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企業価値向上へ スチュワードシップ・コードが拓く投資家と企業の新たな関係|グリーンジョブのエコリク コラム

2025.6.11

トピック

企業価値向上へ スチュワードシップ・コードが拓く投資家と企業の新たな関係

コーポレートガバナンス改革を、「形式」ではなく「実質」を伴うものとするためには、機関投資家による「スチュワードシップ活動」の実質化を通じて、企業と投資家との建設的な対話を促進することが極めて重要です。近年、「反ESG」や「反DEI」といった圧力が強まる中でも、投資家のスチュワードシップ(投資家の行動規範)が、改めてその真価を問われています。

スチュワードシップ・コードとは

スチュワードシップ・コードとは、企業の持続的な成長と企業価値の向上を目的とした、機関投資家の行動規範のことです。元々はイギリスで策定されたもので、機関投資家に対し、単に株を保有するだけでなく、投資先企業に対し「受託者責任」を果たすための行動を促すものです。

機関投資家は、顧客や受益者(年金加入者など)から預かった資産を運用しているため、その資産価値を中長期的に最大化する責任があります。スチュワードシップ・コードは、この責任を果たすために、投資先企業との「建設的な対話(エンゲージメント)」を通じて、企業の成長を促すよう求めています。

日本版スチュワードシップ・コードとは

日本版スチュワードシップ・コードは、イギリス発祥のコードを参考に、日本の市場環境に合わせて2014年に策定・公表されました。機関投資家(アセットマネージャー、年金基金、保険会社など)が、投資先企業の中長期的な企業価値向上や持続的成長を促すために果たすべき役割や責任を、以下の7つの原則として明文化しています。

  1. 機関投資家は、受託者責任を果たすための方針を策定・公表すべきである。
  2. 機関投資家は、利益相反管理の方針を策定・公表すべきである。
  3. 機関投資家は、投資先企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な対話を行うべきである。
  5. 機関投資家は、対話と議決権行使が密接に連携すべきである。
  6. 機関投資家は、議決権行使の方針を策定・公表すべきである。
  7. 機関投資家は、スチュワードシップ活動や議決権行使結果を定期的に報告すべきである。

これにより、機関投資家が受託者責任をより意識し、投資先企業との対話を通じて、企業の持続的成長を支援し、結果として顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を目指すことが明確にされています。

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議での議題

金融庁が開催する「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、両コードの定着状況や運用実態を検証し、課題や改善点について議論が行われます。

会議では、コーポレートガバナンス改革を「形式」だけでなく「実質」を伴うものとするため、スチュワードシップ活動の実質化に焦点が当てられます。具体的な議題としては、以下のような点が議論される傾向にあります。

  • 企業と投資家間の建設的な対話の質を高めるための具体的な方法論。
  • 対話の成果をどのように評価し、開示していくか。
  • 「稼ぐ力」や「対話の実質化」の視点から見たガバナンス改革の進捗。
  • サステナビリティに関する課題(気候変動、人権、DEIなど)への企業の取り組みと、それに対する投資家のエンゲージメントのあり方。
  • 機関投資家側の組織体制や人材育成の現状と課題。

現状と課題について:実質株主の把握と高まる圧力

スチュワードシップ・コードの浸透により、企業と投資家の対話は活発化している一方で、いくつかの課題も浮上しています。

1. 実質株主の把握-スチュワードシップ・コードによる対応には限界

日本企業にとって、機関投資家の実際の株主構成(実質株主)を把握することは容易ではありません。これは、複雑な証券決済システムや信託銀行を介した株式保有形態が背景にあります。実質株主が不明確なままだと、企業は誰と対話すべきか特定しにくく、真に建設的な対話が阻害される可能性があります。スチュワードシップ・コードは投資家の行動規範であり、直接的に実質株主の開示を強制するものではないため、この点においては限界があると言えます。

2. 協働エンゲージメントにおける対話の焦点の分散

複数の機関投資家が共同で企業と対話を行う「協働エンゲージメント」は有効な手段ですが、参加する投資家間で意見や優先順位が異なる場合、対話の焦点が分散し、効果的なエンゲージメントが難しくなることがあります。

3. 議決権行使助言会社の助言内容の形式化

議決権行使助言会社(プロクシーアドバイザリーファーム)の助言が、画一的な基準の適用にとどまり、形式的であるという意見も聞かれます。また、日本における人的・組織体制の不足も指摘されており、より実態に即した助言が求められています。

4. 「反ESG」「反DEI」圧力の強まり

近年、特に欧米を中心に「反ESG(環境・社会・ガバナンス)」「反DEI(多様性・公平性・包摂性)」といった動きが見られます。これは、ESGやDEIへの取り組みが企業の経済的リターンを損なうという主張や、政治的信条に基づいた批判などが背景にあります。このような圧力は、投資家がESGやDEIを考慮したスチュワードシップ活動を行う上での新たな課題となっており、投資家の行動規範が問われる状況となっています。

スチュワードシップ・コードは、企業価値の向上と持続的な成長を実現するために、機関投資家と企業が「建設的な対話」を行うことを促す重要な枠組みです。日本においても、その導入と普及は着実に進み、企業と投資家の関係を深化させてきました。

しかし、実質株主の把握の難しさ、協働エンゲージメントにおける課題、議決権行使助言の形式化、そして「反ESG」「反DEI」といった新たな圧力の台頭など、その実質化に向けた課題は依然として存在します。

これらの課題を乗り越え、スチュワードシップ活動が真に実質を伴うものとなることで、日本のコーポレートガバナンス改革はさらに進展し、企業と投資家の双方が、より良い社会の実現に貢献できる未来が拓かれるでしょう。投資家には、短期的な利益だけでなく、中長期的な視点と受託者責任に基づいた、揺るぎない行動が求められています。

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執筆者

神戸 修

神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー

大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒 学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事 アニュアルレポート、統合報告書の作成 東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける

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