エコリクコラム

2025.5.20
トピック
環境省、「生物多様性見える化システム」試行運用開始 – 企業価値と自然資本の統合へ
2025年4月21日、環境省は、企業の事業活動が生物多様性に与える影響や、生物多様性への依存度を可視化する「生物多様性見える化システム」の試行運用を開始しました。このシステムは、企業の持続可能性への取り組みを推進し、自然資本と企業価値の統合を促進する画期的なツールとして注目されます。
30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは
「30by30」は、2030年までに陸と海の30%以上を保全地域とする国際的な目標です。生物多様性の損失を食い止め、生態系の機能を維持するために、世界各国がこの目標達成に向けて取り組んでいます。日本もこの目標を掲げ、「民間の取組等によって保全に貢献する区域(OECM)」を含め、効果的な保全を進める方針です。
30by30はなぜ必要?
地球上の生物多様性は急速に失われており、気候変動と並ぶ深刻な地球規模の課題となっています。生物多様性の損失は、生態系サービスの低下を招き、食料、水、エネルギーなど、私たちの社会経済活動の基盤を揺るがします。企業にとっても、原材料の供給不安定化、サプライチェーンの寸断、自然災害リスクの増大など、様々な形で影響が及ぶ可能性があります。30by30の達成は、これらのリスクを軽減し、持続可能な社会と経済を構築するために不可欠です。
生物多様性見える化システムの試行運用開始の背景及び目的
環境省が開始した「生物多様性見える化システム」の試行運用は、企業の事業活動と生物多様性の関係性を明確にし、30by30の目標達成に向けた企業の貢献を促進することを目的としています。これまで、企業が自社の事業活動が生物多様性にどのような影響を与えているかを把握し、適切な対策を講じるための共通基盤が不足していました。
このシステムを利用することで、企業は以下のことが可能になります。
- 事業活動の生物多様性への影響を評価: 自社の事業活動が、生態系や野生生物にどのような影響を与えているかを把握できます。
- 生物多様性への依存度を分析: 原材料の調達や事業活動の維持において、どのような自然資本に依存しているかを理解できます。
- リスクと機会の特定: 生物多様性の損失が事業に与えるリスクや、生物多様性の保全・回復に取り組むことによる新たな事業機会を特定できます。
- 情報開示の高度化: 生物多様性に関する取り組み状況や成果を、投資家やステークホルダーに対して透明性高く開示できます。
30by30のもたらすメリット
企業が30by30に貢献し、生物多様性の保全・回復に取り組むことは、以下のような多岐にわたるメリットをもたらします。
- 企業価値の向上: ESG投資の拡大により、生物多様性への取り組みは企業の評価を高める重要な要素となります。
- リスク管理の強化: 自然災害リスクの低減、サプライチェーンの安定化など、事業継続におけるリスクを軽減できます。
- 新たな事業機会の創出: 生物多様性を活用した新製品・サービスの開発、自然資本への投資など、新たなビジネスチャンスが生まれます。
- レピュテーションの向上: 環境意識の高い消費者や社会からの信頼を得やすくなります。
- 政策対応の円滑化: 今後強化される可能性のある生物多様性関連の規制や政策に、先手を打って対応できます。
現状の課題と今後の課題
「生物多様性見える化システム」はまだ試行運用段階であり、普及にはいくつかの課題が考えられます。
- データの質と入手性: 企業が正確なデータを収集し、システムに入力するための負担や、データの標準化が課題となります。
- 評価手法の確立: 多様な産業や事業活動における生物多様性への影響を、共通の指標で評価する手法の確立が必要です。
- 企業の理解と活用促進: 企業がシステムのメリットを感じることができ、積極的に活用を促すための啓発活動が重要です。
今後は、これらの課題を克服し、より多くの企業が「生物多様性見える化システム」を活用し、30by30への貢献を加速していくことが期待されます。
環境省が開始した「生物多様性見える化システム」の試行運用は、企業が事業活動と生物多様性の関係性を理解し、持続可能な経営へと舵を切るための重要な一歩です。30by30の目標達成に向け、企業は積極的にこのシステムを活用し、自然資本を考慮した経営戦略を策定することにより、生物多様性の保全・回復への貢献が、社会全体の持続可能性を高めるだけでなく、企業の長期的な成長と企業価値の向上にも繋がるでしょう。