持続的な成長を続けており、新たに参入を考えるのは企業の経営戦略上有意義な部分もあるのではないかと考えています。そのような各種情報を調査し取りまとめた上で、広く国民の皆様へ提供しています。
簡単にまとめると、環境と経済に関連する、国民の皆様、企業の皆様等にとって有益な情報とは何かを考えながら、調査研究、データの収集・分析、情報発信に取り組んでいるということです。
より具体的なところをご説明していただけますか
◇佐々木
私たちは、大きく4つの事業を担当しています。
一つ目が「環境経済の政策研究」で、環境政策の課題について経済・社会への影響や効果等を調査・分析することによって、今後の環境政策の企画や立案に役立てるという目的から、基礎的な理論・分析等の知見を提供しています。
二つ目が、「環境経済観測調査(環境短観)」で、日本銀行が実施している日銀短観と同様に、環境ビジネスの景況感等について年2回定期的にDI(ディフュージョン・インデックス)を用いて測定しています。
三つ目が、「環境産業の市場規模調査」で、2000年以降、国内の環境産業の市場規模・雇用規模、付加価値額、経済波及効果等について推計を行っています。
四つ目が、「環境ビジネスの振興方策検討」で、環境ビジネスを展開する企業を対象に毎年テーマを決め、30社程度に対してヒアリングを行い、参入経緯、市場における位置付け・事業の状況、成功・差別化要因、今後の展望・課題等の情報を収集・分析し、今後の振興方策について発信をおこなっています。
「環境短観」と「環境産業の市場規模調査」はマクロの視点、「環境ビジネスの振興方策検討」はミクロの視点で環境経済を捉え、調査・分析を行っています。
実際は、調査されてみて環境ビジネスの動向はどうですか?いい方へ向かっていますか?
◇佐々木
環境産業の国内市場規模の推計結果(図1)では2014年に100兆円を超えて、全産業に占める割合(図2)も11.1%まで増加しました。調査を開始した2000年以降、リーマンショックの影響のあった2009年を除けば右肩上がりに成長を続けています。ここ近年では、図1のグラフの「地球温暖化対策分野」が2009年以降特に成長しています。
◇倉橋
「地球温暖化対策分野」の具体的な成長要因として、一つ目はエコカーへのシフト、ハイブリッド自動車の市場拡大。二つ目は、2012年のFIT制度の導入による再生可能エネルギー利用。特に、太陽光発電システムの設置工事やそれによる売電ビジネスが急成長しています。
環境産業は特定の業界があるわけではなく、様々なビジネスの中の環境保全に関連の深い一部を捉えて環境産業と位置付けています。自動車であればエコカー、電力であれば再生可能エネルギー、また、リサイクル系は業界全体が環境産業と分類され、統計的に数字を集めていくと、図のような推計となります。技術革新等により環境産業は日々、新しい環境産業と言える項目が増えていますので、「環境産業の市場規模調査」では、有識者による検討会を設け、毎年どういったものが環境産業に該当するのか検討を行っています。例えば、カーシェアリングはそれぞれが車を所有するのではなく、レンタカーのように必要な時に一台の車をシェアして使いますが、一台の自動車を効率的に使う事を支援するため、このようなシェアリングビジネスも環境産業に該当するのではないか、といった検討を進めています。
新卒の学生がどういった仕事をしたいかを考える際に、「環境産業って何ですか」という質問が出る時があります。その際、私たちがお答えするのは全ての業種、業界に環境産業というのはありますと説明しますが、それで間違い無いでしょうか。
◇中村
会社でも「環境」と名のついた部署がありますが、その部署だけが会社の環境施策を担っているわけではないと思います。官公庁も環境省だけが環境について取り組んでいるのではなく、国土交通省ではエコカーの施策を推進していますし、経済産業省でも再生可能エネルギーの施策に取り組んでいますので、逆に環境しかやっていないという方が少ないと思います。ということは、見方を変えれば、どのような企業でも環境の要素というのは何かしら必ず持っていて、おっしゃるように、環境産業というのは、案外身近で、どこにでもあるものですよ、というのが実際なのだと思います。もちろん環境産業に事業全体が丸々含まれてくるような、リサイクルや自然環境保全等の分野もありますよね。
◇佐々木
そうですね、あとは環境汚染防止分野とかでしょうか。
◇倉橋
環境汚染防止分野系は、理系の学生さんだと興味がある分野でしょうか。土壌・水質浄化や環境経営支援などがありますが、その分野の市場規模の変化は大きくありません。
図中の「環境汚染防止分野」では、2004年が約6兆円で2005年が約12兆円と大きく成長していますが、この伸びの一番大きな要因は規制によるガソリンのサルファーフリー化によるものです。石油業界が規制に先行して硫黄の少ないサルファーフリーガソリンを発売したことが影響しています。このように、環境対応製品が新たな市場を生み出し、市場を拡大させる傾向があります。じわじわ成長する分野もありますが、技術革新や規制によって、これまでなかったものが生まれ、一気に成長するというビジネスもあります。
この業界におりますと、環境の調査会社とか分析会社というのと多数お付き合いをしているのですが、このところあまり景気の良い話がなかなか聞けていないのですが、そのあたりはこれからまた伸びていくと想像できるのでしょうか。
◇倉橋
公共事業に密接して事業を行っている企業が多くあると思います。
◇中村
そこを事業の中心にしていると、公共事業の発注数の減少の影響もあると思います。一方で、危機を感じて事業の転換をされたりする企業もあります。例えば、先にお話で触れた環境短観で、今の業況はどうですか?という質問に対し、環境ビジネスを展開している企業と展開していない企業の景況感等を比較しています。その結果から見ると、環境ビジネスを実施している企業の方が景況感は高い傾向にあります。この景況感については、回答いただいている現場の経営者や経営企画担当者の実感も入っているのかなと思います。
これまでのデータを取られていて、今後の予測として、こういった方向へ行くのではないか。その辺りを少しお聞かせいただけないでしょうか。
◇倉橋
統計的なことになると、将来予測や目標値を業界団体が出していたりするので、今のこの「環境産業の市場規模調査」の事業としては過去しか捉えていないところではありますが、どうやれば将来推計ができるか検討課題として進めているところです。環境短観では、半年後・10年後の予測を聞いており、環境ビジネスを展開している企業の景況感ですと半年先は「あまり変わらない」が多いのですが、10年後は業況が「良くなる」という企業が多いという結果があります。全産業よりも伸びしろがある結果が出ています。「良くなる」という理由として大きいのは、特にエネルギー関係であり、再生可能エネルギーは期待を抱かれていて、現時点のトレンドである太陽光というよりも今後はその他の再生可能エネルギーにシフトしていくと見られています。
太陽光はここ数年で本当に急成長しましたね。
◇倉橋
太陽光発電はかなり進んでいて、太陽光パネルは田舎道を走っていてもどこでも目にするような状況になっています。ある程度普及が進み設置工事は頭打ちが来ると思いますが、売電事業が市場として残ると思います。それ以外ですと、バイオマス系等いろいろなものをエネルギーに変えようと様々な企業が取り組んでいらっしゃいます。
これから環境業界で働こうとされている方々へのメッセージをお願いします。
◇倉橋
環境省の職員として、自然を愛する学生は自然環境局のレンジャー職はどうですか?採用数は少ないと思いますが、自然保護官が必要になりますので、国立公園で働く職員として募集しています。
◇中村
環境というとかなり漠然としたイメージで捉えている方が多いと思います。私も学生時代に広い意味では環境系の学問を専攻していました。仕事で環境をやりたいと思った時に、それが自分の思い描く環境とは何かを、自分の中でよく自問自答して、クリアにすることが重要だと思います。環境とは言っているけれど、自分はフィールドに出て環境測定をやりたいとか、地球環境保全に貢献する技術開発をやりたいとか、仕組みを作る環境行政をやりたいとか、環境で活躍できるフィールドはそのとらえ方によっても、かなり広がりがあるのではないのでしょうか。
◇倉橋
環境だけでは広すぎるので、言われた方も「環境の仕事がやりたいです」と言われて、「何がしたいの」と聞いたときに、そこで何が出てくるのかですね。特に専門的な会社であれば、専門的なことに携われると思いますが、通常の企業の場合だとなかなかそうもいかないと思います。環境に直接的に関係する部署もあるけど、他の部署も経験することは大切だと思いますね。
◇佐々木
環境は分野的にも幅広く、明確な定義付けもなかなか難しいと感じています。その反面で、どんな会社であっても環境と結びつけるということが可能な時代になっているのかなとも思っています。環境に関係したフィールドで働く機会、もしくはそれをアイデアとして持ったりするチャンスというのは常にあるのではないでしょうか。
皆様は、環境というのをどういうふうに捉えて働いていらっしゃるのかをおひとりずつお聞かせいただけないでしょうか。
◇倉橋
日常の中にあるものだと思います。それに気づいているところもあれば、気づいていない環境にいいことって本当にいっぱいあると思うので、そういうことを広めていかなければいけないと感じています。「環境と社会によい暮らし」に関わる活動や取組を募集して紹介や表彰を行う「グッドライフアワード」という環境省の事業があるのですが、一人だけで取り組むのはもったいない、いいことは広めていかなければいけないと思います。
◇中村
私が個人的に思うのは、環境は全ての「基盤」ということです。基盤であるからこそ、普段意識しないのかなと思います。例えば、環境・経済・社会の統合的向上と先程申し上げましたが、そういうことを考えたときにも、環境が基盤になければ企業活動・経済活動もうまくいかないし、社会生活もままならないと思うので、人間だけじゃなくて動物とか植物も含めてでしょうけれど、そういったものが永続的に繁栄できるようなもののベースとして、環境があるということなのかなと思います。だから今ある環境を大切に、持続可能な形で次世代に残していくことが重要ではないかと感じます。
◇倉橋
昔は環境を無視した企業もあったでしょうけど、今はそれをやっていたら絶対に成り立たない。汚染物質をばらまいて大量に安くなんてやっていたら、間違いなく継続できないと思います。
◇佐々木
私は「環境ビジネスの振興方策検討」の取材で去年から何十社という企業を訪問していますが、ある企業の社長のお話が印象的でしたので紹介します。「もともと利益を追求してきたわけではなく、どんな世の中にしたいか、どんな世の中になればいいかということをイメージしたときに、こうなればいいなと思ったことを選択してきた結果が環境だった。」というお話を伺い、面白い表現だなと感じました。人それぞれどんな世の中にしたいかというイメージは違うかもしれないですけど、その先に「環境」があるというのはとても説得力のある表現で、私自身も影響を受けました。
確かにその言葉わかりますよね。
◇佐々木
あと、課題として感じるのは、「環境保全」とか「環境負荷軽減」ということをいかに個人レベルに落としていくのかということです。企業は義務付けられていることも含めて意識が向上していると思うのですが、国民一人一人が取り組んでいくこと、周知していくことというのが非常に重要かつ難しい部分でもあります。今では当たり前になっていますけど、ペットボトルの分別は個人の行動として染み付いているじゃないですか。実はそれってすごいことだと思っていて、そのような一つ一つの作業を手間とか面倒とか感じない、当然の行動として定着させていくことがとても大切だと思っています。
◇倉橋
やっぱり普及啓発活動というのは、最初は手間と思われても、手間が手間じゃなくて当たり前と思うことが自然に生活の中に取り入れられていくことが大切だと思います。
貴重なお話をいただきありがとうございました。