「対日直接投資促進プログラム2025(案)」が示す新たな成長戦略〜30年代前半150兆円目標へ、GX・DX・ライフサイエンスで世界からの投資を呼び込め〜 | グリーンジョブのエコリク

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「対日直接投資促進プログラム2025(案)」が示す新たな成長戦略〜30年代前半150兆円目標へ、GX・DX・ライフサイエンスで世界からの投資を呼び込め〜|グリーンジョブのエコリク

2025.6.25

トピック

「対日直接投資促進プログラム2025(案)」が示す新たな成長戦略〜30年代前半150兆円目標へ、GX・DX・ライフサイエンスで世界からの投資を呼び込め〜

日本の経済成長と国際競争力強化の鍵を握る「対日直接投資」が、政府の新たな戦略によって飛躍的に加速しようとしています。2025年6月、日本政府は外国資本の呼び込みを強化する新方針「対日直接投資促進プログラム2025(案)」を決定しました。このプログラムでは、2030年に投資残高を120兆円、さらに2030年代前半に150兆円とする目標を掲げ、従来の100兆円目標を大幅に上方修正。日本の経済構造改革と持続的成長に向けた、政府の強い決意が示されています。

本プログラムは、海外企業・外交団・自治体・金融機関等へのヒアリングと、政府内のタスクフォースでの議論を基に策定され、5本柱・32施策から構成される包括的な内容となっています。重点分野としてGX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ライフサイエンスへの投資支援、地方自治体との共同誘致、産業用地整備などが挙げられています。

また、JETRO(日本貿易振興機構)の誘致体制強化、スタートアップとの連携、外国人材の確保、在留資格や会計制度の見直し、生活環境整備(医療・教育・住宅・法制度の多言語化)も含まれ、外国企業が安心して日本に進出・定着できる包括的な環境づくりが目指されます。

今後は在外公館やJETROを通じて積極的に海外発信を行い、外国政府・企業・投資家との対話を深めるとともに、制度の継続的見直しによって実効性を高めていくとしています。この新プログラムは、日本経済の新たな活力を生み出す起爆剤となることが期待されます。

対日直接投資促進プログラム2025(案)について

今回の「対日直接投資促進プログラム2025(案)」は、日本の経済成長戦略において、対日直接投資を戦略的に活用しようとする政府の明確な意思表示です。

【策定の背景】

  • 「新しい資本主義」の実現: 岸田政権が掲げていた「新しい資本主義」の成長戦略の柱の一つとして、グローバルな資金を呼び込み、イノベーションと成長を加速させることが不可欠とされています。
  • 世界的な投資競争の激化: グローバルな直接投資の誘致競争が激化する中で、日本が国際的なプレゼンスを維持・向上させるためには、より積極的かつ戦略的な投資誘致策が求められていました。
  • 国内経済の課題: 少子高齢化による労働人口減少、生産性の伸び悩みといった構造的な課題を解決し、日本経済に新たな活力をもたらす上で、海外からの直接投資は技術移転、雇用創出、新産業育成の重要な源泉となります。
  • これまでの成果と課題: これまでにも対日直接投資促進の取り組みは行われてきましたが、世界最高水準の事業環境を整えるためには、さらなる抜本的な改革が必要であるという認識がありました。特に、コロナ禍を経てサプライチェーンの強靭化が求められる中で、日本国内への投資誘致の重要性が再認識されています。

【プログラムの柱と詳細施策】

本プログラムは、主に以下の5つの柱と、それを具体化する32の施策で構成されています。

  1. 有望分野への誘致の強化:
    • GX(グリーントランスフォーメーション)関連: 脱炭素技術(再生可能エネルギー、水素、CCUSなど)や、サプライチェーン強靭化のためのクリーンエネルギー関連設備への投資を呼び込みます。日本のGX推進戦略と連動し、戦略分野への集中的な支援が行われます。
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)関連: AI、量子技術、半導体、データセンター、サイバーセキュリティなど、デジタル技術を牽引する分野への投資を促進します。日本のデジタル化推進と連携し、研究開発拠点の誘致も目指します。
    • ライフサイエンス関連: 医薬品、医療機器、再生医療、ヘルスケア分野における研究開発・製造拠点、データ活用ビジネスへの投資を誘致し、日本のヘルスケア産業の国際競争力強化を図ります。
    • スタートアップとの連携強化: 海外投資家や海外企業と日本のスタートアップとの連携を促進し、オープンイノベーションを加速させます。ピッチイベントの開催や、M&A・出資支援なども強化されます。
  2. 拠点形成・立地支援の強化:
    • 戦略的産業用地の整備・確保: 外資系企業が大規模な工場や研究開発拠点を設置できるよう、全国でまとまった産業用地の確保・整備を支援します。これには、再生可能エネルギーが利用できる地域との連携も含まれます。
    • 地方への誘致強化: 人口減少に直面する地方の活性化を目指し、地方自治体と連携した共同誘致活動を強化します。地域の特性に応じた優遇措置や情報提供を拡充します。
    • 賃貸オフィス・R&D施設の確保支援: 特に大都市圏において、外資系企業がオフィスや研究開発施設を確保しやすくするための情報提供やマッチング支援を行います。
  3. 人材・生活環境の魅力向上:
    • 外国人材の確保・育成: 高度外国人材の受け入れを一層促進するため、在留資格制度の見直しや、日本語教育支援、専門スキルの育成プログラムを拡充します。
    • 生活環境整備の加速: 外国人が日本で安心して生活できるよう、医療、教育、住宅、法制度などの多言語対応を強化します。国際学校の誘致・設置支援、外国人向け住宅情報の提供、弁護士・会計士による英語対応支援などが含まれます。
    • 会計・税務制度の改善: 国際的な会計基準との整合性を高め、税務手続きの簡素化を図ることで、外国企業が日本で事業運営しやすい環境を整備します。
  4. 誘致体制の強化と海外への発信:
    • JETROの機能強化: JETROを対日直接投資誘致の「顔」として位置づけ、専門人材の増強、海外拠点における情報収集・発信機能の強化、企業へのきめ細やかなサポート体制を構築します。
    • 在外公館との連携強化: 海外の日本大使館・領事館が、各国の有力企業や投資家に対して日本の魅力を積極的に発信する「セールスマン」としての役割を強化します。
    • 政府高官によるトップセールス: 総理大臣や関係閣僚が、海外訪問時に直接投資誘致のトップセールスを展開し、日本の魅力を強力にアピールします。
    • 対話の深化: 外国政府、企業、投資家との定期的な対話の場を設け、日本の投資環境に関する意見や要望を直接聞き取り、政策に反映させる仕組みを強化します。
  5. 制度の継続的見直し:
    • PDCAサイクル: プログラムの実施状況を定期的に評価し、必要に応じて施策の見直しや追加を行うPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを確立します。
    • 国内外の動向への迅速な対応: 世界経済や投資環境の変化、新たな技術動向などを常に把握し、迅速に施策を調整できる柔軟な体制を整えます。

現状と課題について

「対日直接投資促進プログラム2025(案)」は野心的な目標を掲げている一方で、その実現には乗り越えるべき課題も存在します。

【現状】

  • 投資残高の伸び悩み: これまでの対日直接投資残高は増加傾向にあるものの、GDP比では他の先進国に比べて低い水準にとどまっています。
  • 国際的な競争激化: 米国、欧州、アジア各国も積極的に外資誘致策を強化しており、日本が選ばれるためには、一層の魅力向上と差別化が必要です。
  • 潜在的な障壁: 日本の市場の閉鎖性、商慣行の特殊性、日本語の壁、複雑な法制度などが、依然として外国企業にとっての参入障壁となっている場合があります。
  • 人材確保の難しさ: 日本の労働市場の硬直性や、高度外国人材の確保競争激化も、投資誘致の足かせとなる可能性があります。
  • 情報発信の不足: 日本の魅力や投資環境に関する情報が海外に十分に伝わっていないという課題があります。

【課題】

  • 目標達成への実効性: 2030年代前半150兆円という高い目標を達成するためには、プログラムに掲げられた32施策を確実に実行し、かつその効果を最大化する仕組みが必要です。形式的な実施ではなく、具体的な成果に結びつけるためのPDCAサイクルが鍵となります。
  • 地方誘致の具体化: 地方への投資誘致は重要ですが、地域ごとの特性やニーズに合わせたきめ細やかな支援と、誘致後の定着支援が不可欠です。地方自治体と中央政府、JETROの連携をいかに強化するかが課題です。
  • 規制改革の加速: 在留資格や会計制度の見直しだけでなく、ビジネスを阻害する他の規制についても、国際基準に照らして柔軟かつ迅速な改革を進める必要があります。
  • 人的インフラの整備: 外国人材が日本で活躍できるような生活環境整備は喫緊の課題であり、医療、教育、住宅、多言語対応など、具体的な改善を加速させる必要があります。単なる制度変更だけでなく、社会全体の意識変革も重要です。
  • 日本企業の意識改革: 日本企業も、海外企業とのM&Aや提携を積極的に模索し、オープンイノベーションを加速させる意識を持つことが、対日直接投資を呼び込む上で重要です。
  • 安定したエネルギー供給: GX投資を呼び込む上で、再生可能エネルギーの安定供給や、GX技術開発・実証の場としての日本の魅力向上も不可欠です。

「対日直接投資促進プログラム2025(案)」は、日本が直面する構造的課題を打破し、新たな成長軌道に乗せるための重要な戦略です。GX、DX、ライフサイエンスといった成長分野に的を絞り、政府が一丸となって海外からの投資を呼び込む姿勢は高く評価できます。

目標達成に向けては、制度改革の着実な実行はもちろんのこと、日本全体の「おもてなし」の精神をビジネス環境にも反映させ、外国企業や人材が「日本を選んでよかった」と心から思えるような、真に魅力的で包括的なエコシステムを構築していくことが重要です。

このプログラムが、単なる目標数字の達成に終わらず、日本経済に新たな活力を吹き込み、グローバル社会における日本の存在感を一層高める起爆剤となることを期待します。官民一体となった努力が、日本の未来を切り拓く鍵となるでしょう。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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