エコリクコラム
2018.3.10
インタビュー
氏川 恵次 氏 | SDGsをいかに評価するか?
今回は横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 教授(経済学博士)、氏川 恵次 教授にお話を伺いました。
先生のご経歴についてお聞かせください。
経済学部に在籍の折から、人口問題、資源・廃棄物問題といった経済社会の制約となる問題に、経済学が有効な処方箋を提供できていないことに強い疑問を持っていました。約20年前の大学院時代から、指導教員の勧めで、世界で最も環境が汚染された中国の内陸部の実態にふれ、こうした地域での深刻な環境汚染、貧困、開発といった、今風に言えばSDGsの具体化を模索してまいりました。 現在、主に産業・産業連関分析、国民経済計算論をはじめとした各種の手法を用いて、経済・社会・環境の複数の視点からSDGsや各種指標をいかに適正に評価するか、を研究しています。
先生の横浜国立大学での担当科目・授業についてお教え下さい。
国際環境経済論(学部)、国際環境経済(博士課程前期)、環境経済研究(博士課程後期)、Environment and Economic Development(博士課程前期、英語)などを教えています。
先生は現在、どのような研究をされているのでしょうか?
「海外評価機関主導のESGから、日本の地域発信のESG評価をすること」について研究しています。
SDGsの評価を国レベルや経団連などで出すようになり、ESGも海外の機関で評価され、大枠が固まってきています。そのような中で私たちがやろうとしていることは、SNAをはじめとする複数の経済・社会・環境統計を応用して、SDGsであるとか、もう少しブレークダウンしたレベルの評価にうまく使えないかということで、民間企業等とも連携して検証を始めています。実際に投資関係の方にも入っていただいて、海外から輸入している既存のESG評価等も見直して、むしろ日本発の評価手法の提案も検討し始めています。
SDGsに則して、各企業で色々な取り組みを進めていくことになりますが、実際に企業の方々にヒヤリングをすると、例えばある種の規格が商品やサービスを提供する際の一種の制約になってしまっているという意見があります。これに対して、ある企業のバリューチェーン、あるいはもう少し広げて横浜市、神奈川県といった地域レベルで把握して、LCAの考え方で、どの過程からCO2が排出され、どこでそれを削減したらよいのかを地域社会・消費者・企業等に提示することができないか、という研究も進めています。
SDGsは国や企業にとって大きなチャンスになると思いますが、それと同時に大きな制約にもなります。そうならないよう、できるだけうまく活用して、地域社会や企業のガバナンスができるよう、我々の分析手法が使えないか、というのが大きな目標の一つとなっています。
研究の対象地域はどこになるのでしょうか?
大学だけでなく、商工会議所や企業、市町や県といった行政、市民・住民の方々と連携してやっていこうとしています。行政の方は、従来から取り組みや研究にも興味を持っていただいていましたが、それが最近では、企業の方がとにかく取り組みを前に進めたい、と希望されるようになってきていると感じます。
連携する組織・団体はあるのでしょうか。
地域については横浜市等の大都市だけでなく、例えば小田原市・箱根町といった県西部のように、自然豊かな地域でも検討しています。横浜市の場合ですと、いわゆるエコプロダクツがとくに対象となりますが、上記の県西部等については、他にもエコツーリズム等で見ていきたいなと思っています。
指導している学生の研究はどのようなものでしょうか。
院生は環境・社会・経済の評価が中心となりますが、学部生はSDGsとまちづくり等をテーマとしたものが多いですね。例えば、上記のフィールドに実際に入ってもらい、国際事例との関係で、国内の地域はどうなっているかを比較分析させたり、各種の計量分析で、例えば環境投資やCSRを進めることでどれだけ利益につながるかを明らかにしたり等、割と多様なアプローチでやらせています。計量分析が得意な学生、制度分析が得意な学生、それぞれに合わせて指導していますね。
学生はどういったところに就職をされていますか。
特に環境の道に進むというわけではなく、メガバンクや商社、あるいは公務員など、一般で聞くような希望進路です。ただここで面白いのが、面接の中で、授業で学んだり、フィールドで体験したりした、環境関連の教育・研究の話をすると、面接官が興味を持ってくれる、反応が良いというのはよく聞きますね。また、県内外での環境関連企業のフィールドワークも行うのですが、その中で例えば再エネ関連の企業に興味を持ち、環境分野の道に進むような学生もいます。
エコリク勉強会を学内で開催されてみて、いかがでしたか?
我々もアカデミックな内容が中心になるので、ビジネスの現場で実際にどういった企業がどのようなビジネスをなさっているのかということについて、全体像を掴むことは正直難しいんです。ですので、市場規模や雇用規模、成長分野や具体的な仕事など、そういった環境ビジネス全体のお話を聞けることは生徒たちにもとても勉強になったと思います。えてして環境の仕事というのは特殊なイメージがある、それが実際にはこれから主流となっていくんだよ、ということを教育していくには非常に良いと思います。
貴重なお話をいただきありがとうございました。
プロフィール
- tag: