企業に迫る「製品設計」の変革:EUエコデザイン規則と日本・資源有効利用促進法改正が描く未来〜サプライチェーン全体で問われる「持続可能性」、2025年施行に向けた戦略的対応の鍵〜 | グリーンジョブのエコリク

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企業に迫る「製品設計」の変革:EUエコデザイン規則と日本・資源有効利用促進法改正が描く未来〜サプライチェーン全体で問われる「持続可能性」、2025年施行に向けた戦略的対応の鍵〜|グリーンジョブのエコリク

2025.7.4

トピック

企業に迫る「製品設計」の変革:EUエコデザイン規則と日本・資源有効利用促進法改正が描く未来〜サプライチェーン全体で問われる「持続可能性」、2025年施行に向けた戦略的対応の鍵〜

サステナビリティ経営が国内外で加速するなか、欧州(以下、EU)では「エコデザイン規則(ESPR: Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」が2024年6月20日に公布され、日本でも「資源有効利用促進法」の改正法案が2025年2月25日に閣議決定されました。

これら両制度は、製品設計や資源利用のあり方を根本から変革し得る内容であり、事業会社にとってその対応は非常に重要です。しかし、ともに今後の委任法や立法プロセスによって大きく変わるため、受け身の法令対応ではない「先回りした戦略的な準備」が求められています。

エコデザイン規則(ESPR)とは

EUエコデザイン規則(ESPR)は、従来の「エコデザイン指令」(エネルギー関連製品が対象)を大幅に拡大し、「製品の持続可能性」を多角的に評価・規制する新たな枠組みです。2024年6月20日にEU官報で公布され、20日後に発効しました。

  • 目的:
    • 製品のライフサイクル全体を通じて、その環境パフォーマンスを向上させること。
    • 製品の耐久性、再利用性、修理可能性、リサイクル性などを高めること。
    • 資源効率を改善し、廃棄物の発生を抑制すること。
    • 製品の環境フットプリントを削減し、循環型経済への移行を加速させること。
  • 対象製品:
    • 従来のエネルギー関連製品(家電、照明など)に加え、繊維製品、家具、鉄鋼、アルミニウム、化学品、ICT機器など、ほぼ全ての製品カテゴリーが対象となります(食品、飼料、医療機器を除く)。
    • 各製品カテゴリーの具体的な規制内容は、今後、欧州委員会による個別法(委任法)で定められることになります。
  • 規制内容(エコデザイン要件): ESPRは、製品の「エコデザイン要件」として、以下のような要素の開示や適合を求めます。
    • 製品の耐久性、信頼性、再利用性、修理可能性、リサイクル性: 部品交換の容易さ、修理マニュアルの提供など。
    • 製品のエネルギー効率および資源効率: 省エネ性能、使用する再生資源の割合など。
    • リサイクル含有量: 製品に含まれる再生材料の比率。
    • 有害物質の含有量: 特定の有害物質の使用制限。
    • トレーサビリティ: サプライチェーンにおける製品・部品の追跡可能性。
    • デジタル製品パスポート(DPP): 各製品に固有のQRコードなどを付与し、原材料調達から製造、流通、廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル情報をデジタルで記録・提供する仕組み。これにより、消費者やリサイクル業者が製品情報を容易に確認できるようになります。

2025年2月25日に閣議決定された「資源有効利用促進法」とは

日本の「資源有効利用促進法(資源の有効な利用の促進に関する法律)」は、製品のライフサイクル全体で資源の有効利用を促進し、循環型社会の構築を目指す法律です。今回の改正は、2025年2月25日に閣議決定され、「戦略物資供給網強化法」との一括法案として今国会での成立が目指されています。

  • 目的:
    • 製品の製造段階から再資源化まで、資源の循環利用を促進すること。
    • 廃棄物の排出を抑制し、環境負荷を低減すること。
    • 資源が乏しい日本において、資源供給の安定性を高めること。
    • 特に、国際的に重要性が高まる使用済みバッテリーなどのリサイクルを強化すること。
  • 対象製品:
    • これまでも家電製品やパソコン、容器包装など、特定の製品が対象とされてきましたが、今回の改正では、特に使用済みバッテリー(車載用蓄電池)や太陽光パネルといった、再資源化が急務な製品群が新たに追加・強化される見込みです。
    • これにより、これらの製品の製造事業者や使用済み製品の処理事業者に対し、回収・再資源化の義務や基準が課せられることになります。
  • 主な改正内容(案):
    • 製品の「設計段階」からの環境配慮義務: 製品の寿命延長やリサイクルしやすい設計を製造事業者に求める。
    • 使用済み製品の回収・再資源化の義務化・強化: 特に車載用蓄電池や太陽光パネルについて、製造事業者等に使用済み製品の回収やリサイクルを義務付ける(またはその仕組みを強化する)。
    • 再生資源・再生部品利用の促進: 製造事業者に対し、再生資源や再生部品の利用目標を設定・達成するよう求める。
    • 情報開示の促進: 製品のリサイクル性や含有物質に関する情報開示を促し、消費者の適切な選択やリサイクル業者の効率的な処理を支援する。

大きな変更点は何か

EUのESPRと日本の資源有効利用促進法改正は、目指す方向性は共通していますが、そのアプローチや範囲には違いがあります。

【共通の大きな変更点】

  • 「設計」段階への踏み込み: 従来の「廃棄物処理」中心の規制から、「製品設計」の段階でいかに持続可能性を高めるか、という上流工程への規制が強化される点が共通の大きな変化です。これにより、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指します。
  • 循環型経済への移行加速: 再利用、修理、リサイクルを促進し、線形経済(製造→使用→廃棄)から循環型経済(資源循環)へのシフトを両法が強く推進します。
  • サプライチェーン全体の責任: 製品設計や資源利用に関する責任が、製造事業者だけでなく、サプライチェーン全体の関係者(部品供給者、販売者、リサイクル業者など)にも及ぶ可能性が高まります。
  • 情報開示の重要性増大: 製品の環境性能や持続可能性に関する情報開示が義務化され、消費者や関係者が適切な判断を行うための透明性が向上します。

【相違点と日本の特徴】

  • 対象範囲の広さ:
    • ESPR: ほぼ全ての製品カテゴリーが対象となる「水平的規制」であり、その網羅性は非常に広範です。
    • 日本の資源有効利用促進法改正: まずはバッテリーや太陽光パネルなど、特定の「重点品目」に焦点を当てた「垂直的規制」のアプローチを取っています。
  • 強制力と詳細度:
    • ESPR: 各製品カテゴリーの個別法(委任法)で詳細な要件が定められ、これらは法的拘束力を持ちます。デジタル製品パスポート(DPP)のような革新的なツールも導入されます。
    • 日本の資源有効利用促進法改正: 製造事業者の努力義務や、ガイドラインによる推奨が中心となる可能性もありますが、重点品目については具体的な義務が課せられる見込みです。ただし、ESPRほどの詳細な要件や全製品対象のDPPのような仕組みは現時点では想定されていません。
  • 国際的な整合性:
    • 日本は、EUの動きを注視しつつ、日本独自の資源循環の課題(例:車載用蓄電池や太陽光パネルの大量廃棄問題)にも対応する形で法改正を進めています。将来的には、EUのDPPのような仕組みとの相互運用性も課題となる可能性があります。

現状と課題について

両制度は大きな変革を促しますが、企業にとっては対応すべき課題も山積しています。

【現状】

  • EU・ESPR: 既に公布・発効済みですが、各製品カテゴリーに適用される具体的な「エコデザイン要件」や「デジタル製品パスポート」の仕様は、これから欧州委員会が個別法(委任法)として策定していく段階です。この委任法の策定には数年かかると見られており、その内容が確定するまで予見性が低いという課題があります。
  • 日本・資源有効利用促進法改正: 閣議決定され、今国会での成立を目指していますが、具体的な政令や省令、ガイドラインの内容はこれから詳細が詰まる段階です。EU同様、その詳細が未確定であるため、企業は動向を注視する必要があります。

【企業が直面する課題】

  • 情報収集とモニタリング: 委任法や政令、省令の詳細が未確定であるため、企業は常に最新の情報を収集し、自社製品への影響を継続的にモニタリングする必要があります。
  • 製品設計の抜本的見直し: 製品開発の初期段階から、耐久性、修理可能性、リサイクル性などを考慮した設計(エコデザイン)を取り入れる必要があります。これは、R&D部門や製造部門だけでなく、サプライヤーとの連携も含む抜本的な変革を意味します。
  • データ収集と管理の強化: 製品のライフサイクル全体の環境情報を把握するためのデータ収集体制(例:CO2排出量、水使用量、再生材使用量など)の構築が求められます。特にサプライチェーン全体でのデータ収集は複雑です。
  • デジタル対応(特にEU向け): EU域内で製品を販売する企業は、将来的にデジタル製品パスポート(DPP)への対応が必要となる可能性があります。これには、製品情報のデジタル化、共通プラットフォームへの登録、データ連携の仕組み作りなど、新たなIT投資とシステム構築が伴います。
  • コストの増加: 持続可能な設計への変更、再生材の利用、情報開示体制の構築、回収・リサイクル義務の履行などにより、初期投資やランニングコストが増加する可能性があります。
  • 国際競争力の維持: これらの規制対応はグローバルな競争環境の中で行われるため、いかに効率的かつ戦略的に対応し、コスト増を抑えながら競争力を維持するかが問われます。

EUのエコデザイン規則(ESPR)と日本の資源有効利用促進法改正は、製品のライフサイクル全体にわたる持続可能性を追求する、国際的な潮流の表れです。これまでの「作って売る」一方通行の経済モデルから、「循環」を重視する経済モデルへの転換を強力に推進します。

これらの規制は、企業に対し、単なる法令遵守に留まらない、ビジネスモデルそのものの変革を迫っています。2025年以降、EUでは個別法の施行が始まり、日本では改正法案の成立と具体的なルールの策定が進むことで、企業は本格的な対応を求められるでしょう。

「受け身の法令対応ではない、先回りした戦略的な準備」とは、規制の詳細を待つだけでなく、今のうちから製品設計を見直し、サプライチェーンにおける環境負荷低減の取り組みを強化し、必要なデータ管理体制を構築することに他なりません。これからの時代、持続可能性へのコミットメントとそれを実現する技術力が、企業の競争優位性を左右する重要な要素となるでしょう。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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