統合報告書が拓く企業価値創造の新時代:歴史から読み解く開示の未来〜財務と非財務の融合が加速、2026年義務化への対応が企業の競争力を左右する〜 | グリーンジョブのエコリク

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2025.7.4

トピック

統合報告書が拓く企業価値創造の新時代:歴史から読み解く開示の未来〜財務と非財務の融合が加速、2026年義務化への対応が企業の競争力を左右する〜

企業が持続的に成長し、社会に貢献していくためには、単なる財務情報だけでは不十分な時代となりました。投資家やステークホルダーは、企業の長期的な価値創造力を総合的に評価することを求めています。そのニーズに応えるツールとして、近年、その重要性を増しているのが統合報告書です。統合報告書は、財務情報と非財務情報を一体化して、すなわち統合的に提供し、企業の長期的な価値創造力を投資家やステークホルダーに伝えるツールです。従来のアニュアルレポートやCSRレポートとは異なり、経営戦略、リスクマネジメント、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を含めて説明することで、企業の持続可能性と成長の方向性を明確にします。

デジタル経済の進展とサステナビリティへの意識の高まりを背景に、統合報告書は進化を続けており、2026年には新たな開示義務化の波が押し寄せています。本稿では、統合報告書の概念からその変遷、そして今後の開示動向と企業が取るべき対応について深掘りしていきます。

統合報告書とは

統合報告書は、企業が短期・中期・長期的な価値をどのように創造し、維持しているかを多角的に説明するための報告書です。財務情報と非財務情報を「統合的」に記述することで、企業全体の戦略と持続可能性を明確に示します。

  • 目的:
    • 価値創造プロセスの説明: 企業がどのようにして社会や環境との関係性の中で経済的価値を生み出しているか、そのプロセスとビジネスモデルを説明します。
    • 投資家との対話強化: 投資家が企業の将来性やリスクを評価するために必要な、網羅的かつ戦略的な情報を提供し、より質の高い対話を促進します。
    • ステークホルダーへの説明責任: 従業員、顧客、サプライヤー、地域社会など、多様なステークホルダーに対し、企業の持続可能性への取り組みとコミットメントを示します。
  • 特徴:
    • 統合性: 財務情報と非財務情報(ESG情報、ガバナンス、戦略、リスクなど)をバラバラに提示するのではなく、相互の関連性を明確にしながら記述します。
    • 短期・中期・長期の視点: 現在のパフォーマンスだけでなく、将来の価値創造に向けた戦略や目標、そこに至るまでの道筋を提示します。
    • 重要性(マテリアリティ): 企業にとって特に重要であり、価値創造に大きな影響を与える経営課題(マテリアリティ)を特定し、その取り組みを重点的に開示します。
    • アウトカム重視: 投入(インプット)や活動(アウトプット)だけでなく、それらがもたらす長期的な影響や成果(アウトカム)に焦点を当てます。

統合報告書の変遷

統合報告書の概念は、企業の社会に対する説明責任の進化とともに発展してきました。その変遷を振り返ります。

  • 黎明期(2000年代初頭〜):
    • 企業報告の初期は、財務諸表中心のアニュアルレポートが主流でした。しかし、環境問題や社会問題への意識の高まりとともに、企業のCSR(企業の社会的責任)活動をまとめたCSRレポートが登場し始めました。
    • この時期は、財務情報と非財務情報が独立して作成・開示されることが多く、両者の関連性は必ずしも明確ではありませんでした。
  • 統合報告の提唱と普及(2010年代〜):
    • 2010年、G20の財務大臣・中央銀行総裁会議の提言を受けて、国際統合報告評議会(IIRC: International Integrated Reporting Council)が設立されました。IIRCは、財務資本市場の安定性や持続可能な発展に貢献するため、企業報告の統合化を推進しました。
    • 2013年には、IIRCが「国際統合報告フレームワーク」を公表し、統合報告書を作成するための具体的なガイダンスが提供されました。これにより、世界中の企業で統合報告書の発行が本格的に広がり始めました。
    • 日本企業もこの動きにいち早く反応し、特に2014年に伊藤レポート(持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係の構築~)が公表されて以降、多くの企業が統合報告書の発行を開始しました。これは、単なる情報開示に留まらず、企業の経営戦略そのものを再構築する機会となりました。
  • 基準の国際統合(2020年代〜):
    • 2020年、IIRCはサステナビリティ会計基準審議会(SASB: Sustainability Accounting Standards Board)と統合し、バリュー・リポーティング財団(VRF: Value Reporting Foundation)を設立しました。
    • 2022年には、VRFがIFRS財団(国際会計基準財団)に統合され、IFRS財団傘下にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が設立されました。これにより、財務報告の国際基準を策定するIFRSと、サステナビリティ報告の国際基準を策定するISSBが連携し、財務情報とサステナビリティ情報が「一体的」に開示される体制が整えられました。これは、統合報告の思想が、国際的な基準策定の主流となったことを意味します。

サステナビリティ情報開示の義務化の影響

IFRS財団によるISSB基準の策定は、統合報告を含むサステナビリティ情報開示の義務化に直結し、特に2025年に向けた動きが活発化しています。

  • ISSB基準の策定:
    • ISSBは、投資家の意思決定に資するグローバルなサステナビリティ開示基準(IFRS S1およびIFRS S2)を開発しました。これらの基準は、企業が気候変動関連のリスクと機会を含む、持続可能性関連の開示を財務諸表と同時に行うことを求めています。
    • これにより、財務情報とサステナビリティ情報の連結性が強化され、統合報告書で目指されてきた「統合性」が、より実効性のある形で国際基準に取り込まれることになります。
  • 日本における義務化の動き(SSBJ基準):
    • 日本では、ISSB基準をベースに、日本企業の実態に合わせたサステナビリティ開示基準を策定するため、サステナビリティ基準委員会(SSBJ: Sustainability Standards Board of Japan)が設立されました。
    • SSBJは、2025年3月末に、サステナビリティ情報開示義務化に関する確定基準を公表した内容を元に、日本の上場企業を中心に、サステナビリティ情報の開示が実質的に義務化される見込みです。
    • 適用時期としては、2026年3月期決算企業から任意適用が開始され、その後、段階的に義務化対象が拡大されると予想されています。
  • 統合報告書への影響:
    • 義務化されるサステナビリティ開示情報は、これまで統合報告書がカバーしてきた非財務情報の多くと重複します。このため、統合報告書は、単なる「任意開示」ではなく、「義務開示」されるサステナビリティ情報を包括し、企業の戦略と価値創造のストーリーと紐づける、より重要な役割を担うことになります。
    • 財務情報とサステナビリティ情報の連動性がさらに求められ、投資家はこれらの情報を一体として評価する傾向が強まります。

企業はどのように対応すべきか

サステナビリティ情報開示の義務化と、統合報告書の重要性の高まりに対し、企業は以下の点を踏まえて対応を進めるべきです。

  • SSBJ基準への理解と準備:
    • SSBJから公表される確定基準の内容を早期に理解し、自社が対象となるか、どのような情報を開示する必要があるかを把握する。
    • 必要なデータ収集体制を構築し、データの正確性と信頼性を確保する。特に、サプライチェーン全体での排出量など、これまで把握が難しかったデータにも対応できるように準備を進める。
  • 情報開示体制の強化:
    • 財務部門とサステナビリティ推進部門、IR部門など、関連部署が連携し、一貫性のある情報開示を行うための横断的な体制を構築する。
    • 開示する情報の質を高めるため、社内での議論を深め、経営層がサステナビリティを経営戦略の中核に据える意識を醸成する。
  • 価値創造ストーリーの深化:
    • 単に基準に沿って情報を開示するだけでなく、自社のビジネスモデルが社会課題の解決にどのように貢献し、それが長期的な企業価値創造にどう繋がるのかを、明確かつ説得力のあるストーリーとして提示する。
    • 非財務情報が財務パフォーマンスにどのように影響を与えるかを分析し、具体的に示す「インパクト測定」の取り組みを進める。
  • デジタル開示への対応:
    • 将来的にサステナビリティ情報のデジタル開示が進むことを想定し、XBRLなど機械可読性のあるデータ形式での報告を見据えたシステムやプロセスの検討を開始する。
  • 外部との連携:
    • サステナビリティコンサルタントや監査法人など、外部の専門家と連携し、開示内容の妥当性や信頼性を高めるためのアドバイスを得る。
    • 投資家との積極的な対話を通じて、彼らが求める情報や視点を把握し、開示内容に反映させる。。

統合報告書は、単なる過去の実績報告ではなく、企業の未来の価値創造力を示す戦略ツールへと進化しています。2025年3月末のSSBJ基準、そしてそれに続くサステナビリティ情報開示の義務化は、企業報告の歴史における大きな転換点となるでしょう。

これからの企業は、財務と非財務の情報を統合的に捉え、自社のビジネスモデルが社会や環境に与える影響を深く理解し、それを戦略に落とし込み、透明性高く開示していくことが求められます。この動きは、企業の持続可能性を高めるだけでなく、投資家からの評価向上、ひいては企業価値の最大化に直結します。/p>

統合報告書を通じた戦略的な情報開示は、変化の激しい現代において、企業が競争優位性を確立し、社会から選ばれる存在であり続けるための不可欠な要素となるでしょう。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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