神戸空港に「貼る」太陽電池!ペロブスカイト実証が拓く脱炭素社会への新常識 〜積水化学、積水ソーラーフィルムが挑む、空港の制限区域で国内初の実証実験の社会的意義〜 | グリーンジョブのエコリク

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神戸空港に「貼る」太陽電池!ペロブスカイト実証が拓く脱炭素社会への新常識〜積水化学、積水ソーラーフィルムが挑む、空港の制限区域で国内初の実証実験の社会的意義〜|グリーンジョブのエコリク

2025.6.20

トピック

神戸空港に「貼る」太陽電池!ペロブスカイト実証が拓く脱炭素社会への新常識 〜積水化学、積水ソーラーフィルムが挑む、空港の制限区域で国内初の実証実験の社会的意義〜

日本の再生可能エネルギー導入に新たな可能性を提示する画期的な実証実験が神戸空港で始まります。積水化学工業株式会社およびフィルム型ペロブスカイト太陽電池の製品設計・製造・販売を担う積水ソーラーフィルム株式会社は、神戸市、関西エアポート神戸株式会社と連携し、神戸空港の制限区域内でフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始することを発表しました。

この実証は、従来の太陽電池では難しかった場所への設置を可能にし、日本の脱炭素化を加速させる社会的意義を大きく持っています。

リリース内容について

【実証の背景】 日本は2050年カーボンニュートラル目標を掲げ、再生可能エネルギーの最大限導入を目指しています。しかし、従来のシリコン系太陽電池は、設置場所の制約(重量、設置面の強度、形状など)や、設置工事の難しさといった課題を抱えていました。特に、都市部や既存建築物、あるいは空港のような広大な敷地を持つ特殊な施設では、その制約が顕著でした。

このような背景から、次世代太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池、特に「フィルム型」の特性を活かし、これまで利用が難しかった場所への導入を促進するニーズが高まっていました。積水化学グループは、独自の成膜技術と耐久性を強みとするフィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発を進めており、その実用化に向けて、実際の環境下での性能検証と課題抽出を行うため、今回の実証に至りました。

【実証の展開】 神戸空港の制限区域内という、高い安全性と管理が求められる環境での実証は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の「薄くて軽い」「曲がる」「景観に配慮しやすい」といった特性が、空港施設という大規模で多様な構造物を持つ場所でどれだけ有効に機能するかを検証するものです。具体的には、滑走路周辺の建物や、これまで発電設備の設置が想定されなかった場所への設置が考えられます。

本実証を通じて、積水化学グループは、以下のような点を検証・評価すると考えられます。

  • 発電性能の評価: 実際の空港環境下での発電量、変換効率、耐久性。
  • 環境適合性の確認: 航空機運航への影響(電波干渉など)、鳥類への影響、風圧への耐性。
  • 設置・施工性の検証: フィルム型ならではの簡易な設置方法、工期短縮の可能性。
  • メンテナンス性の評価: 長期間運用における維持管理の容易さ。

この実証は、空港という特殊施設での活用可能性を探るだけでなく、将来的には高速道路の遮音壁、ビルの壁面、工場や倉庫の屋根、さらには電気自動車のルーフなど、これまで太陽電池の設置が困難だったあらゆる場所への展開に向けた重要なデータと知見を提供することになります。

ペロブスカイト太陽電池のメリット、デメリット

ペロブスカイト太陽電池は、次世代型太陽電池として大きな期待が寄せられていますが、そのメリットとデメリットを理解することが重要です。

【メリット】

  • 薄型・軽量・柔軟性: フィルム化が容易で、非常に薄く、軽いため、曲面や耐荷重に制約のある場所(建物の壁面、テント、衣服、ドローンなど)にも設置可能です。
  • 高い変換効率: シリコン太陽電池に匹敵、あるいはそれを超える高い変換効率が期待されており、少量の日光でも高い発電量を実現できます。
  • 低コストでの製造可能性: 製造プロセスが比較的シンプルで、塗布や印刷技術を用いることができるため、将来的には大幅な製造コスト削減が見込まれます。
  • 多様な光への対応力: 弱い光(曇りの日や室内光)でも発電効率が高く、多様な環境下での発電に適しています。
  • デザイン性: 色や透明度を調整できる可能性があり、建物のデザイン性を損なわずに設置できる可能性があります。

【デメリット】

  • 耐久性・安定性: 水分や酸素に弱く、熱や紫外線による劣化が課題とされており、長期間の安定稼働に向けた耐久性向上が不可欠です。
  • 鉛の使用: 一般的なペロブスカイト材料に毒性のある鉛が使用されているため、環境への影響やリサイクルに関する懸念があります。代替材料の開発も進められています。
  • 実用化・量産化の課題: 大規模な量産技術や、製品としての信頼性・品質管理の確立がまだ途上段階にあります。

現状と課題について

ペロブスカイト太陽電池は実用化に向けて大きく前進していますが、大規模な普及にはまだいくつかの課題を克服する必要があります。

【現状】

  • 政府の推進: 経済産業省は「ペロブスカイト太陽電池に関する今後の取組方針」を策定し、2030年までの製造コスト半減、導入量拡大などを目標に掲げ、研究開発支援や実証事業を加速させています。
  • 企業連携の活発化: 積水化学グループのような大手企業が開発・実証を牽引し、様々な業界との連携が模索されています。
  • 国際競争: 世界各国でもペロブスカイト太陽電池の開発競争が激化しており、技術的優位性の確保が重要です。

【課題】

  • 耐久性の向上: 屋外での20〜30年といった長期使用に耐えうる耐久性の確保が最大の課題です。封止技術や材料改良が不可欠です。
  • 鉛フリー化: 環境負荷低減と安全性の観点から、鉛を使用しないペロブスカイト材料の開発とその性能向上が求められています。
  • 量産化技術の確立とコストダウン: 低コストでの大規模量産を実現するための製造プロセスの確立と、生産規模拡大によるコスト削減が不可欠です。
  • リサイクル体制の構築: 将来的な大量普及を見据え、効率的かつ環境負荷の少ないリサイクルシステムの構築が不可欠です。
  • 社会受容性の向上: 新しい技術であるため、その安全性や信頼性について、一般社会の理解と受容を高めるための情報提供と啓発が必要です。
  • 法規制・ガイドラインの整備: 薄型・軽量という特性から、従来の建築基準や電気設備に関する法規制との整合性、新たな設置形態に対応したガイドラインの整備が求められます。

神戸空港でのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験は、日本のエネルギー転換と脱炭素社会の実現に向けた、非常に大きな社会的意義を持つ取り組みです。この実証は、従来の太陽電池では設置が困難だった場所、特に「貼る」という新たな設置スタイルを確立する上で重要な一歩となります。

薄くて軽い、そして柔軟性を持つペロブスカイト太陽電池は、都市のビル壁面、工場や倉庫の屋根、交通インフラなど、あらゆる場所に再生可能エネルギーを実装する可能性を秘めています。これは、太陽電池の「設置場所の制約」という長年の課題を解決し、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルを飛躍的に拡大させることが期待されます。

今回の空港での実証を通じて得られるデータと知見は、ペロブスカイト太陽電池の耐久性、安定性、そして安全性に関する技術的課題を克服し、量産化と普及を加速させるための重要な礎となるでしょう。環境負荷の少ないエネルギーシステムへの移行、そして持続可能な社会の構築に向けて、神戸空港から始まるこの挑戦に、私たちは大きな期待を寄せたいと思います。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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