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ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術とは?|グリーンジョブのエコリク コラム

2025.5.7

トピック

ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術とは?

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、都市ガスをはじめとするガス燃料の脱炭素化が急務となっています。その解決策として注目されているのが、CO2と水素からメタンを合成する「メタネーション」技術です。

私たちが調理したりお風呂を沸かしたりするときに使うガスには、都市ガスとLPガスの2種類があります。そのうち、ガス管を通じて供給される都市ガスの普及率は東京や大阪で高く、80%を超えていて全国では46%(※1)です。

都市ガスの原料は、メタンを主成分とした天然ガスとLNG(液化天然ガス)が多くを占めていて、天然ガスに含まれるメタンは、メタネーションという技術により人工的に合成でき、近年注目を集めています。

メタネーションとは

メタネーションとは、CO2と水素を反応させてメタン(CH4)を合成する技術です。生成されたメタンは、既存の都市ガスインフラを利用して輸送・利用できるため、脱炭素化の有力な選択肢として期待されています。

図1 メタネーションによるCO2排出削減効果
出所)資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する『メタネーション』技術」(※2

ガスの脱炭素化はなぜ必要?

都市ガスは、日本のエネルギー供給において重要な役割を果たしていますが、燃焼時にCO2を排出するため、脱炭素化が求められています。メタネーションによって合成されたメタンは、CO2を回収・利用することで、ライフサイクル全体のCO2排出量を削減できます。

メタネーションの仕組み

メタネーションは、一般的に以下のプロセスで進行します。

  1. 水素の製造: 再生可能エネルギー由来の電力などを用いて、水を電気分解し水素を製造します。
  2. CO2の回収: 工場や発電所などから排出されるCO2を回収します。
  3. メタネーション反応: 回収したCO2と水素を触媒を用いて反応させ、メタンと水を生成します。
  4. 精製: 生成されたメタンを精製し、都市ガスとして利用可能な品質にします。

メタネーションが注目される理由

メタネーション技術は、CO2削減とエネルギー供給の安定化に貢献する技術として、世界中で研究開発が進められています。特に以下の技術が注目されています。

1)「ハイブリッドサバティエ技術」(設備の低コスト化、排熱の有効活用を実現)

ハイブリッドサバティエ技術は、水電解とサバティエ反応を一体化したシステムで、高効率なメタネーションを実現します。この技術では、水電解セルと低温対応のサバティエ反応器を接合させ、サバティエ反応で発生する熱を水電解に利用します。通常のサバティエ反応は約300〜400℃で起こるため、発生する熱の再利用が難しいという課題がありましたが、触媒の改良により200℃以下で反応が進むようになり、熱を水電解に還元できるようになりました。

これにより、水電解の外部電力の使用を抑え、エネルギー効率を理論上80%まで高めることが可能になっています。また、これらのプロセスを一体化することで配管や貯蔵設備の簡略化が可能になり、コスト削減にもつながります。この技術は、もともと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が有人宇宙ミッション向けの空気再生技術として研究してきたものを応用しています。

図2 ハイブリッドサバティエ技術
出所)東京ガス株式会社総合企画部エネルギー・技術G「ガスの脱炭素化に向けた東京ガスのe-methaneの取り組み」(※3

2)「PEMCO₂還元技術」(水とCO2から直接メタンを製造)

EMCO₂還元技術は、固体高分子膜(PEM)を利用し、水とCO₂を直接反応させてメタンを生成する技術です。従来のサバティエ反応を必要とせず、単一の装置でメタンを合成できるため、設備の簡素化とコスト低減が実現します。反応温度も100℃以下で運用可能なため、大型化に伴う熱管理の問題も発生しません。しかし、この技術では運転条件や触媒の性能によって副生成物が生じる可能性があるため、メタンを優先的に生成する選択性の高い触媒の開発が求められています。

図3 PEMCO2 還元技術
出所)東京ガス株式会社総合企画部エネルギー・技術G「ガスの脱炭素化に向けた東京ガスのe-methaneの取り組み」(※3

3)「バイオリアクター技術」(メタン菌の代謝によりメタンを発生)

微生物、特にメタン菌の代謝を利用してCO₂からメタンを生成します。発酵食品や醸造食品の製造にも使用される技術を応用したもので、低コストで大規模化が容易という利点があります。ただし、メタン菌の代謝速度が遅いため、生産効率の向上が重要な課題となっています。

図3 PEMCO2 還元技術
出所)東京ガス株式会社トピックス「革新的メタネーション技術でエネルギー業界に変革を◆普及拡大へe-メタンのコスト削減に向けた挑戦」(※4

4)「SOEC(固体酸化物形電解セル)」(高温水蒸気電解による高効率水素製造とCO2電解)

水蒸気とCO₂を高温(700~800℃)で電気分解して水素と一酸化炭素を生成し、触媒作用でメタンを合成する手法です。高温電解に必要な熱エネルギーはメタン生成時に発生する熱を有効活用するため、エネルギー変換効率がとても高いことが特徴です。

また、外部から水素を供給する必要もないことからコスト削減の面でも優れており、メタンの製造コストの大部分を占める①電気分解における電気代②原料となる水素の調達コストという2つのポイントに作用してメタンをより安く生産できる画期的な技術として注目されています。

メタネーションのメリット

  • 既存の都市ガスインフラをそのまま利用可能
  • 再生可能エネルギーの有効活用
  • CO2の有効利用

メタネーションのデメリット・課題

  • 水素製造コストが高い
  • 反応効率の向上
  • CO2回収コスト

メタネーション技術開発の今とこれからについて

メタネーション技術の開発は、脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みとして、日本国内の様々な企業や研究機関によって進められています。以下に、具体的な企業名と取り組みを記載します。

エネルギー関連企業

  • 東京ガス:
    • 横浜市と連携し、下水処理プロセスで発生する消化ガスや再生水を原料としたe-メタン製造の実証実験を行っています。地域資源を最大限に活用したカーボンニュートラル社会の実現を目指しています。
    • 低温プロセスによる革新的なメタン製造技術開発において、全体マネジメントと実証を担当しています。
  • 大阪ガス:
    • 大阪市の舞洲工場にて、都市部の生ごみ由来バイオガスと再生可能エネルギー由来の水素を活用したメタネーション実証を進めています。
    • より効率的に合成メタンを製造するための先導的な研究を進めています。
  • 東邦ガス:
    • 愛知県知多市において、水素と下水処理施設のバイオガス精製設備から出たCO2で合成メタンを製造し、導管を通じて顧客に供給する実証を2023年度に開始予定です。
  • IHI:
    • 短納期かつ高拡張性を持つ小型メタネーション設備の販売を行っています。
    • 社会実装に向けたシステム化を担当しています。

その他企業・研究機関

  • カナデビア:
    • 独自の高性能触媒を用いたメタネーション試験装置を開発・販売しています。
    • 環境省委託事業として、神奈川県小田原市の清掃工場に国内最大級のメタネーション設備を建設し、実証運転を行いました。
  • 太平洋セメント:
    • 東京ガスと共同で、セメント製造工程から回収されるCO2を活用した合成メタンを都市ガス導管で供給するメタネーション事業のFS調査を実施しています。
  • 富士フイルム:
    • 東京ガス、南足柄市と包括連携協定を締結し、富士フイルム足柄サイトへのメタネーション導入FSを開始しました。
  • 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):
    • 日立造船とINPEX(旧国際石油開発帝石)と共同で、メタネーションの基盤技術開発を行っています。
  • 大阪市のカーボンニュートラルリサーチハブ:
    • SOECメタネーションの研究開発を実施しています。

これらの企業や研究機関は、メタネーション技術の早期実用化と社会実装を目指し、それぞれの強みを活かした研究開発や実証実験を進めています。

今後は、コスト削減、効率向上、CO2回収技術の高度化などが進み、メタネーション技術が社会実装されることが期待されています。

メタネーションは、カーボンニュートラル実現に向けた重要な技術の一つであり、今後の発展が注目されます。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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