エコリクコラム

2025.6.6
トピック
急増するスタートアップと、高まる若者の起業熱
現代の日本ビジネスシーンにおいて、かつてないほどの活況を呈しているのが「スタートアップ企業」です。労働者の仕事に対する「やりがい」を高めるとともに、日本のビジネス界隈に大きな変化をもたらしているこの風潮は、私たち自身の働き方やキャリア観にも大きな影響を与えています。
そして昨今ではもうひとつ、興味深い変化がみられるようになっています。それが、若者の起業願望の高まりです。
ひと昔前の傾向では、10代〜20代の若者が起業しようものなら、「出る杭は打たれる」がごとく、ベテラン経営者などからは奇異の目を向けられ、経営に対する妨害行為を受けるなどというケースもみられたようです。しかし現在では、ビジネス界全体で若者の起業を歓迎するムードが高まりつつあり、投資家や国や自治体が熱心にサポートする体制まで整っています。
そうした背景の下で、新卒入社した会社を早期に退職して起業を目指す若者や、企業や団体に所属することなく、学生時代からまたは卒業後すぐに起業する若者も以前に比べると多く現れるようになりました。
では、なぜ起業したいと考える若者が増加していると考えられるのでしょうか。
起業におけるハードルの変化
昔と比較して、起業を取り巻く環境は大きく変化しました。かつては、事業を始めるには莫大な資金、広範な人脈、そして事業計画の作成や法律に関する深い知識が必須とされていました。しかし、IT技術の進歩は、これらのハードルを劇的に下げました。
- 資金調達の多様化: クラウドファンディングやベンチャーキャピタルからの出資、エンジェル投資家からの支援など、従来の金融機関からの融資に加えて多様な資金調達手段が普及しました。特にシード期のスタートアップに対しては、少額からでも出資を受けられる機会が増えています。
- オンラインツールの普及: オフィスを持たずとも、オンライン会議ツールやプロジェクト管理ツールを活用すれば、自宅やカフェからでも事業を運営できるようになりました。また、ウェブサイトやECサイトの構築も、専門知識がなくとも手軽にできるサービスが増え、初期投資を抑えることが可能です。
- 情報へのアクセス容易性: インターネットを通じて、ビジネスモデルの構築方法、マーケティング戦略、資金調達のノウハウなど、起業に関するあらゆる情報を手軽に入手できるようになりました。成功事例や失敗事例から学ぶ機会も増え、より現実的な事業計画を立てやすくなっています。
終身雇用の崩壊とキャリアの多様化
かつて日本企業の多くで一般的だった「終身雇用制度」は、もはや絶対的なものではなくなっています。企業寿命の短命化やグローバル競争の激化により、一つの会社に定年まで勤め上げることが、必ずしも安定したキャリアパスとは言えなくなりました。
こうした状況は、若者にとって「自分のキャリアは自分で築く」という意識を芽生えさせています。企業に依存するのではなく、自身のスキルやアイデアで社会に価値を提供し、自身の力で稼ぐという選択肢が現実味を帯びてきたのです。
また、副業やパラレルキャリアといった働き方も浸透し、起業もキャリアパスの一つとして、より自然に受け入れられるようになってきました。会社員として働きながら、起業に向けた準備を進めることも可能になり、リスクを抑えながら挑戦できる環境が整いつつあります。
サポート体制の充実
若者の起業を後押しする動きは、国や自治体、民間団体など、様々な方面から活発化しています。
福岡市は、かねてより「スタートアップ都市」としてのブランドを確立しており、起業家支援に非常に力を入れている自治体の一つです。
- スタートアップカフェの設置: 起業を目指す人が気軽に相談できる窓口として、専門家によるアドバイスや情報提供を行っています。
- 各種補助金・助成金制度: 事業の立ち上げや成長を支援するための補助金や助成金が用意されています。
- 規制緩和や特区制度: 国家戦略特区を活用し、起業家が新しいビジネスに挑戦しやすい環境を整備しています。
- 海外からの誘致: 海外のスタートアップ企業を積極的に誘致し、グローバルな視点でのビジネス展開を支援しています。
このような取り組みは、福岡市を全国有数の「起業しやすい都市」として位置づけ、多くの若者や挑戦者を引きつけています。
「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」:新たな国家戦略
2025年2月、政府は「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」という新たな国家戦略を掲げ、スタートアップ育成に向けた具体的な施策を打ち出しました。これは、単なる経済成長だけでなく、スタートアップが持つ革新的な技術やアイデアで、少子高齢化、環境問題、地域活性化といった日本が抱える喫緊の社会課題を解決しようという強い意志の表れです。
この戦略の主な内容は以下の通りです。
- 資金供給の強化: スタートアップへの投資を大幅に拡大するため、政府系ファンドや民間ファンドからの資金供給を促進します。具体的には、既存のベンチャーキャピタルだけでなく、大学発スタートアップへの投資を強化する仕組みや、ディープテック分野(科学技術を基盤とした革新的な技術)への支援も強化されます。
- 人材育成と確保: 起業家精神を持つ人材の育成を強化するため、大学におけるアントレプレナーシップ教育の拡充や、スタートアップ企業でのインターンシップ機会の増加が図られます。また、海外からの優秀な人材の誘致や、兼業・副業を通じた多様な働き方を支援することで、スタートアップを支える人材層を厚くします。
- オープンイノベーションの推進: 大企業とスタートアップの連携を促進し、大企業が持つリソースや顧客基盤と、スタートアップが持つ革新的な技術やアイデアを掛け合わせることで、新たな価値創造を目指します。共同研究開発やM&A(合併・買収)の促進、アクセラレータープログラムの強化などが含まれます。
- 事業環境の整備: スタートアップが成長しやすいように、規制緩和や税制優遇、知財戦略の支援など、法制度やインフラの整備を進めます。例えば、ストックオプション制度の活用を促進し、優秀な人材がスタートアップに集まりやすい環境を整えます。
- グローバル展開の支援: 日本のスタートアップが世界で活躍できるよう、海外展開支援プログラムの強化や、国際的なネットワーク構築のサポートを行います。
この戦略は、政府がスタートアップを日本の成長エンジンとして位置づけ、本腰を入れて育成に取り組む姿勢を示しています。特に、「社会課題解決」を前面に押し出している点は、これからのスタートアップの方向性を示す重要なメッセージと言えるでしょう。
現状と課題について
スタートアップを取り巻く環境はポジティブな変化を見せている一方で、まだ課題も存在します。
- 「死の谷」の克服: シード期からアーリー期にかけて、資金が枯渇し事業が立ち行かなくなる「死の谷」と呼ばれる時期を乗り越えるための支援が引き続き重要です。政府の資金供給強化はその一助となりますが、より多様な投資家の参入が必要です。
- 人材の流動性: 大企業からスタートアップへの人材の流動性は高まりつつあるものの、まだ十分ではありません。特に、優秀なエンジニアやビジネス開発人材の確保は、スタートアップにとって常に大きな課題です。
- グローバル市場での競争力: 日本のスタートアップが国内市場だけでなく、世界市場で戦っていくためには、海外のスタートアップに負けない競争力をつける必要があります。英語での情報発信や、国際的なネットワーク構築がより一層求められます。
- Exit戦略の多様化: IPO(株式公開)だけでなく、M&AによるExitもスタートアップの成長戦略として重要ですが、日本においてはまだExitの選択肢が限られているという課題もあります。
これらの課題を克服し、持続可能なスタートアップエコシステムを構築していくことが、今後の日本の成長にとって不可欠です。
テクノロジーの進化、終身雇用の変化、そして国や自治体の手厚いサポート体制。これらが複合的に作用し、日本のスタートアップ業界は今、大きな変革期を迎えています。
特に若者にとって、自身のアイデアを形にし、社会に新たな価値を生み出す「起業」は、これからのキャリアパスとして、より身近で魅力的な選択肢となりつつあります。もちろん、起業にはリスクが伴い、決して簡単な道のりではありません。しかし、その挑戦が、個人の成長だけでなく、日本の社会課題解決と経済成長に貢献する可能性を秘めていることは間違いありません。
もしあなたが、新たな挑戦に胸を躍らせる一人であるならば、この変革の波に乗って、自身の可能性を最大限に引き出す選択をするのはどうでしょうか?
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