エコリクコラム

2025.6.23
トピック
記録的猛暑が日本を襲う!「10年に一度」の高温にどう備える? 〜6月下旬から全国的に異常な暑さ、電力ひっ迫と私たちの対策〜
気象庁は、熱中症や農作物の管理に厳重な注意を呼びかけています。6月16日に発表された「高温に関する早期天候情報」によると、6月22日頃から、沖縄を除くほぼ全国で「10年に一度」クラスのかなりの高温となる可能性が示されました。これは、日本の南から太平洋高気圧が強く張り出し、暖かい空気に覆われることが原因とみられています。
6月下旬から始まる「10年に一度」の高温とは
気象庁が発表した「高温に関する早期天候情報」は、平年よりも著しく高い気温が続く可能性が高い場合に発表される情報です。「10年に一度」クラスのかなりの高温とは、その地域における過去の記録と比較しても、稀にしか観測されないほどの非常に高い気温を意味します。
例年、梅雨が明ける7月下旬から8月にかけて猛暑となることが多いですが、今回は梅雨の6月下旬という、例年よりも早い時期から記録的な暑さが予想されている点が特徴です。これは、体が暑さに慣れていない時期に高温となるため、例年以上に熱中症のリスクが高まることを意味します。
具体的には、最高気温が35℃以上の猛暑日となる地域が広範囲に及ぶ可能性があり、夜間も気温が下がりにくい熱帯夜となる日が多くなることが懸念されています。
なぜこんなに暑くなるのか
気象庁の発表では、今回の記録的な高温の主な原因として、以下の点が挙げられています。
- 太平洋高気圧の強い張り出し: 日本の南海上にある太平洋高気圧の勢力が例年以上に強まり、日本列島を広く覆う見込みです。高気圧に覆われると、下降気流により空気が圧縮されて気温が上昇し、晴れて日差しも強くなるため、気温が大きく上昇します。
- 暖かい空気に覆われる: 高気圧の縁を回る形で、南から非常に暖かい空気が流れ込み、日本列島全体が暖気に包まれることが予測されています。
- フェーン現象の可能性: 特に内陸部や山を越えた風下側では、フェーン現象(湿った空気が山を越えて乾燥し、気温が上昇する現象)が発生し、局地的にさらに気温が跳ね上がる可能性も指摘されています。
地球温暖化の進行も、このような異常気象の発生頻度を高めている一因と考えられています。過去に経験したことのないような気象現象が頻発しており、今後の気候変動への適応策の重要性がますます高まっています。
2025年夏季における すぐできる省エネ・節電対策
記録的な高温が予想される夏、冷房の使用は熱中症対策として不可欠ですが、電力需要のひっ迫も懸念されます。賢く省エネ・節電を行い、安全で快適な夏を過ごしましょう。
- エアコンの適切な設定と効率的な使用:
- 設定温度の見直し: 無理のない範囲で、室温28℃を目安に設定しましょう。
- 扇風機やサーキュレーターの併用: エアコンと併用することで、冷たい空気を効率的に循環させ、体感温度を下げられます。設定温度を1℃上げても快適性が保たれる場合があります。
- フィルターの清掃: 2週間に1回程度フィルターを清掃するだけで、冷房効率が向上し、電気代の約5〜10%削減に繋がります。
- 室外機の周辺整理: 室外機の前に物を置かない、日よけを設置するなどして、効率的な放熱を促しましょう。
- 自動運転モードの活用: 近年のエアコンは高性能で、自動運転モードが最も省エネになるように設計されています。
- 日中の日差し対策:
- 遮光カーテンやブラインドの活用: 日中の強い日差しを遮り、室内の温度上昇を防ぎましょう。
- すだれや緑のカーテン: 室外からの日差しを遮ることで、エアコンの負荷を軽減できます。
- 不要な家電製品の電源オフ:
- 使っていない照明や家電製品は、こまめに消したり、コンセントから抜いたりしましょう。待機電力も意外と電力を消費します。
- 家族で共有する省エネ意識:
- 家族で話し合い、省エネ目標を設定する、使用電力を見える化するなど、全員で節電意識を高めましょう。
これらの対策は、電力ひっ迫の回避だけでなく、家計の負担軽減にも繋がります。
2027年までに日本の3.5倍の電力需要増加へ
今回の記録的な高温予測は、日本の電力需給の脆弱性を改めて浮き彫りにする可能性があります。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表している電力需給見通しによれば、近年、電力需要は増加傾向にあります。特に、脱炭素化の動きに伴う電気自動車(EV)の普及や、デジタル化の進展によるデータセンターの増加などが、今後の電力需要を大きく押し上げると予測されています。
経済産業省の資料などでは、AIやデータセンターの急速な発展により、2027年までに世界全体のデータセンターの電力消費量が現在の約3.5倍に増加する可能性があると指摘されており、日本もこの影響を免れません。データセンターは24時間稼働し、冷却にも大量の電力を必要とするため、その増加は電力需要に大きなインパクトを与えます。
猛暑によるエアコン需要の急増と、構造的な電力需要の増加が重なることで、ピーク時の電力ひっ迫リスクがさらに高まることが懸念されています。
現状と課題について
電力需給と熱中症対策は、この夏の喫緊の課題であり、中長期的な気候変動適応策とエネルギー政策の両面から取り組む必要があります。
【現状】
- 熱中症の増加: 毎年、熱中症による救急搬送者数や死者数が増加傾向にあり、国民の健康への影響が深刻化しています。
- 電力需給のひっ迫懸念: 再生可能エネルギーの導入は進むものの、安定供給の課題や送電網の制約、火力発電所の休廃止などで、夏冬のピーク時には電力需給がひっ迫するリスクが常に存在します。
- データセンター需要の急増: AIの進化に伴い、データセンターの建設・増設が国内外で加速しており、これに伴う電力需要の増加が顕著です。
【課題】
- 熱中症対策の強化と周知徹底: 高齢者や子ども、屋外労働者など、熱中症リスクの高い層への重点的な対策と、早期注意喚起、水分補給・塩分補給、適切な休憩、エアコン利用の徹底といった情報発信の強化が必要です。
- 安定した電力供給体制の構築:
- ・ 再生可能エネルギーの最大限導入と調整力の確保: 太陽光や風力発電の導入をさらに加速しつつ、出力変動に対応するための蓄電池や調整力を持つ電源(調整力の高い火力発電、揚水発電など)の確保が不可欠です。
- ・ 送電網の強化: 再エネ適地から需要地への効率的な送電を可能にするための送電網の整備・増強が急務です。
- ・ GX投資の加速: 脱炭素と電力安定供給を両立させるためのGX(グリーントランスフォーメーション)投資を、官民一体となってさらに加速させる必要があります。
- データセンターの省エネ化と立地戦略: 消費電力の大きいデータセンターに対しては、冷却効率の向上や、排熱の有効活用といった省エネ技術の導入を促すとともに、再生可能エネルギーが豊富な地域への立地誘導など、戦略的な配置を検討する必要があります。
- 国民への理解と協力: 電力需給ひっ迫時には、国民一人ひとりが省エネ・節電に協力する意識を持つことが重要であり、政府や電力会社からのタイムリーな情報提供が求められます。
今年の6月下旬から始まる「10年に一度」クラスの高温は、私たち自身の健康を守るだけでなく、日本のエネルギーシステム全体が抱える課題を再認識する機会でもあります。熱中症対策を徹底し、命を守る行動を最優先しながら、同時に賢い省エネ・節電を通じて、電力の安定供給にも貢献していくことが求められます。
気候変動による異常気象は今後も頻発することが予想され、電力需要の構造的な増加も避けられません。安定した電力供給と脱炭素社会の実現を両立させるためには、再生可能エネルギーの導入加速、送電網の強化、そして新たな技術開発への投資が不可欠です。私たち一人ひとりの行動と、国や企業の長期的な戦略が一体となることで、この厳しい夏を乗り越え、持続可能な未来を築くことができるでしょう。