エコリクコラム
2017.11.20
インタビュー
堀江 隆一 氏・高木 智子 氏 | 環境・社会配慮と経済性が両立することを示したい
ESGのコンサルティング業務などで発展を続けている「CSRデザイン環境投資顧問株式会社」。
代表取締役の堀江様、コンサルタントの高木様に仕事内容、やりがいなどをお話しいただきました。
お二人のご経歴についてお聞かせください。
◇堀江
私は金融出身で最初に日本興業銀行で働きました。当時はコーポレートファイナンスを中心とした営業や、NY支店でローンのシンジケーションといった業務を担当していました。その後バブル崩壊などもあり、舞台を移したいと思って外資系の金融機関に移りました。
ストラクチャードファイナンスと言われる仕組み金融案件の組成やそのマーケティングを担当しました。扱った資産としては銀行ローンや不動産、インフラなど色々ありまして、特に最後の辺りでは再生可能エネルギーファンドや排出権取引などにも関わるようになったことで、環境分野に興味を持つようになりました。今の会社を立ち上げたのが、2010年の頭になります。
堀江社長も含め、海外に留学されている方が多くいらっしゃいますよね。
◇堀江
最初の会社から派遣されて2年程留学した後、NY支店で働きました。中堅・中小企業向けの営業をやっていたことから、アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)等に興味がありました。西海岸のバークレーはその分野で最先端の学校(カリフォルニア大学バークレー校)だったので、Social Responsibilityなどという言葉もバークレーで初めて聞いて、そういったことを学ぶことができたのが今に繋がっていると思っています。
◇高木
私は修士と博士課程とずっと建築で、環境工学から入っています。グリーンビル(環境に配慮したビル)をどうしたら普及できるかについて、まずは冷房負荷を減らすにはどうしたらよいか、と言った技術的なところから始めたのですが、そこに優れた技術はあるけれどどうやったら普及できるか、に興味が移りました。工学的な視点からだけだと、なかなかそこにたどり着かなくて、博士課程では政策的なアプローチからも研究しました。
その後に、国交省の研究所に入り、建築基準法や住宅性能評価制度など、政策を施行していく際の技術的なサポートをする仕事をしていました。5年間働いて任期を終え、よりマーケットに近いところで働きたいという想いで縁あってこちらに入社しました。
私も博士に入った直後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの修士課程に留学して都市計画を学びました。都市計画といってもSustainable Development(持続可能な開発)が主眼になっているコースでした。日本では環境面だけしか学んでこなかったのが、サステナビリティといったときに、こんなにも社会面が強く出てくるのか、と発見できたのは面白かったですね。
事業内容についてお聞かせください。
◇堀江
大きく2つのビジネスがあります。1つ目は当社のお客様、主に不動産会社、J-REIT(不動産投資信託)や一般の不動産ディベロッパーの方々のESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みを進めるためのコンサルティング業務を行っています。もう1つは政府・自治体を中心としたセクターに対して、省エネや低炭素の政策や市場動向に関する調査及び助言を行うシンクタンク的な仕事もしています。
前者で言いますと、GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)というものがありまして、これは欧州の年金基金を中心に創設された不動産会社・ファンドのESGの取組み度合を測る評価です。2009年の初回調査では日本の参加者はゼロでしたが、次の2011年から弊社が関わるようになり参加者も増えてきました。日本の参加者の評価が向上するように、様々なアドバイスも行っていますが、サステナビリティ推進全般の体制づくりやポリシー策定、環境管理システムのPDCAを回していくところなどがあります。最近ではESG情報の開示の支援が特に伸びてきています。
◇高木
政府機関向けの調査では、東京都や中央省庁などからの仕事があり、環境に配慮した建物(環境・省エネ建築等)に関連した海外の施策を調査するものが多いです。通常の調査に加え、英語での報告書の発行もあり、過去2回、C40 Cities(世界大都市気候先導グループ)の方たちと東京都環境局さんが一緒に調査研究をする際に、弊社が請け負い、報告書を刊行しました。内容としては世界の様々な都市の政策担当者に電話インタビューなどをして、政策プログラムを作ったり施行したりする際の苦労した点や気を付けているところなどを教えていただき、これから政策を作りはじめる都市やグローバルの研究者の方に向けて発信したというものです。
◇堀江
自分たちの事業もそうですし、自分たちのお客様のビジネスでも、環境・社会配慮と経済性が両立することを示すお手伝いをしたいと思っています。世の中には既に、例えば省エネに資する技術は十分にあるけれど、それを普及させて世の中を変えていく方法として、まず1つ目にはお金の流れを変えることが重要だと思っています。ESG投資というのは正にそれです。日本の不動産・インフラセクターに海外の年金基金の優良なお金を呼び込んで、経済的価値の向上にもつなげるため、日本企業のESG評価が上がるお手伝いをしています。
もう1つは政策や仕組み作りです。規制やインセンティブなど、うまく政策を打っていくことで大きく社会を動かすことができます。そのお手伝いをしたいということで、官公庁の仕事も積極的にやっています。業務としてだけではなく、国交省・環境省・東京都などの委員会のメンバーや座長として貢献させていただくことでも、そうしたお手伝いが少しは出来ているのではないかと思っています。
環境・CSRコンサルティング会社の中でもさらに特徴的なセクターでのコンサルティングをされていらっしゃいますが、競合他社はあるのでしょうか。
◇堀江
事業分野をどう定義するのかにもよりますが、不動産・インフラセクターの会社レベルでのESG全般のアドバイスにフォーカスしてやっているところは他にはないでしょうね。
◇高木
全般と言うのは、どなたが責任者になってどういう社内体制を組んでいくかという体制整備のところや、ポリシーを作ったり、またそのPDCAを回して実践していくというあたりですね。
◇堀江
2015年9月に、世界で最大の年金基金であるGPIF(Government Pension Investment Fund/年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(Principles for Responsible Investment/国連の責任投資原則)に署名されました。PRIは、ESGを推進する金融面で一番大きなイニシアチブだと思いますが、それから日本で「ESG投資」という言葉や概念が一気に広まりました。そのGPIFが今年の7月に、自分たちが国内株のパッシブ投資に使うESGインデックスを3つ選んだと発表しました。その中の1つのインデックスにJ-REITが7社入っていたということもあり、J-REIT業界でもESGに関するインデックスに選ばれるためにESGに関する開示をもっと充実させたいといった動きがこの3ヶ月ぐらいで急速に広がってきています。
最初にお話ししたGRESBというのは開示情報だけでなく、非開示情報も含めてかなり詳しい内容をアンケート調査で回答していただいて、裏付けとなる資料も添付していただき、それが採点・評価されるものです。GPIFが選んだインデックスは開示情報のみに基づいて評価するというものなので、いくら良い取り組みをやっていてもそれを開示していなければ評価対象になりません。日本企業のESGに関する開示も3~4年前に比べれば随分進んできましたが、まだまだ内容面において欧米企業と比べると及ばない所も多いので、このESGの開示のレベルを上げるお手伝いをして、日本の会社さんがせっかく良い取り組みやっているのになかなか投資家から評価されない、という状況を変えていきたいと思っています。
◇高木
大手ディベロッパーでは既にCSR報告書などで詳細な開示をされていましたが、2013年私がここに入ったころは、J-REITではほとんどサステナビリティとか環境ということは開示に出てきませんでした。最近はほとんどの場合、WEBサイトにサステナビリティに関わるセクションを持っていたり、資産運用報告とかアニュアルレポートなどのIR資料の中でも触れる例が随分増えてきました。GRESBに参加される方々をはじめとして意識が高まっているという実感もあります。とは言え、大手ディベロッパーや海外企業と比べると開示情報の厚みや深さにはまだ相当の差があると感じます。
中途採用で入社された方々の具体的なお仕事内容についてお聞かせください。
◇堀江
最初は補助から始まりますが、比較的早い段階から担当を持っていただいて実際にお客様のサポートをしていくことになります。その入り口としてはGRESBの年一回の評価があります。各企業に調査回答を埋めてきていただいて、その内容に弊社からアドバイスをしたうえで、英訳等を仕上げてGRESBに提出するというものです。調査内容についてどういったアドバイスができるか、先輩から聞きながらお客様に具体的なインプットをしていきます。回答を提出して評価結果が出た後は、来年以降の評価向上のために具体的にどういった取組みをしたらよいか分析・提案をしていく、というサイクルがあります。
◇高木
担当を持つと言ってもいきなり一人立ちするわけではなく、お客様に返す内容については社内のレビューがしっかり入ります。必要であればメール1本であっても添削するなど、かなり丁寧に確認と指導をしていますので、心配されなくて大丈夫です。
◇堀江
GRESB評価の結果が出るのは毎年9月なので、秋ごろは各社さんの結果の分析レポートを作っていただいています。他社さんと比べてどこが優れているか、課題はどこかをお伝えして、お客様の方で、実際に改善していこう、となれば例えばポリシーなどを一緒に策定する、その他の取組みも支援する、と言う流れです。
当社の業務分野は、環境やサステナビリティ、金融、建築・不動産などにまたがっており、またGRESBというのもユニークな指標です。すべての経験がある人はまずおらず、誰が入られてもかなりの部分は初めてですが、1年、2年でちゃんと皆一人立ちしてくれているので、そこは心配いらないと思っています。
個別の営業活動はあまりやらないんですね。
◇堀江
そうですね。個別の営業活動はあまりやっていません。GRESBという会社と日本市場におけるアドバイザーという立場で契約しているのは日本で我々だけなので、GRESBに取り組んでみようという方には自然にお声掛けいただける立場にあります。ただ、お声掛けをいただいた方々はできるだけ大切に対応させていただくように心がけています。
あとは色々な公的な委員会の委員をやっていたり、PRIなど国際的なイニシアチブのワーキンググループ議長やアドバイザーをやらせていただいたりしているので、そういった公的な場や国際的な場で発言や貢献していることが間接的に色々なマーケティングになっていると思います。
どういった人材を求めていますか。
◇堀江
経験で言いますと、3つの分野のうちどれかは経験していてほしいと思っています。1つは環境・サステナビリティに関する経験、もう1つは不動産ないし建築の経験、3つ目は金融ないし投資の経験、この中の1つはあってほしい。それと、GRESBを始めとする海外のネットワークとの連携が弊社の強みでもあるので、英語はある程度使いこなせる方が良いと思います。
それ以上に大事な、人となりに関しては、チームで連携して動けるチームプレイヤーであることを求めています。また、言われたことだけをやるのではなく、自発的に能動的に動いて新しい分野を一緒に切り拓いていける熱意を持った方が弊社には向いていると思います。まだ小さな会社なので、こういった点を重視しています。
◇高木
新しい分野を開拓していくなんてできるかな、と私は入社時に心配だったのですが、まずは一つ一つの改善、工夫の積み重ねで良いと思います。お客様とのやり取りの中でニーズをくみ取って、それを社内で揉みながらアウトプットとして出していける。全く新しい一歩を踏み出すということではなく、積み上げてきたものから一歩二歩提案することがまずできれば良いと思っています。
あとはお客様と話すことが好きな人、対応を辛いと思わない方が良いです。調査業務もありますが、核となるのはコンサルティングなので、人とのコミュニケーションを楽しめる方が向いています。お客様と話すことでニーズを引き出せたり、丁寧に対応することで顧客満足度が上がることにも繋がります。
◇堀江
もともとはGRESBから始まってはいますが、最近では年間を通じての顧問契約のような形でサステナビリティ全般に関するアドバイスをする、というお付き合いが増えてきていて、どの時期ということではなくお客様とやり取りをする機会が多くなっていますね。
色々な経歴の方が入社されていますが、社員の皆様はどういったところにやりがいを感じていらっしゃるのでしょうか。
◇堀江
お客様のESGに関する評価が明確に上がるのがわかる、それに対して貢献しているというのは分かりやすくやりがいとして感じられると思います。例えば、自分たちのアドバイスを受けて、開示レベルが向上したり、様々な具体的取り組みも充実していくのは担当者レベルで目に見えて分かりやすいですね。
会社レベルで言えば、2013年頃は日本のGRESB参加者の平均はグローバルと比べると大分遅れていました。それが2014年には平均に並び、2015年以降は日本の平均がグローバルの平均を上回るという状況にまでなりました。これは各企業の皆様の頑張りの結果ということですが、自分たちが関わらせていただくことが日本の不動産セクター全体のサステナビリティ推進に役立っていると感じられるところはやりがいだと思います。
◇高木
GRESBはある種の開示のフレームワークで、扱う内容も、環境だけではなく推進体制の整備やガバナンスもあれば、テナントさんや従業員とのエンゲージメントなど、本当に幅広い対象をカバーしています。グローバルな投資家から見て不動産会社に何が求められているかが網羅されている感じなのですが、そのGRESBの設問項目に沿って実質的な取り組みを進めていくと、サプライヤーとの関係構築がきちんと進んだり、環境管理システム(EMS)についても各社が少しずつ取り組み始めていく。そんな動きが近くで見られるのは本当に面白いと思います。
◇堀江
色々な委員会をやっている中で、国交省の環境不動産の普及促進検討委員会と言うものがありました。その中のグリーンリースを普及するためのワーキンググループで私がグループ長をさせていただきまして、国交省だけではなく経産省、環境省も協力ということで「グリーンリース・ガイド」をとりまとめました。これはビルのオーナーさんとテナントさんとの間の賃貸借契約や覚書の中に、省エネ・環境配慮や社会的配慮などを推進するための条項を入れ込み、それを実践していく、というオーストラリアが発祥の取り組みです。このガイドが出たことで環境省や東京都で補助金の制度が出来るなど、グリーンリースを広げていこうと政策面でも展開が始まっています。
こうした海外の先進事例を日本的にアレンジしたものを仕組みとして日本に根付かせていく。自分たちが関わった仕事が実際に制度となって、社会に広がっていく、そういった世の中の1つのムーブメントの推進に関与できていることも、もう一つ大きなやりがいだと思います。
環境ビジネスへ就職・転職される方にアドバイスをお願いします。
◇堀江
若い方にも経験者の方にも当てはまることですが、環境系の会社が色々ある中で、そのなかで自分が何をやりたいのかをはっきり持つことだと思います。当社でいえばセクターとしては不動産やインフラですが、環境や社会配慮は経済性と両立できるんだよ、ということを自分たちとお客様の取り組みで証明していきたい、ということが会社の考えの根幹にあります。ですので、ご本人のやりがいの面からも、そうした基本的な考え方が合致することが大切だと思います。
貴重なお話をいただきありがとうございました。