エコリクコラム

2025.6.23
インタビュー
自らを変革し 挑戦者とともに 大切なものを未来へ|ENEOSホールディングス株式会社経営企画部CVC室
近年、日本国内でもCVCの存在が注目されていますが、それにはいくつかの理由があります。
まず、技術革新が加速している現代において、大手企業が外部のスタートアップと連携することで新たな成長機会を掴む必要性が高まっています。サステナビリティ領域も例外でなく、脱炭素・低炭素化社会の実現、循環型社会の実現に向けて、エネルギー・素材などの分野でもスタートアップが重要な役割を果たすようになり、スタートアップと早期に協力関係を築くことが競争優位を保つ鍵となっています。
また、2025年以降、経済情勢の不確実性はますます高まっており、企業が新たな事業モデルや多様な収益源を模索するケースが増えています。CVCはその有効な解決策の一つと位置付けられ、CVCが戦略的にスタートアップと接点を持つことで、企業全体の長期的な成長に貢献しています。
今回、ENEOSホールディングスにてCVCを運営されている、ENEOSホールディングス株式会社(以下、ENEOS)経営企画部CVC室の堀尾 聡裕様にインタビューを行いました。
ENEOSにおけるCVCの活動経緯を教えてください
【ENEOSが描く未来:CVC活動の背景とビジョン】
ENEOSグループはエネルギー・素材業界のリーディングカンパニーとして、それらを社会に安定供給し続けるという社会的責任を果たしながら、2050年のカーボンニュートラル社会の実現を目指し、エネルギー・素材両分野のトランジションや、資源を無駄なく循環させるサーキュラー・エコノミーといった事業変革に取り組んでいます。
このような変革を実現するためには、私どもの既存の知見に留まらない、テクノロジーや隣接領域へのチャレンジが必要です。直近では生成AIが象徴的だと思いますが、世界中で起きている破壊的なテクノロジーやビジネスモデルの急激な台頭に対して、自助努力だけでは対応できないため、外部の力を活用するオープンイノベーションの重要性が高まっています。
こうした時代背景のもと、2019年に発表した「ENEOSグループ長期ビジョン」に基づき、2019年4月よりCVC活動をスタートしています。「自らを変革し 挑戦者とともに 大切なものを未来へ」をキーメッセージとして、「まちづくり」「モビリティ」「低炭素社会」「循環型社会」「データサイエンス&先端技術」の5つの領域でスタートアップへの投資と協業を進めてきました。
2025年4月時点で、出資金額は約180億円、出資企業は54社となっています。
Microsoft PowerPoint – 2020年5月2次中計公表_長期ビジョン(一部改訂) (eneos.co.jp)
注力されている領域とその領域を選ばれた背景を教えてください
【ENEOSの構想:自らを変革し挑戦者とともに大切なものを未来へ】

2050年の社会はどうなっているかを構想し、イラストにしたものを当社HPに掲載しています。
このような未来予想を元に、バックキャストを行って、私どもの事業ドメインにおいてどのような地殻変動が起きるのかを考えた結果、浮かび上がったのが「低炭素社会」「循環型社会」「まちづくり」「モビリティ」「データサイエンス&先端技術」といったテーマでした。
ただしこの未来予想図はあくまで2019年当時のものであり、そこから国際情勢や通商政策など劇的な変化が起きていることは言うまでもありません。未来予想もダイナミックに変わり続けるものとして、未来に挑戦し続けるスタートアップの皆さまとともに構想し続けることが大切だと考えています。
出資される際の基準をお話しできる範囲で教えてください
【共創を重視:ENEOSのCVCがスタートアップ企業を選ぶ基準】
そもそもの大前提ですが、私どもCVCがスタートアップを選ぶというよりも、スタートアップの皆さまから選んでいただく立場にあると考えています。
私どもが大事にしている「自らを変革し 挑戦者とともに 大切なものを未来へ」というメッセージにも込められていますが、未知なる世界に挑戦するスタートアップの皆さまの存在があってこそ、投資家である私どもCVCが存在できるからです。
だからこそ、スタートアップの皆さまに選んでいただけるように私ども自身も努力することが必要です。例えば、スタートアップと私どもとでは、普段向き合っているビジネスの性質の違いもあり、コトを進める場合のスピード感が異なります。投資検討はもちろん、両者が一緒に何かしようとするときに私どものペースでスタートアップの皆さんの足を引っ張ることがあってはいけませんから、追いつくために日々努力しています。投資検討プロセスや組織体制も、スタートアップ投資に最適なものとなるように、試行錯誤を繰り返しています。
その上で、私どもと連携が起きやすい形についてですが、ENEOSグループが強みを持つ事業ドメインや保有するアセットをうまく活用いただけるスタートアップと話が前に進んでいくことが多いですね。わかりやすいところで申し上げますと、製油所やガソリンスタンドを活用するアイデアなどですが、これらに限らず、スタートアップの皆さまのご提案から、私どもが自分自身では気づけていない強みやポテンシャルについて気付きを頂けることもあります。
今後の展望について教えてください
【共創を重視:スタートアップに選ばれるENEOSのCVCの基準】
「大切なものを未来へ」を実現するためには、これまでの生活水準を維持しながら、温室効果ガスの排出削減や資源循環といった、サステナビリティを向上させる取り組みが必要です。環境視点だけでなく、人口減少も喫緊の課題で、エッセンシャルな社会インフラを支え続けるため、AIやロボットの活用やデジタル化の推進といった、働く人を支援する取り組みの重要性も高まっています。
このような問題意識のもと、私どもは事業シナジーを追求して投資を行っています。そのため、財務的なリターンも必要ですが、よりよい未来を一緒に創ることができるか、より深いところではENEOSグループの存在意義や理念に合致しているか、といった複合的な判断を行っています。この点が、ベンチャーキャピタルの投資判断との大きな違いであるとともに、CVCにおいてスタートアップ投資に携わる醍醐味だと考えています。
私どもENEOSのCVCもまだまだ発展途上ではありますが、ENEOSグループの力を“梃子”にして、大いなる社会変革を仕掛けていくことを目指す、野心的なスタートアップの皆さまとの出会いを楽しみにしています。
ENEOSのCVCの挑戦は、日本そして世界のサステナビリティを牽引する新たな力を生み出すでしょう。今後のさらなる飛躍に期待が高まります。