エコリクコラム

2025.6.27
トピック
豊田通商とLGESがタッグ! 北米で車載用電池リサイクル新会社設立、循環型社会へ加速〜EV市場拡大の裏側で進む「バッテリーリサイクル革命」、レアメタル確保と環境負荷低減を両立〜
電気自動車(EV)市場が世界的に拡大する中、その心臓部である車載用リチウムイオン電池の「リサイクル」が喫緊の課題となっています。2025年6月19日、この課題解決に向けた大きな一歩として、豊田通商株式会社(以下:豊田通商)が、韓国LGグループのLG Energy Solution(以下:LGES)と、車載用電池のリサイクル事業を行う合弁会社「Green Metals Battery Innovations, LLC 」(以下:GMBI)を、米国ノースカロライナ州に設立することで合意したと発表しました。
リリース内容と背景について
今回の合弁会社設立は、電動車の普及と持続可能な社会の実現に向けた、両社の戦略的な取り組みの一環です。
【設立の背景】
- 電動車市場の急成長とリチウムイオン電池需要の拡大: 米国では、電動車(EVやPHEVなど)や再生可能エネルギーの需要増加に伴い、リチウムイオン電池の市場成長が加速しています。これにより、将来的には使用済み電池や、製造工程で発生するスクラップ(屑)や規格外品などの排出量が飛躍的に増加することが見込まれています。
- レアメタル確保の重要性: リチウムイオン電池の製造には、リチウム、コバルト、ニッケルなどの希少なレアメタルが不可欠です。これらの資源は特定の地域に偏在しており、地政学リスクや供給の不安定化が懸念されています。そのため、使用済み電池や製造スクラップからレアメタルを回収・再利用し、資源の安定供給を図ることが戦略的に重要性を増しています。
- 環境規制と循環型社会への要請: 環境への配慮の観点から、世界的にレアメタルの回収・再利用を義務づける動きが加速しており、こうした規制動向への対応も求められています。使用済み電池を適切に処理し、資源を循環させる「クローズドループ」の確立は、企業の環境責任を果たす上で不可欠です。
【両社の強みと役割】
- LG Energy Solutionの強み: LGESは、リチウムイオン電池を製造する世界有数の電池メーカーであり、特に車載用電池の製造に強みを持っています。同社は北米をはじめ、ヨーロッパや中国などで電池を生産しており、今後は500GWh以上の生産能力を有する計画です。特に北米では、現在建設中の工場を含めて8工場を保有する同社最大の生産拠点として、製造工程スクラップのリサイクルと再利用によるクローズドループの確立も進めています。GMBIは、LGESの北米での大規模な電池生産能力から生じる製造スクラップを安定的に供給されることで、事業の基盤を確保します。
- 豊田通商の強み: 豊田通商は半世紀以上にわたり金属スクラップのリサイクルや使用済み自動車の再資源化など「循環型社会」の構築に取り組んできた実績を持つ商社です。2023年には日本国内でリチウムイオン電池のリサイクル事業も開始しており、その知見とネットワークを北米での新事業に活かします。自動車産業における長年の経験と、グローバルなサプライチェーン構築のノウハウも、本事業の成功に貢献すると期待されています。
【新会社の事業概要】
- 社名: Green Metals Battery Innovations, LLC (GMBI)
- 所在地: 米国ノースカロライナ州
- 事業内容: GMBIは、電池スクラップ(使用済み電池や製造工程で発生する屑、規格外品など)を破砕・選別し、ニッケル、コバルト、リチウムなどのレアメタルを多く含んだブラックマスと呼ばれる粉末を高効率・高品質に抽出する前処理事業を行います。
- 今後の計画: 今後、GMBIは車載用電池換算で4万台以上に相当する、年間最大1万3,500トンのスクラップ処理能力を有する工場を建設し、2026年中の稼動を予定しています。まずは、LGESなどの電池製造工程で発生するスクラップを中心に高品質なブラックマスの回収を行い、将来的には米国内で発生する使用済み電池のリサイクル事業にも取り組んでいく計画です。
- 目指す姿: 豊田通商は、本事業を通じて北米における電池リサイクルの事業基盤を構築するとともに、ブラックマスから回収されたレアメタルを新品電池の原料へ循環させるクローズドループの確立を目指します。これにより、持続可能なサプライチェーンの構築に貢献します。
リチウムイオン電池とは
リチウムイオン電池(Lithium-ion battery: LIB)は、現代社会において不可欠な二次電池(充電可能な電池)であり、その高性能から幅広い分野で利用されています。
- ■ 構造と原理: 正極、負極、電解質、セパレーターの主要4部材で構成されています。充電時にはリチウムイオンが正極から負極へ移動し、放電時には負極から正極へ移動することで電気を発生させます。
- ■ 特徴:
- 高エネルギー密度: 小型・軽量でありながら、大容量の電力を蓄えることができます。これがEVやスマートフォンなどの小型化・高性能化を可能にしています。
- 高い電圧: 電池1セルあたりの電圧が高いため、少ないセル数で高電圧を得られます。
- メモリー効果が少ない: 完全に放電しなくても充電できるため、継ぎ足し充電に強い特性があります。
- 自己放電が少ない: 長期間使用しなくても、電池容量の減少が少ないです。
- ■ 主な用途:
- 電気自動車(EV): 大容量・高出力が求められるEVの駆動用バッテリーとして広く採用されています。
- スマートフォン、ノートパソコン: 小型で長時間使用できるため、モバイル機器の主要電源となっています。
- 蓄電池: 太陽光発電などの再生可能エネルギーの貯蔵用や、家庭用・産業用蓄電池として利用が拡大しています。
- その他: 電動工具、ロボット、ドローンなど、多様な機器に搭載されています。
リチウムイオン電池のリサイクルの課題とは
リチウムイオン電池は環境負荷が低く、効率的なエネルギー貯蔵が可能ですが、そのリサイクルにはいくつかの技術的、経済的、制度的な課題が存在します。
- ■ 技術的な課題:
- 電池の多様性: リチウムイオン電池には、正極材や構造、形状、容量が異なる多様なタイプが存在します。それぞれに適したリサイクルプロセスが必要となり、処理の標準化が難しい点が挙げられます。
- 複雑な分解・選別: 電池は複数の素材が複雑に組み合わされており、これを安全かつ効率的に分解・選別し、レアメタルを回収する技術の確立が重要です。特に、発火リスクを伴うため、安全な前処理技術が求められます。
- 高純度回収の難しさ: 回収したレアメタルを新品電池の原料として再利用するためには、高い純度が求められますが、不純物を取り除くプロセスはコストがかかり、技術的なハードルが高いです。
- ブラックマスの後処理: ブラックマスはレアメタルを濃縮した粉末ですが、これから個々のレアメタル(リチウム、ニッケル、コバルトなど)を分離・精製する「後処理」技術も、さらに高効率化・低コスト化が必要です。
- ■ 経済的な課題:
- リサイクルコスト: 現状、新品のレアメタルを採掘・精製するコストに比べ、リサイクルコストが高い場合があります。技術開発によるコスト低減や、政府のインセンティブ付与が求められます。
- 市場価格の変動: 回収されるレアメタルの市場価格が変動するため、リサイクル事業の収益性が不安定になるリスクがあります。
- 収集・運搬コスト: 使用済み電池の回収ネットワークの構築や、輸送コストも大きな課題です。特にEV用電池は大型で重量があるため、物流コストがかかります。
- ■ 制度・社会的な課題:
- 回収スキームの確立: EVの普及が始まったばかりの日本では、まだ大量の使用済み車載用電池が出てきていません。今後、排出量が増加するにつれて、全国的な効率的な回収スキームを構築する必要があります。
- 法規制の整備: リサイクル義務化や、リサイクル材の利用促進、有害物質の管理などに関する法規制の整備と国際的な調和が求められます。
- 安全性への配慮: リチウムイオン電池は、破損や不適切な処理により発火・爆発のリスクがあるため、回収・運搬・処理の全工程で高い安全性が求められます。
豊田通商とLG Energy Solutionによる北米での合弁会社設立は、電動車の普及が進む中で、使用済み車載用電池のリサイクルという喫緊の課題に対し、企業が積極的にソリューションを提供していくという強い意志を示すものです。レアメタル資源の安定確保と、環境負荷低減を両立させる「クローズドループ」の構築は、持続可能な社会を実現するための不可欠なステップとなります。
今回の取り組みは、単に資源を再利用するだけでなく、LGESの生産工程から出るスクラップを直接リサイクルすることで、高品質な原料を新品電池の生産に循環させるという、効率的かつ環境に配慮したサプライチェーンの構築を目指しています。
リチウムイオン電池のリサイクルには、技術的、経済的、制度的な課題が山積していますが、両社の専門性と知見が融合することで、これらの課題を克服し、持続可能な電池バリューチェーンの実現に大きく貢献することが期待されます。