エコリクコラム

2025.6.11
トピック
RE100、技術要件を厳格化:石炭混焼を禁止、証書確認も徹底へ
〜日本のエネルギー戦略と企業に迫る転換点〜
世界各国の有力企業400社以上が加盟する国際イニシアティブ「RE100」が、自然エネルギーの電力の調達基準を規定する技術要件(Technical Criteria)を約2年ぶりに改定しました。今回の変更点は以下の3つです。
- 石炭混焼による電力の使用禁止
- 証書の償却確認の徹底
- コーポレートPPA(電力購入契約)における15年ルールの緩和
これら3つの改定ポイントのうち、特に注目される石炭混焼の禁止と証書の償却確認については、加盟企業が2026年1月以降に使用する電力(2027年のCDPの調査に対する開示対象)から適用されます。
日本ではRE100に加盟していない企業でも、望ましい自然エネルギーの電力の調達基準として、RE100の技術要件を参考にするケースが多く見られます。前回(2022年10月)の改定では、追加性(新しい自然エネルギーの発電設備を追加することによるCO2=二酸化炭素=の削減効果)の観点から、運転開始後15年以内の発電設備の電力・証書を使用するように加盟企業に求められました。
この15年ルールは日本でも多くの企業や自治体が自然エネルギーの電力・証書の調達基準として重視するようになりました。今回の改定項目についても、電力を供給する発電事業者や小売電気事業者は適切な対応を求められることになります。
日本への影響は?
今回のRE100技術要件改定は、特に石炭火力発電におけるアンモニア混焼を脱炭素化の重要な選択肢とする日本のエネルギー政策に大きな影響を与えます。RE100の基準は、日本企業が再生可能エネルギーを調達する際の参考とすることが多いため、加盟企業だけでなく、非加盟企業もその動向を注視する必要があるでしょう。
特に、証書の償却確認の徹底に関しては、日本において非検証の証書使用・償却の割合が34%と高いことが指摘されており、この点の改善が急務となります。また、コーポレートPPAの15年ルールにおける例外適用について、日本では新規発電設備の試運転期間の法的義務がないため、例外を適用できないという課題も浮上しています。
エネルギーとアンモニアの関係とは?
アンモニアは、水素と同様に燃焼時にCO2を排出しない特性を持つため、脱炭素燃料として世界各国で注目され、エネルギー分野での活用に向けた取り組みが進められています。日本でも、温室効果ガス排出量削減目標達成に向け、火力発電でのCO2排出量削減手段として、燃料アンモニアの導入・拡大が積極的に推進されています。日本政府は、2020年に策定した「水素基本戦略」において、2030年までに電力構成の約1%を水素・アンモニアで賄う目標を掲げています。
アンモニアのメリット、デメリット
メリット:
- CO2排出量削減: 燃焼時にCO2を排出しないため、地球温暖化対策に有効な次世代燃料とされています。
- 既存設備への適用: 石炭火力発電所などの既存設備を大幅に改修することなく混焼が可能であり、比較的低コストかつ短期間でのCO2排出量削減に貢献できます。
- 安定供給と貯蔵性: 液化が容易で、液化水素よりも貯蔵や輸送がしやすいという特性があり、燃料の安定供給に寄与します。
デメリット:
- 製造過程のCO2排出: 現在、アンモニア製造の主流は天然ガスなどの化石燃料を原料とするハーバー・ボッシュ法であり、その製造過程で多量のCO2を排出します(グレーアンモニア)。真にクリーンな燃料とするためには、再生可能エネルギー由来の「グリーンアンモニア」の製造技術確立と普及が不可欠です。
- 窒素酸化物(NOx)の発生: 燃焼時に窒素酸化物(NOx)が発生する可能性があり、その抑制技術の確立と対策が必要です。
- 毒性・貯蔵インフラ: アンモニア自体に毒性があるため、取り扱いには注意が必要であり、安全な貯蔵・輸送インフラの整備が求められます。
アンモニアを石炭火力発電所で使う理由とは
石炭火力発電所は、CO2排出量が多いという課題を抱えながらも、日本の電力供給の基盤の一部を担っています。アンモニア混焼は、これらの既存設備を大幅に改修することなく活用しつつ、CO2排出量を削減できる現実的な選択肢として位置づけられています。発電設備をゼロから再生可能エネルギー発電に転換するには多大なコストと時間が必要ですが、アンモニア混焼は、比較的低いコストで段階的にCO2排出量を削減し、カーボンニュートラルへの移行を促進するための「つなぎ」の技術として期待されています。実際に、日本の大手電力会社であるJERAは、石炭火力発電所での20%アンモニア混焼の実証を進めています。
どういう問題があるのか
RE100が石炭混焼による電力の使用を禁止したのは、それが「100%再生可能エネルギー」の調達とはみなされないためです。RE100は、企業が事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標としており、その根底には「追加性」という原則があります。これは、新しい再生可能エネルギー発電設備の導入を促し、実際にCO2排出量削減に貢献することを重視する考え方です。
アンモニア混焼は、たとえCO2排出量が削減されても、依然として石炭という化石燃料に依存している状態です。このため、RE100が求める真の再生可能エネルギーへの転換とは異なるアプローチと見なされます。つまり、既存の化石燃料インフラを温存しつつ部分的な脱炭素化を図る戦略は、RE100が目指す「新しい再生可能エネルギー源の追加」による社会全体の脱炭素化には繋がらないと判断されたと考えられます。RE100は、企業が「再生可能エネルギー100%」を謳う上で、石炭火力発電の継続的な利用を許容しないという強いメッセージを発したと言えます。
現状と課題について
今回のRE100の技術要件改定は、日本が推進するアンモニア混焼技術の国際的な位置づけに大きな影響を与え、日本のエネルギー戦略に見直しを迫る可能性があります。
現状:
- 日本政府は、アンモニア混焼を火力発電の脱炭素化の重要な手段と位置づけ、技術開発と国際標準化を推進しています。
- 多くの日本企業がRE100に加盟しており、その目標達成に向けて再エネ調達を加速させています。
- 再エネ証書の適切な償却確認や、コーポレートPPAにおける課題が指摘されています。
課題:
- エネルギー戦略の整合性: 日本政府が推し進めるアンモニア混焼と、RE100が求める「真の再生可能エネルギー」との間のギャップをどのように埋めるかが大きな課題となります。
- 企業への影響: RE100加盟企業は、2026年1月以降、石炭混焼由来の電力をRE100達成に算入できなくなるため、電力調達戦略の見直しを迫られます。これは、電力会社だけでなく、その電力を使用する企業にも影響を与えます。
- 再エネ調達の加速: 日本全体として、より純粋な再生可能エネルギーへの移行を加速するための政策やインフラ整備が求められます。
- 国際的な信頼性: 証書の不適切な償却といった問題は、日本の再生可能エネルギー市場の透明性や国際的な信頼性に影響を与える可能性があり、早急な改善が必要です。
真の脱炭素化へ向け、日本に求められる舵取り〜
RE100による技術要件の改定、特に石炭混焼の禁止は、世界の脱炭素化への動きがより厳格化していることを示しています。これは、既存の化石燃料インフラを活用しつつ脱炭素化を進めようとする日本にとって、大きな政策転換と企業戦略の見直しを促すものとなるでしょう。
今後、日本は、RE100の基準を満たし、国際社会から真に評価される再生可能エネルギーへの転換を加速させるための、更なる取り組みが求められます。グリーンアンモニアのサプライチェーン構築や、純粋な再生可能エネルギー源の拡大、そして再エネ証書の透明性確保など、多岐にわたる課題への対応が急務となるでしょう。