エコリクコラム

2025.5.27
トピック
キユーピーとカゴメが共同研究!未利用野菜資源の「バイオ炭化」で持続可能な農業へ
食品大手のキユーピー株式会社とカゴメ株式会社は2025年5月1日、持続可能な農業の実現と環境負荷低減を目指し、未利用野菜資源をバイオ炭化する共同研究を開始したと発表しました。両社は、野菜生産や加工の過程で発生する未利用資源を有効活用し、農地の土壌改良効果向上と温室効果ガス排出量削減に貢献する革新的な技術開発を目指します。
今回のリリースの概要とは
本共同研究は、以下の3つのテーマを中心に進められます。
- 高水分含有野菜資源の効率的なバイオ炭化技術の確立: 効率的な脱水方法や炭化技術の開発により、水分を多く含む野菜資源を効果的にバイオ炭化する技術を確立します。
- 野菜由来バイオ炭の農業利用による効果検証: 野菜由来のバイオ炭を農地に施用することで、土壌改良効果や作物の生育促進効果を科学的に検証します。
- カーボンネガティブな事業モデルの確立: バイオ炭の製造・利用を通じて、温室効果ガスの排出量を実質的にマイナスにするカーボンネガティブな事業モデルの確立を目指します。
研究は、バイオ炭化技術の確立、バイオ炭を施用した際の栽培特性評価、バイオ炭サンプルの製造、そして実際の農地でのテスト施用というステップで進められます。
両社は、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」において、バイオ炭の農地施用が地球温暖化対策として重要視されている点、そして野菜生産・加工における未利用資源の有効活用が喫緊の課題であることを強調し、本共同研究の意義を明確に示しました。
バイオ炭とは
バイオ炭(バイオチャ―)とは、木材や竹、食品残渣、家畜糞尿などのバイオマス(生物資源)を、酸素が少ない状態で加熱(炭化)して作られる炭のことです。多孔質で炭素を多く含むため、土壌改良材としての効果や、炭素を土壌に固定することで大気中の二酸化炭素を削減する効果が期待されています。
地球温暖化対策としてのバイオ炭
バイオ炭は、製造過程でバイオマス中の炭素を安定な形で土壌に固定するため、大気中の二酸化炭素を削減する効果(カーボンネガティブ)が期待されています。また、土壌に施用することで、保水性や通気性を向上させ、微生物の活性を高めるなど、土壌の質を改善する効果も報告されています。これにより、化学肥料の使用量削減や作物の収量増加、病害虫への抵抗力向上など、持続可能な農業に貢献する可能性を秘めています。
みどりの食料システム法における位置付け
農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」は、2050年までに食料システムの持続可能性を向上させるための目標や取り組みを示したものです。この戦略において、バイオ炭の農地施用は、化学肥料や農薬の使用量低減、土壌の健康増進、そして地球温暖化対策として重要な役割を果たすと位置づけられています。政府は、バイオ炭の生産・利用を促進するための技術開発や普及支援策を推進しています。
バイオ炭の農地施用によるメリットと推進策
バイオ炭を農地に施用することには、以下のようなメリットがあります。
- 土壌改良効果: 保水性、通気性、保肥力の向上、土壌微生物の活性化。
- 作物の生育促進効果: 根張りの改善、養分吸収の促進、収量増加。
- 環境負荷低減効果: 化学肥料の使用量削減、温室効果ガスの排出抑制(炭素貯留)。
- 病害虫抑制効果: 一部の病害虫に対する抵抗力向上。
これらのメリットを活かし、バイオ炭の農地施用を推進するためには、技術開発による生産コストの低減、施用方法の確立、効果的な普及啓発活動、そして農家への経済的支援策などが重要となります。
現状と課題について
バイオ炭の利用は、持続可能な農業への貢献が期待される一方で、現状ではいくつかの課題も存在します。
- 生産コスト: バイオ炭の生産には、原料の収集・運搬コストや炭化設備の導入・運営コストがかかります。
- 品質の安定化: 原料の種類や炭化条件によってバイオ炭の品質が変動するため、安定した品質のバイオ炭を供給する体制が必要です。
- 施用方法の最適化: 作物や土壌の種類に応じた最適なバイオ炭の施用方法や施用量の研究が必要です。
- 普及啓発: バイオ炭の効果や利用方法に関する農家の理解を深めるための普及啓発活動が重要です。
キユーピーとカゴメによる未利用野菜資源のバイオ炭化に関する共同研究は、食品業界が連携し、持続可能な農業の実現と環境負荷低減に貢献する新たな一歩と言えます。この研究を通じて、高水分含有の野菜資源を効率的にバイオ炭化する技術や、そのバイオ炭の農業利用による効果が実証されれば、野菜生産における新たな資源循環モデルが確立される可能性があります。両社の取り組みは、他の食品関連企業や農業分野においても、未利用資源の有効活用と環境負荷低減に向けた取り組みを加速させる契機となることが期待されます。今後の研究の進展に注目が集まります。